Yahoo! JAPAN

デイサービス経営のポイントを解説!事業存続のための戦略とは?

「みんなの介護」ニュース

阿部 洋輔

デイサービスの現状分析

デイサービス業界の市場動向

デイサービス(通所介護)は、高齢化社会の進展に伴い、重要な社会サービスとしての役割を担っています。

居宅サービスにおけるデイサービスでは、2023年時点で24,577事業所が全国で運営されており、地域密着型デイサービスでは19,156事業所、認知症対応型デイサービスでは3,505事業所が運営されています。

利用者数については、地域密着型・認知症対応型を合わせると2023年時点で約222万人がデイサービスを利用しており、高齢者の在宅生活を支える中核的なサービスとなっています。

また、2024年度に行われた介護報酬改定は、デイサービス業界に新たな変化をもたらしていると考えられます。主な改定のポイントは以下の通りです。

基本報酬の見直し 基本報酬がすべての施設規模・要介護度において1回あたり数単位の引き上げとなりました。 個別機能訓練の要件変更 2024年度の介護報酬改定では、個別機能訓練(Ⅰ)の人員配置要件が見直され、これにより、小規模事業所においても個別機能訓練加算を算定しやすくなりました。 入浴介助に関する新基準 入浴介助を行う職員において、入浴介助に関する研修が義務化され、人材育成面での新たな取り組みが必要となっています。

これらの改定により、デイサービス事業者には、サービスの質の向上と経営の効率化の両立が、より一層求められることになるでしょう。

デイサービスの収支状況

デイサービスの経営状況を収支面から見ていくと、厳しい実態が浮かび上がってきます。

直近の2023年度に行われた介護事業経営実態調査によると、赤字となっているデイサービス事業所は一定の割合で存在しています。また、通所介護の税引き前の収支差率は2022年度決算において1.5%となっており、全介護サービスの平均よりも低い水準となっています。

この収支状況の背景には、以下のような要因があります。

収入面での課題 介護保険による収入が収入全体の約70〜90%を占め、残りの10〜30%は利用者の自己負担やその他の支援金からの収入となっています。この収入構造は、制度改正の影響を受けやすい特徴があります。 支出面での課題 人件費や設備投資が大きな負担となっており、特に人材確保のためのコストが増加傾向にあります。収支の改善に苦戦しているデイサービス経営者も多くいます。

このような状況を踏まえ、デイサービス事業者は収支のバランスを改善するための戦略的なアプローチが求められています。具体的には、以下の取り組みが考えられます。

サービス内容の見直しによる収益性の向上 新たなサービスの開発による収入源の多様化 業務効率化によるコスト削減 加算取得の最適化による収入増加

コロナ禍がデイサービス経営に与えた影響

新型コロナウイルス感染症は、デイサービス事業者の経営に大きな影響を及ぼしました。

主な影響は、以下の3つの側面で顕著に表れています。

利用者数への影響 株式会社NTTデータ経営研究所によると、感染への不安から利用を控える高齢者がコロナ流行時期にかけて増加しており、2022年度には68.9%の事業所が「利用控えがあった」と回答しています。これは事業所の稼働率に直接的な影響を与え、収益を圧迫する要因となりました。 運営コストの増加 手指消毒や検温などの基本的な感染対策、換気設備の強化、感染対策用品の継続的な購入など、予期せぬコストが発生し、特に小規模事業所では大きな負担となりました。 サービス提供方法の変更 感染拡大防止の観点から、多くの事業所が従来のサービス提供方法の見直しを迫られました。事業所の休業や利用人数の制限といった直接的な対応に加え、訪問サービスへの切り替えや電話による安否確認など、新たなサービス提供方法を模索する動きが見られました。

この状況への対応として、デイサービス事業者は、感染防止対策の徹底やオンラインサービスの導入、補助金活用による収益確保を図りました。

回復に向けた動きがみられる事業者も増えてきていますが、現在においても、利用者数が回復しきっていないケースや、新しい生活様式に適応したサービス提供が必要とされる場合があります。

デイサービス経営が直面する2つの課題

人材確保・定着の難しさ

デイサービスを運営するうえで、最も深刻な課題の一つが人材の確保と定着です。介護業界全体の課題でもありますが、特にデイサービスにおいては以下のような特徴的な状況が見られます。

人材確保の現状 2024年12月の最新データによると、介護職員の有効求人倍率は3.84倍に達しています。これは、1人の求職者に対して約4つの求人が存在する状況を示しており、人材確保の難しさを如実に表しています。 離職率の問題 デイサービス職員の離職率は、近年の介護業界全体の傾向と同様に、横ばいまたはやや改善しているとの指摘もありますが、依然として高い水準にあり、安定的な職員確保が課題となっています。
特に介護業界全体で、経験の浅い職員の早期離職が課題となっており、デイサービスにおいてもこの傾向が見られます。このような人材の流動性は、事業所の安定的なサービス提供や利用者との継続的な関係構築に影響を及ぼす可能性があります。

