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自分の街を知ることからはじめるための建築家・松岡恭子 待望の新著『街を知る 〈福岡・建築・アイデンティティ〉』

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『街を知る 〈福岡・建築・アイデンティティ〉』著:松岡恭子

前川國男、磯崎新、黒川紀章、伊東豊雄…。日本の近代建築を牽引してきたスター建築家の作品が福岡には点在している。
そう、福岡は、重要建築物が建ち並ぶ文化都市なのだ。

しかし、福岡に住みながらこの事実を知らない人は案外多いのではないだろうか。日本人建築家だけではない、アルド・ロッシ、レム・コールハース、マイケル・グレイヴスなど世界的に有名な建築家の作品も福岡市内を歩けば簡単に目にすることができる、福岡はそれだけでも文化都市だと誇ってよいはずなのだが、現存する建物ばかりではなく、天神ビッグバンにおいて新たな建築が生まれようが、博多駅前にあった磯崎新設計の旧西日本シティ銀行本店や福岡市大名にあった村野藤吾のガソリンスタンドなど、歴史的な建物が壊されようが市民の間で建築の議論が盛り上がる機会も少ない。

Photo 針金洋介

旧西日本シティ銀行本店 設計:磯崎新
福岡市博多区博多駅前3-1-1(建て替えのため2021年に解体、現存せず)

Photo 針金洋介

ぐりんぐりん
設計:伊東豊雄 福岡市東区香椎照葉4丁目(アイランドシティ中央公園内)

Photo 針金洋介

天神ビル 設計:岩本博行(竹中工務店)
福岡市中央区天神2丁目12-1

そこでこの度、福岡の建築を語る上での最良のナビゲーターが福岡の建築の魅力と都市の未来のヴィジョンまでを視野に入れた興味深い新著を刊行した。『街を知る 〈福岡・建築・アイデンティティ〉』。著者は建築家の松岡恭子。「毎日暮らす見慣れた街の「普通」の中にどれだけの素晴らしいものが隠れているか、それを示したかった」と語るこの本は、建築写真家・針金洋介撮影の写真を添え12月に発売された。

『街を知る 〈福岡・建築・アイデンティティ〉』

『街を知る 〈福岡・建築・アイデンティティ〉』は、松岡恭子が都市や建築をテーマに10年間連載を続けている産経新聞のコラムをまとめたもの。「本にしようと思ったきっかけは、多くの人に読んで欲しいというより、自分の思考を整理するためにも1冊の本として残しておきたいと思ったからです。連載時の原稿を一から推敲していく作業は想像していたより大変でした」と笑う。

福岡市に生まれた松岡恭子は、子どもの頃は作家になることを夢みる少女だった。十代の頃は女性として社会で生きていくためには資格を取って弁護士になろうと思ったこともあったという。一方で両親の好みもあり、幼い頃から家には美術書やデザイン本がいつもそばにあった。ある時、「建築とは総合芸術である」という一文を見つけ建築の道を志したという。九州大学建築学科を卒業し、東京、ニューヨークで建築について学びキャリアをスタートさせる。

建築家・松岡恭子

この本には、福岡に現存する、あるいはすでに取り壊されてしまった重要な建築が多数紹介されている。

冒頭に紹介されているのはアクロス福岡。天神1丁目1番地にある旧福岡県庁跡地に建つ複合施設だ。中央公園側の「山」をモチーフにしたステップガーデンはインパクト抜群の存在感。アルゼンチン生まれでアメリカで活躍する建築家エミリオ・アンバーツと日本設計、竹中工務店による設計。「今時の環境に配慮した建築に見えますが、当時のアンバーツはもっと大胆に考えていたと思います。そもそも人間は自然の一部なのだ、都心に緑が溢れるのは当たり前だ、と。ダイナミックで破天荒なアクロス福岡をもっと福岡市民は誇りに思っていいと思います」と松岡は語る。

