ラーメン屋に向かう途中で信号無視〝覚せい剤常習〟の男が時速97キロで衝突事故 被害者の車は全壊も保険適用なし
札幌の手稲区で30℃を越すなど、道内各地で夏の暑さとなった日に、その男の初公判は行われた。
「覚せい剤取締法違反」「過失運転致傷」で起訴された男
男はグレーのスエット上下姿。拘束された状態で法廷に現れた。無精ひげが少し伸びていて、目の下のクマは深い。常に目をしょぼしょぼとさせていて、気力といったものは感じられなかった。
男が問われている罪は次の通りだ(起訴状より)
・2025年3月中旬~26日 違法薬物である覚せい剤を自己の体内に接種したもの
・2025年3月25日 札幌市内を車で走行中 赤信号で交差点に突っ込み、横から来た直進車と衝突 相手の車に乗っていた2人にけがをさせたもの
検察側は冒頭陳述で次のような証拠を挙げた
・男は暴力団として活動していた過去があり、事故当時は「なんでも屋」として自営業をしていた
・使用した覚せい剤は札幌のヤクザからタダで入手したものだった
・前科5犯で今回の事件は一部執行猶予で月形刑務所から出所して半年という、執行猶予中の犯行だった
・ドライブレコーダーなどの検証から男は時速97キロで事故を起こしていた(法定速度は50キロの道路)
ラーメン屋に向かっていた男が起こした事故 被害者の車は全壊 保険も適用されず被害者は自費で車を買い替えた
検察があげた証拠に対し、弁護人もすべて同意。弁護側は謝罪文しか物的な証拠はなく、すぐに被告人質問が始まった。
弁護士:自動車はあなたが所有していないものということでよかったですか
被告:はい
弁護士:どうして使っていたんですか
被告:自分の自動車が壊れて廃車になったので知人から借りました
弁護人:任意保険の加入の有無ですとか、保険の適用になるかというのは確認したんでしょうか
被告:確認を忘れていました
弁護士:事故を起こしたら大変なことになるなとか不安はなかったのですか
被告:借りて「とりあえず足が出来た」と思ってしまい、そこは欠けていました
弁護士:結果、任意保険の適用外でした。そしてその時、相当スピードを出していたんですよね
被告:はい
弁護士:どうしてそんなにスピードを
被告:仕事が朝にあったので、それでスピードを出してしまいました
弁護士:車でラーメン屋のほうに向かっていたということですけど何か夜ご飯を食べようと思っていたんですかね
被告:はい
弁護士:前方不注意で事故を起こし、被害者はどう思っていると思っていますか
被告:いい迷惑だと思っていると思います
弁護士:被害者に何か言いたいことはありますか
被告:すみませんということと、社会復帰したら弁済しますということしか言えません
弁護士:どう弁済するんですか
被告:まっとうに働いて給料で弁済していくことしかありません
「覚せい剤を目の前にしたら捨てられなかった」…薬物依存から脱却できない厳しい現状
弁護士:覚せい剤については複数前科ありますけど、なんでまた今度やってしまったんですか
被告:覚せい剤を身近に近づけない生活をしていたんですが、知人から中身がわからない封筒をもらって、開封したところ覚せい剤がはいっていて…
弁護士:捨てられなかった?
被告:はい 目の前にしたら捨てられなかったです
弁護士:いまも札幌のヤクザとはかかわりはあるんですか
被告:今はもうないです
弁護士:警察署に暴力団の脱退届を提出したんですか
被告:はい
弁護士:今後は一切かかわらない?
被告:はい…あ、はい
続いて女性検察官が被告人質問を行った。
検察官:車の行政処分はまだということですが、運転免許を再取得するつもりは?
被告:考えていません
検察官:被害者への弁済、『まっとうに働いて』と言っていましたが、どのようにしてするつもりですか
被告:いまは………会社勤めをして…
検察官:会社のあては?
被告:ないです
検察官:被害者との弁償についての約束は文書でありますか
被告:ないですけど謝罪文で出しました
検察官:これまでも覚せい剤で5回罪を犯している。その裁判でも「もう暴力団にならない」「関係を断ちます」と言っていたんじゃないですか
被告:しています
検察官:その約束が守られないのはなぜですか
被告:自分の安易な行動から………暴力団への脱退届を出しました
検察官:なぜこれまで脱退しなかったのに今回脱退したのですか
被告:自分でも暴力団の登録しているのが気にかかっていた。ちゃんとしないといけないと思っていました
…………
裁判官:どれくらいの金額を賠償しようと思っていますか
被告:『結構な金額』としかわかりません
裁判官:それはどこから
被告:弁護士の先生から話を聞いて
裁判官:依存症と言っていましたが覚せい剤は初めてではないですよね
被告:はい
裁判官:なぜ繰り返すんです?何回も何回も
被告:薬が……(聞き取れず)
裁判官:覚せい剤をやめようとしてもやめられなかったのはなぜですか
被告:そういうものを寄せ付けないようにしていたんですが、日が経つにつれ自分のハードルが下がってきて、寄せ付けてしまったと思います
裁判官:出所したら会社員になり賠償すると言っていましたが、そういう方を雇ってくれる方は少ないと思いますが
被告:まあ、あの…以前刑務所でそういう(雇ってくれる)雇い主がいると聞いたので…
………
被告人質問が終わり、公判は求刑で終了となった。
検察官は懲役4年6か月を求刑。弁護人は〝寛大な判決〟を求めた。
裁判官から「最後に言っておきたいことはないですか?」と聞かれた被告の男は
「出所したら覚せい剤に関わらない生活をしていきたいと思っています」と述べた。
判決はおよそ10日後に言い渡される。
いずれにせよ、男が薬物依存から抜け出すのはそう簡単ではなさそうだ。