離職の主な原因として、以下のような要因が挙げられます。

待遇面での課題 ●給与水準の低さ
●福利厚生の不十分さ
労働環境の問題 ●身体的・精神的負担の大きさ
●シフト制による生活リズムの乱れ
キャリア形成の課題 ●将来のキャリアパスが不明確
●スキルアップの機会不足

このような状況に対し、デイサービス事業者には以下のような取り組みが求められています。

待遇改善策 競争力のある給与体系の構築や、充実した福利厚生制度の整備が必要です。 職場環境の整備 働きやすい職場づくりのため、業務効率化や労働時間の適正管理が重要となります。 人材育成体制の強化 研修制度の充実やキャリアアップの機会提供により、職員の定着率向上を図ることが求められます。

人材の確保と定着は、デイサービスの質を維持・向上させるうえで欠かせない要素です。この課題に対する戦略的な取り組みが、事業の継続的な発展には不可欠となっています。

利用者獲得の競争激化

近年、デイサービス業界における利用者獲得を巡る競争は一段と激化しています。高齢化の進展に伴いデイサービスの需要は増加傾向にありますが、新規参入が比較的容易な事業でもあるため、市場の競争は激しさを増しています。

特に以下の点が、競争激化の主な要因となっています。

利用者ニーズの多様化 利用者の要望が多様化・高度化し、画一的なサービスでは選ばれにくい状況が生まれています。 介護報酬改定の影響 報酬改定により収益構造が変化し、より効率的な運営と利用者確保の両立が求められています。

このような競争激化に対応するためには、各事業所の独自性が重要になってきます。利用者やその家族は、サービスの質や内容を重視して事業所を選択する傾向が強まっており、選ばれる事業所となるためには、以下のような点での差別化が必要不可欠です。

地域連携の強化 ●地域の医療機関との連携強化
●地域包括支援センターとの関係構築
●ケアマネジャーとの信頼関係づくり 特色あるサービスの展開 ●リハビリテーションプログラムの充実
●認知症ケアの専門性強化
●趣味活動やレクリエーションの特色化 情報発信の強化 ●SNSを活用した施設情報の発信
●利用者の声を活かした口コミ戦略
●地域イベントへの積極的な参加

これらの要素を総合的に高めていくことが、競争激化の中で生き残るための重要な鍵となるでしょう。

特に重要なのは、地域のニーズを的確に把握し、それに応える形でサービスを展開していくことです。画一的なサービスではなく、地域特性や利用者層に合わせた独自のサービス提供が、競争力の強化につながると考えられます。

デイサービス経営改善のための戦略

加算取得の最適化

デイサービスの経営改善において、加算取得の最適化は重要な戦略となっています。介護保険制度では、提供するサービスの質や体制に応じて、さまざまな加算を取得することが可能です。代表的な加算をいくつかご紹介しましょう。

サービス提供体制強化加算 介護職員の総数のうち、一定割合以上が勤続年数の基準を満たしているか、介護福祉士である場合に算定できる加算です。人員基準を満たし、定員超過利用をしていないことも要件となっています。質の高い人材を確保・育成することで、より手厚いケアの提供と収益の向上を同時に実現できるでしょう。 入浴介助加算 利用者に対して適切な入浴介助を提供し、そのための研修を行うことで算定可能となります。このサービスは利用者の身体機能の維持・向上に寄与するだけでなく、施設の収益にも貢献する重要な要素となっています。 生活機能向上連携加算 外部の専門職との連携のもと、利用者一人ひとりに適切なリハビリ計画を策定・実施することで算定できます。この加算は、利用者の自立支援を促進しながら、施設の収益向上にもつながる取り組みといえるでしょう。外部の専門職との連携でも算定可能です。

そのほかにも、口腔機能向上加算や認知症加算など、さまざまな加算が設定されています。加算取得の最適化に向けては、各加算の算定要件を正確に理解し、必要な体制を整備することが重要です。また、職員の研修や育成を通じてサービスの質を向上させることで、より多くの加算取得が可能になります。

こうした継続的なサービス改善と加算取得の取り組みを行うことは、利用者へのサービス向上と経営の安定化の両立につながるでしょう。

特色あるサービス展開による差別化

競争が激化するデイサービス業界において、特色あるサービス展開は生き残りのための重要なポイントとなっています。ほかの施設とは異なる独自のサービスを提供することで、競争力を高めることが可能です。

差別化のポイントは以下のような点にあります。

地域特性の活用 地域の文化や特色を活かしたプログラムを展開することで、より親しみやすい環境をつくることができます。例えば、地域の伝統行事や特産物を活用したイベントの開催などが効果的です。 専門的なケアの提供 認知症ケアやリハビリテーションなど、特定の分野に特化したサービスを提供することで、専門性の高い施設としての評価を得ることができます。 参加型・体験型プログラムの充実 利用者が主体的に参加できる活動を増やすことで、生きがいづくりや心身機能の維持・向上につながります。差別化のためには、園芸や料理などの一般的なものだけでなく、VR体験やアニマルセラピーなど、ユニークなプログラムを取り入れることが効果的です。

