高齢者の7割が悩む便秘…正しい便秘薬の選び方と服用時の注意点を解説
便秘は単なる排便の不調ではなく、さまざまな健康上のトラブルにつながる可能性があるため、適切な対処が重要です。特に高齢者は加齢に伴う身体機能や生活習慣の変化により、便秘になりやすい傾向にあります。
そこで、本記事では、高齢者が便秘になりやすい原因やリスクを述べたうえで、便秘薬の種類と正しい使い方をわかりやすく解説していきます。
高齢者は便秘になりやすい
高齢者は便秘になりやすい傾向にあります。
「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」によると、便秘であるという自覚がある人は全年齢の平均だと35.9%ですが、65歳以上に限ると71.2%に増加します。つまり、高齢者の半数以上が便秘に悩まされているのです。
高齢者が便秘になりやすい理由
高齢者が便秘になりやすい原因は、加齢に伴う身体機能の変化に大きく関係しています。
まず最も大きな要因として、腸の蠕動運動(ぜんどううんどう:腸が波のように動いて内容物を運ぶ動き)の低下が挙げられます。年齢とともに腸の筋力が衰え、便を押し出す力が弱くなっていくのです。
また、加齢により体内の水分量も減少していきます。高齢者は若い世代に比べて喉の渇きを感じにくく、必要な水分量を十分に摂取できていないことが多くあります。水分不足は便を硬くする原因となり、排便をより困難にしてしまいます。
さらに、高齢者は食事量も減少しがちです。特に食物繊維の摂取不足が問題となっています。食物繊維は腸内細菌の餌となり、腸の働きを助ける重要な栄養素です。その不足は便秘を引き起こす要因となります。
加えて、加齢による筋力低下や関節の痛みにより、外出や運動を控えめにする高齢者が増えています。適度な運動は腸の働きを活発にし、自然な排便を促す効果がありますが、運動不足によってその機会が失われているのです。
このように、さまざまな要因から高齢者は便秘になりやすいのです。
便秘のリスク
高齢者の便秘は、単なる不快な症状にとどまらず、様々な健康上のリスクをもたらします。慢性的な便秘による腹部膨満感は食欲を低下させ、必要な栄養が摂取できなくなる原因となります。その結果、体力や免疫力の低下を招き、健康状態の悪化につながる可能性があります。
便秘による強いいきみは血圧を上昇させるため、循環器系への負担が増加します。特に高齢者では、この負担が健康に影響を与える可能性があるため、注意が必要です。
さらに、便秘が長期化すると、憩室炎(けいしつえん:腸の壁にできたポケット状の膨らみに炎症が起きる状態)や痔核(じかく:いわゆる痔)などの合併症を引き起こすリスクも高まります。これらの症状は、高齢者の日常生活の質を著しく低下させる要因となります。
そのため、生活習慣の改善等を試みながら解消を試みますが、便秘がひどい場合には便秘薬を活用することもあります。
便秘薬とは
便秘薬は、便通を改善する目的で使用される医薬品です。その種類や作用の仕組みは様々で、症状や個人の状態に応じて適切な選択が必要となります。
高齢者の場合は特に、他の薬との飲み合わせや、持病への影響も考慮しなければなりません。他の医院で処方されている薬や市販薬のことも必ず医師に伝えた上で服用するようにしましょう。
便秘薬の種類と特徴
便秘薬には大きく分けて、西洋薬と漢方薬があります。
西洋薬とは化学的に合成された成分や精製された天然成分を用いた薬であり、症状に直接作用することで比較的速やかに効果を発揮するのが特徴です。大きく分けると腸を直接刺激して蠕動運動を促進する刺激性下剤と自然な排便を促す機械性下剤(非刺激性下剤)の2種類があります。
漢方薬は、西洋薬とは異なり、天然の生薬を用いており体質や便秘の原因に応じて選ばれます。冷えやストレス、加齢など便秘の原因に応じた処方があるため、体質改善も期待できます。
詳しくは後述しますが、それぞれ特徴が異なるため症状や体調に合わせて使い分けることが重要です。
刺激性下剤とは
刺激性下剤は、腸の粘膜を刺激することで蠕動運動を活発にし、排便を促す医薬品です。主にビサコジルやセンノシドといった成分が使用されており、服用後6~12時間程度で効果が現れます。