今、福岡の建築のトピックスは?と尋ねると「ホテル イル・パラッツォのリニューアルですね」という答え。1989年に開業したこのホテルは、設計アルド・ロッシ、内装デザインを内田繁が手掛け当時大きな話題となった。その後オーナーが何度か代わり改装をくり返した。今回、新オーナーの意向で34年ぶりにオープン当時のイル・パラッツォが復活した。「リニューアルで建築を元に戻す珍しいケースです。素晴らしい事例になると思います」。他には、福岡出身でOMAニューヨークを率いる重松象平の設計による天神ビジネスセンターについては、「南側のもう一棟が完成したのちの評価になると思います」。「西鉄が手掛ける天神の新福岡ビルも規模の大きなプロジェクトです。また、大濠公園には新しい福岡県立美術館が計画されていますね。誰もが知る隈研吾さんの設計に決まりました」。

 新著には、福岡だけでなく松岡恭子が考える都市の社会課題を考える上で参照できる海外の都市、米ニューヨークやポートランド、スペインのバスク地方なども取り上げられている。

現在、松岡恭子は父から受け継いだ不動産会社の代表と設計事務所スピングラスを率いる傍ら、建築・デザインを通じて福岡の街を考える「福岡建築ファウンデーション」や九州の魅力を紹介し交流の場を生む社会実験『One Kyushuミュージアム』などの活動も展開している。これらの活動を通した彼女の福岡の都市文化への貢献は計り知れない。

「単に建物の集合体だけではただの成りゆきで出来た街になってしまいます。私たちの街を自分で創っていくのだという想いが福岡市民には少し足りない気がします。今、まちづくりに必要なのは、人と人とが出会いモノやコトを生み出すムーブメントを横に繋げていくようなビジョンです。まちづくりを行政や大企業など人任せにするのではなく、建築や都市についてもっと自由に語り合わなければいけないと思います」。

 わたしの街は、わたしたちが創るべきなのだ。
『街を知る』から始めよう。

著者:プロフィール

松岡恭子
1964年福岡市生まれ。建築家。
株式会社スピングラス・アーキテクツ代表取締役、株式会社大央代表取締役社長。NPO法人福岡建築フ ァウンデーション理事長、一般社団法人都心空間交流デザイン代表理事。九州大学建築学科卒業。東京都立大学大学院、コロンビア大学大学院修士課程修了後、ニューヨークで設計活動を開始。様々な建築物やプロダクトに加え、公園・橋梁など大規模な土木構造物のデザインも手がける。国内外の大学でデザイン教育、地域づくりにも従事。主な受賞歴:日本建築学会建築九州賞作品賞、日本土木学会田中賞、他多数。

【本書で紹介する主な項目】

[街をかたちづくる建築] アクロス福岡 / 福岡銀行本店(黒川紀章) / 西日本シティ銀行本店(磯崎新) / ぐりんぐりん(伊東豊雄) / 村野藤吾と八幡 / 福岡市美術館(前川國男) / 大濠公園能楽堂(大江宏) / 西鉄グランドホテルと天神ビッグバン / 天神ビル / 福岡ビル / ヴォーリズと西南学院
[街の記憶を読み、景観をつくる] 天神地下街一長生きするデザイン / 都市景観の一要素一バスのデザイン / ヨーロッパのパサージュと日本のアーケード / 都市の文化力とは何か一ポートランド / ニューヨーク・ハイライン / 更新を続ける周縁一コペンハーゲン /世界一の美食の街を訪ねて一スペイン・バスク地方 / 日本統治時代の建物を生かす台湾 / 新北九州空港連絡橋 / 熊本百年の計一都市デザインの真髄 / 建築は文化、建築は社会資産 / 私がデザインした集合住宅-街に込めた想い /自分の街への誇りを育むーオープンハウスネットワークジャパン / 訪れたくなる都心をつくる社会実験-One Kyushu ミュージアム

『街を知る 〈福岡・建築・アイデンティティ〉』
[著者]松岡恭子(建築家)
[出版社]古小烏舎
46判・並製・160頁 / 1760円
ISBN 978-4-910036-05-2 C0052

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