筧利夫「イライラしっぱなし」ーー『コーラスライン』作詞家の自伝的ミュージカル『クラスアクト』で敏感な人物を「憑依的」に熱演中
トニー賞を受賞した大ヒットミュージカル『コーラスライン』の作詞家として知られるエドワード・クレバン。彼の成功と挫折の物語を、自身が作曲した楽曲で彩るブロードウェイミュージカル『クラスアクト』が5月30日(木)の東京・サンシャイン劇場での開幕を皮切りに、8月3日(土)の長崎ブリックホールまで16都市にて上演中だ。主人公のエドを演じるのは筧利夫。各地での公演の合間に行ったインタビューでは、「常にイライラしている」と語った筧。その真意とは。
――すでに東京公演を終えられ、地方公演が始まっていますが、この作品のどういったところに魅力を感じられますか?
魅力があるとしたら、エドワード・クレバンさんの未発表の楽曲の魅力でしょうね。なぜかというと、このお芝居は、その楽曲を世間の人に知ってもらうためのミュージカルなんです。そのためにストーリーがあるので。だから、普通のお芝居とは成り立ちがちょっと違うんですよね。普通は、まずお芝居があって、そのお芝居が煮詰まってきた時に、その思いを歌で表現する構成ですが、この作品は楽曲ありきで、エドワード・クレバンさんの楽曲を紹介するために、その間に芝居がある。その芝居というのは、エドワード・クレバンさんの人生なんです。
――メインとなる楽曲は、どんなものがあるのでしょうか?
エドワード・クレバンさんが、当時お付き合いのあった人たちに向けて密かに作っていた楽曲です。作品中にも出てきますが、「この楽曲を使って、お芝居を作ってほしい」という遺言もあるんですね。それで当時の仲間がこのミュージカルを作ったんです。エドワード・クレバンさんは作詞家として売れたけど、作曲家としては売れなかった。それだけに、作曲家エドワード・クレバンの魅力を世の中に知らしめたいという弔い合戦みたいなところもあります。ご本人も「僕は作曲家なんだ」と、ずっとそう思って、芸術家であり続けたいと願いながらも亡くなってしまったのです。
――エドワード・クレバンさんのそういったもどかしさも劇中に描かれていますか?
そうですね。そういう葛藤はあります。エドワード・クレバンさんの苦悩の歴史も描かれています。ただ、ステージングとしては、すごくミュージカルらしいものになっていますよ。歌も多いです。立て続けに歌っています。歌って、一息ついて、お芝居が始まったと思ったらもう次の歌に入って……と、特に1幕は1時間20分歌いっぱなし、しゃべりっぱなしです。2幕で少し落ち着いて、芝居のシーンが多くなっていきます。この作品がブロードウェイで初演されたのは20年前くらいなのですが、小劇場っぽい演技のシーンもあるんですよ。
――元々の演出がそうなのでしょうか?
どうなんでしょうね。大元の芝居でそのシーンを観たことがないので、アメリカの俳優がこういうふうにやっていたのかなと疑問ではあります。20年前くらいに俺らもこんな芝居やってたなと思うような、ちょっとおどろおどろしい感じで、僕ら世代からすると懐かしいですね。大元の芝居は、基本的にはスーツ系の洋服でやっているんだけど、僕らは着ぐるみを着たりもするので、極めて劇団の芝居っぽいんですよね。そうですね、第三舞台っぽいかな。第三舞台は着ぐるみも着ていたし。演技的にも、ちょっと第三舞台っぽいかもしれません。
――実在した人物を演じられる点については、いかがですか?
責任感しかないです。俺は、歌はうまくないけど、一生懸命やらせてもらうという、それだけしかないです。
――公式サイトの動画コメントで「いたこになる」とおっしゃっていましたが、「いたこ」は結構、来ていますか?
かなり進んでいますね。このお芝居の稽古を始めて、特に本番になってから、本番以外の時間もね、イライラしっぱなしなんですよ。エドワード・クレバンさんは敏感な方なので、イライラしていたと思うんですよ。だからこそ、いい詞が書けるんですよね。音楽は多分、自分を慰めるために作っていたところがあると思うんです。「俺、ずっとイライラしてるな……」と最近、自覚しました(笑)。
――では、「クラスアクト」とは、「一流の人」という意味があるのですが、筧さんが思われる「一流の人」とは、どんな人ですか?
一流の人は、とにかく他の誰よりも努力をしていると自負できる人。一流の人はみんなそう思っていますよ。「俺は誰よりも努力している」なんて言わないけど、努力せずにやれている人はいないと思いますね。もともと才能があって、なおかつ努力して、努力の方法を探っている。だって、同じ時間をかけたって、10時間かけるより3時間でできたらその方がいいじゃないですか。だから、なるべく短時間で効率のいい方法を探して、それで長時間やる人が一流の人ですね。
――『クラスアクト』は全国各地で上演されますが、関西には7月26日(金)の神戸国際会館こくさいホールと、7月27日(土)の南海浪切ホールの2公演で来られます。関西のお客さんに何か期待されることはありますか?
関西の方はどっちかというと笑い慣れている方が多いと思うので、面白いところは普通に笑っていただきたいなと思います。面白かったら笑ってくれて構わないし、声を出してくれても構いません。
――最後に、神戸での公演を楽しみにされている方にメッセージをお願いします。
ネットで調べてもらえば『コーラスライン』のことも、エドワード・クレバンさんのことも分かるので、あらすじとか、作品の中身に関しては下調べしておいた方が入り込みやすいと思います。入り込めないと、笑えるところも笑えないので、下調べをお薦めします。生の舞台の楽しみは目の前で演じている人を観ること。舞台にハマる理由もそこしかありません。決して安くはないチケット代を出して、劇場に足をお運びくださって、同じ空間で同じ時間を一緒に過ごすわけなので、どうせだったら楽しく過ごそうじゃありませんか。僕たちも真剣に、でも楽しくお芝居をするので、劇場でいい出会いをしたいですね。
取材・文=Iwamoto.K