刺激性下剤のメリット・デメリット
刺激性下剤の最大のメリットは、効果の確実性と即効性です。
便秘が重症化して早急な対応が必要な場合や、他の便秘薬では効果が不十分な場合に有効です。また、錠剤やカプセルなど服用しやすい形状が多く、使用方法も比較的簡単です。
一方で、デメリットとしては習慣性の問題が挙げられます。長期間使用していると、腸が刺激に慣れてしまい、徐々に効果が弱くなっていく可能性があります。
また、過度な使用は腸の正常な働きを低下させ、かえって便秘を悪化させることもあります。
刺激性下剤の正しい使い方
刺激性下剤は、基本的に一時的な便秘の改善に使用します。就寝前に服用することで、翌朝の自然な排便を促すことができます。連続使用は避け、症状が改善したら徐々に使用頻度を減らしていくことが推奨されます。
服用量は必ず添付文書の指示に従い、決して多量に服用しないようにします。特に高齢者は、少量から開始して様子を見ながら調整することが重要です。
また、水分を十分に取りながら服用することで、より効果的な便通改善が期待できます。
刺激性下剤の注意点
心臓病や腎臓病などの持病がある場合は、電解質バランスが乱れる可能性があるため、医師や薬剤師に事前に相談しておくことが不可欠です。下痢や腹痛などの副作用が現れた場合は、すぐに使用を中止し、医療機関を受診しましょう。
さらに、高齢者の場合は高齢者は体内の水分量が少なく、電解質バランスが崩れやすい状態にあります。刺激性下剤の使用により、体内のカリウムが著しく低下するリスクがあり、特に心臓病や高血圧の薬を服用している場合は危険です。
また、高齢者の腸は回復力が低いため、刺激性下剤への依存が起きやすく、一度依存すると自然な腸の動きを取り戻すのが難しくなります。医療機関に都度確認しながら服用するようにしてください。
機械性下剤(非刺激性下剤)とは
機械性下剤は、腸を直接刺激せず、便の性状を改善することで自然な排便を促す薬剤です。主に、浸透圧の作用で腸内に水分を集める「浸透圧性下剤」と、便のかさを増やす「膨張性下剤」の2種類があります。
浸透圧性下剤の代表的な成分である酸化マグネシウムは、腸内で水分を引き寄せ、便を軟らかくする働きがあります。一方、膨張性下剤は食物繊維のような成分を含み、腸内で水分を吸収して膨らむことで、便のかさを増やし、腸を刺激します。
機械性下剤のメリット・デメリット
機械性下剤の最大のメリットは、腸への負担が比較的少ないことです。自然な排便に近い形で便通を改善できるため、高齢者の便秘治療に適しています。また、習慣性が低く、長期的な使用が可能という特徴もあります。
デメリットとしては、効果の発現までに時間がかかることが挙げられます。刺激性下剤と比べると、便通改善までに1~2日程度を要することもあります。また、十分な水分摂取が必要不可欠で、水分が不足すると便秘がかえって悪化する可能性があります。
機械性下剤の正しい使い方
機械性下剤は、規則正しく継続して服用することが重要です。効果が現れるまでに時間を要するため、すぐに効果が感じられないからといって量を増やすことは避けましょう。
特に重要なのが水分摂取です。1日1.5リットル程度の水分を意識的に取ることで、薬の効果を最大限に引き出すことができます。お茶やスープなども水分と考えて差し支えませんが、カフェインの多い飲み物は利尿作用があるため、過度な摂取は控えめにします。
また、食事の際に服用することで、より効果的に便通を改善できます。特に食物繊維を多く含む食事と組み合わせることで、自然な形での排便促進が期待できます。
機械性下剤の注意点
機械性下剤は比較的安全性の高い薬剤ですが、いくつかの注意点があります。
まず、腎機能が低下している方は、電解質バランスが崩れる可能性があるため、医師に相談の上で使用する必要があります。
また、服用後にむくみや尿量の減少が見られた場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。薬の作用で体内の水分バランスが乱れている可能性があります。
お薬を飲んでいる方は、機械性下剤が他の薬の吸収に影響を与える可能性があるため、服用のタイミングに注意が必要です。特に、甲状腺ホルモン剤や抗生物質などとは2時間以上間隔を空けて服用することが推奨されています。
