内部通報者への不当な扱いに罰則を導入するかを議論、消費者庁の検討会 制度の理解不足も指摘
消費者庁は10月2日、「公益通報者保護法」の見直しに関する有識者検討会を開催し、内部通報者への不当な扱いに対する新たな罰則の導入について議論を行った。同法は不正を内部通報した者を保護する目的で制定されたが、現行法には罰則規定がなく、企業や自治体における通報者への不当対応が疑われるケースが増えている。
今回の検討会では、経済団体や関係者からのヒアリングが行われ、日本経済団体連合会と日本弁護士連合会がそれぞれの立場から意見を述べた。
通報の内容が幅広く、法の対象となるか判断が難しいケースも
日本弁護士連合会からは、弁護士会に寄せられた相談内容の集計結果を説明。通報内容が幅広いことや、寄せられた相談の38%において、通報が公益通報者保護法の対象となるかどうかの判断が難しかったケースがあると説明した。
また、通報者が通報後に受けた不利益の内容として、懲戒処分のように明確な不利益を受けたケースに加え、降格や配置転換、昇格の抑制といった「不利益取り扱いの有無」から問題となる相談も多いと報告された。
さらに、通報に裏付けとなる証拠資料がある場合、その半数以上が資料を持ち出せているが、36%の相談者は資料を持ち出していないことも指摘された。
内部通報制度の概要
内部通報制度は、企業内の不正行為を早期に発見し、企業および従業員を守るために設けられた仕組みである。公益通報者保護法により、従業員数が300人を超える企業には内部通報制度の導入が義務付けられており、300人以下の企業においても制度の整備が求められている。通報先は、役務提供先(1号通報)、行政機関(2号通報)、報道機関(3号通報)の3つがあり、通報者は状況に応じて通報先を選択することが可能である。
通報を妨害する行為への罰則の必要性を議論
9月に発表された検討会の中間整理では、通報を妨害する行為に対して罰則を設けるべきだとの意見が示された。具体的には、労働者に対し「公益通報をしないことを約束させる」などの行為は法の趣旨に反するものであり、アメリカやイギリス、フランスなどでは法律で禁止されている。このため、日本でも明文規定を設けるとともに、違反時の行政措置や刑事罰を導入すべきという意見が出されている。
現行の公益通報者保護法では、役務提供先から通報を阻止される場合のみ保護されているが、通報自体を妨害する行為への具体的な禁止規定は存在しない。そのため、妨害行為に対する罰則導入の必要性が今後の重要な論点となっている。
濫用的通報への対応も議論に
また、公益通報者保護法に基づく要件を満たしていない内部告発である「濫用的な通報」や、虚偽の通報に対する罰則が存在しないことも課題として指摘されている。
中間整理では、大企業の内部通報窓口に公益通報に該当しない通報が多数寄せられている現状が報告された。これにより、通報窓口の負担が増大し、重要な通報が見逃されるリスクがあることから、虚偽通報に対する罰則導入の検討が必要とされている。EU指令では虚偽通報に対する罰則が規定されていることもあり、日本でも同様の措置を講じるべきという意見が出された。
ただし、罰則を導入することで通報者が萎縮し、本来必要な通報が減少する懸念もあるため、メリットとデメリットのバランスを考慮する必要がある。
検討会では、年内に最終的な報告書をまとめ、罰則導入の是非などについて結論を出す見込みだ。
帝国データバンク(東京都港区)が2023年11月に1万1506社を対象に実施した調査では、公益通報者保護制度に対応していないと回答した企業は66.4%に上ったことが明らかになった。また、41.2%の企業は、公益通報の受付窓口を「設置する予定はない」と回答している。
月刊総務2022年5月号では、特集「通報者も企業も守る 改正公益通報者保護法への対応」で、公益通報者保護法のポイントを解説している。
検討会の資料は、消費者庁のホームページで確認できる。