特に、地域における社会活動は、高齢者の孤立を防ぎ、地域住民との交流を深めることにつながります。それにより、生きがいを持ち健康を維持しながら、支え合える地域づくりが促進されます。

日本総合研究所の調査によると、デイサービスの事業所内で地域住民や団体・企業などと交流する活動を行っている事業所は26.7%、事業所外での交流活動を実施している事業所は13.5%、地域住民や団体・企業などと連携し、利用者が役割を持つ形で活動を行う事業所は5.1%となっています。

この結果から、社会参加活動における取り組みには、まだ大きな差別化の余地が残されていることが分かります。

これらの特色あるサービス展開により、以下のような効果が期待できます。

利用者満足度の向上 新規利用者の獲得 既存利用者の継続利用促進 地域での評判向上 スタッフのモチベーション向上

さらに、地域包括支援センターや市町村のリソースを有効活用することで、より大きい効果を得られる可能性もあります。

ICT活用による業務効率化

デイサービス経営の効率化には、ICT(情報通信技術)の活用が不可欠となっています。特に以下の3つの分野でのICT活用が、業務効率の向上に大きく貢献しています。

介護記録のデジタル化 介護記録ソフトの導入は、手作業での記録管理からの解放を実現し、事務作業の時間を大幅に削減できます。また、デジタル化により記録の正確性が向上し、スタッフ間での情報共有もスムーズになります。データの一元管理により、業務全体の効率化を図ることが可能になります。 家族とのコミュニケーション強化 オンラインシステムを活用することで、利用者の日々の様子をリアルタイムで家族と共有することが可能です。家族からの問い合わせにも迅速に対応でき、信頼関係の構築がより容易になります。これにより、送迎や通院同行といった調整もスムーズに行うことができます。 機能訓練のデジタル化 AIを活用した機能訓練プログラムの導入により、利用者一人ひとりの状態に合わせた最適な訓練メニューを提供することが可能になります。訓練の効果を数値化して把握できるようになり、介護職員の負担を軽減しながら、より効果的なリハビリテーションを実現できます。

このようなICTの活用は、単なる業務効率化だけでなく、以下のような付加価値も生み出しています。

サービスの質の向上 ●より正確な情報に基づくケアの実現
●スタッフの利用者対応時間の増加
●個別ケアの充実 経営面での改善 ●人件費の適正化
●ペーパーレス化によるコスト削減
●データに基づく経営判断の実現 職場環境の改善 ●残業時間の削減
●業務ストレスの軽減
●働きやすい職場環境の実現

地域連携とマーケティング戦略の強化

デイサービスの経営を安定化させるためには、地域連携とマーケティング戦略の強化が不可欠です。

地域包括支援センターやケアマネジャーとの関係構築は、この戦略の中でも特に重要となります。これらの専門家とのパートナーシップを築くことで、地域のニーズに適したサービスを提供することができ、より多くの利用者を獲得するチャンスが広がります。

具体的には、定期的に地域の福祉イベントに参加することや、情報交換会を通じて信頼関係を深めることが効果的となっています。また、介護サービスを提供するうえでの情報の発信も重要です。SNSを活用した情報発信は、若い世代を対象にするだけでなく、介護に関心のある層をターゲットにすることが可能です。

さらに、口コミの展開も重要となっています。利用者の満足度を高めることで、自ずと口コミが生まれ、評判が広がることが期待できます。特に、ネット上では良い評価が新たな利用者を獲得する大きな要素となっています。

これらの適切なマーケティングを行うことで、事業の持続可能性を高めることができるでしょう。

これからのデイサービス経営の展望

デイサービスは地域包括ケアシステムの中心的な役割を担っており、その重要性は今後さらに増していくことが予想されます。厚生労働省の第9期介護保険事業計画によると、デイサービスの利用者数は2023年度の222万人から、2026年度には238万人(7%増)、2040年度には273万人(23%増)まで増加する見込みとなっています。

こうした需要の拡大に対応するため、デイサービスには多機能化と複合化が求められています。例えば、通常のデイサービスにおいて、リハビリテーション、認知症対応、さらには家庭訪問サービスなどを組み合わせることで、利用者の多様なニーズに応えることが可能となります。これにより、利用者にとっての利便性が向上し、同時に事業者にとっても安定的な収入源を確保することができるでしょう。

また、経営統合や規模拡大の動きも重要なトレンドとなってきています。市場競争が激化する中で、規模の経済を活かした効率的な運営が求められているためです。複数のデイサービスが統合することで、資源の共有やサービスの均質化が図られ、利用者に対してより質の高いサービスを提供できる可能性が高まります。

これらの要素を総合的に考慮し、デイサービスの経営者は新たな経営モデルの構築と実践に挑戦する必要があるでしょう。地域の高齢者が安心して生活できる環境を提供するためには、必然的にこれらの戦略が求められます。

特に、地域ニーズの把握とその対応策の策定は、デイサービスの持続的な成長にとって欠かせない要素となっていくことでしょう。

【関連記事】

おすすめの記事