また、特に高齢者が服用する場合、粉末タイプの機械性下剤(特に酸化マグネシウム)は、高齢者が服用する際に誤嚥を起こすリスクがあります。水分と一緒にしっかりと服用する必要があります。
機械性下剤は十分な水分摂取が必要ですが、高齢者は水分摂取量が少なくなりがちです。水分不足の状態で服用すると、かえって便秘を悪化させたり、腸閉塞を起こすリスクがあります。
漢方便秘薬とは
また、上記の薬ではなく、より自然な自然な形での便通改善を行いたい場合には漢方薬という選択肢もあります。
漢方薬は、自然由来の生薬を組み合わせて作られる医薬品です。西洋薬と異なり、患者の体質や症状に合わせて選択することで、より自然な形での便通改善が期待できます。
なお、西洋薬の便秘薬が単一の有効成分で作られるのに対し、漢方薬は複数の生薬を組み合わせることで、便秘の症状だけでなく、関連する不調も同時に改善することを目指します。
代表的な漢方便秘薬
大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう) は、基本的な便秘薬として知られ、大黄の腸管刺激作用と甘草の副作用軽減効果を組み合わせています。比較的症状の軽い便秘や、便秘初期の方に適しています。急な便秘や、痔核による出血がある場合にも使用されます。
麻子仁丸(ましにんがん)は 慢性的な便秘に効果を発揮します。特に、腸の働きが低下して便が硬くなった状態や、お腹が張って食欲が低下している場合に適しています。また、のぼせや不眠を伴う便秘にも効果的です。
桃核承気湯(とうかくじょうきとう) は、便秘に加えて、のぼせや肩こり、イライラなどの症状がある場合に適しています。
漢方便秘薬のメリットとデメリット
漢方便秘薬のメリットは、なんといっても副作用が比較的穏やかである点が挙げられます。
漢方薬は複数の生薬を組み合わせることで、互いの作用を調整し合い、過度な効果や副作用を抑制する特徴があります。このため、高齢者や体力の低下した方でも比較的安心して服用できます。
第二のメリットは、便秘の症状だけでなく、全身の状態を整える効果が期待できる点です。例えば、便秘に伴う食欲不振や疲労感、不眠といった症状も同時に改善されることがあります。また、冷えやむくみなどの不調も併せて緩和される傾向にあります。
一方で、デメリットもいくつか存在します。最も大きな課題は、効果の発現に時間がかかることです。症状の改善までに1週間から10日程度を要することが多く、急な便秘には即効性のある西洋薬のほうが適している場合があります。
また、個人の体質との相性が効果に大きく影響するという特徴があります。同じ症状でも、人によって効果の現れ方に差があり、体質に合わない場合は十分な効果が得られないことがあります。
さらに、生薬成分による相互作用の可能性も考慮する必要があります。特に複数の医薬品を服用している高齢者の場合、予期せぬ相互作用が起こる可能性があるため、医師や薬剤師への相談が不可欠です。甘草などの生薬では、血圧や電解質バランスに影響を与える可能性もあります。
価格面では、西洋薬と比べてやや高価である点も、デメリットの一つとして挙げられます。また、保険適用の有無も処方によって異なるため、経済的な負担を考慮する必要があります。
服用方法に関しても、粉薬が多く、高齢者にとっては服用が難しい場合があります。水との飲み合わせが重要で、十分な水分摂取が必要となるため、水分制限のある方には注意が必要です。
まとめ
今回は現在主に使用されている2種類の便秘薬について解説しましたが、高齢者の便秘治療において、便秘薬の選択は慎重に行う必要があります。
どのような便秘薬を服用するにせよ、かかりつけの医師や薬剤師に必ず相談したうえで服用してください。
便秘に悩む高齢者が増えている現代社会において、適切な薬剤の選択と使用は、生活の質を維持・向上させる重要な要素となっています。
しかし、薬による対処は、あくまでも総合的な便秘対策の一部であることを忘れてはいけません。規則正しい生活習慣の維持など、「便秘にならない工夫」を忘れないようにしましょう。