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夫や子どもがいないと老後は孤独、なんてない。―ロンドンの女性限定の共同住宅から学ぶ、女性の選択肢―

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夫や子どもがいないと老後は孤独、なんてない。―ロンドンの女性限定の共同住宅から学ぶ、女性の選択肢―

「幸せな老後」と聞いてどんなイメージが浮かぶだろうか? これまで映画やドラマをはじめとするメディアで映し出されてきたのは、“家族と過ごす生活”が多いような気がする。私たちが目にする老後の人生のイメージはとても限定されているのではないだろうか。しかしイギリスにある共同住宅をベースとした女性のコミュニティ「New Ground(ニューグラウンド)」は、老後の新しい選択肢として今、世界で注目を浴びている。

厚生労働省の「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」によると、日本の65歳以上の高齢者世帯の51.6%が一人で暮らしているという。そのうちの、 64.1%が女性だそうだ。そもそも結婚や子どもを持つことに興味がない人、家族がいたとしても老後を一人で暮らすことになる人にとって、老後を不安に感じることは少なくないかもしれない。

一方で、イギリスのNew Groundでは50代以上の26人の女性が楽しく共同生活をしているという。同コミュニティはどのようにして始まったのか。実際に住んでみるとどうなのか。老後の新しい選択肢のヒントをもらうために、住人の一人であるJude Tisdallさんに話を伺った。

変わり続けているこの世界でみんな自分の居場所を探しているんだと思います

高齢女性による、高齢女性のためのコミュニティ

イギリス・ロンドン郊外のバーネット地区にある共同住宅をベースとしたコミュニティNew Ground。イギリスの新聞「The Guardian」 (ガーディアン)に“フェミニストユートピア”と称されたこの共同住宅地には、50代以上の女性が26人で共同生活をしている。それぞれがアパートの部屋で一人で暮らしており、施設内には共同エリアや美しい庭がある。息子や父親、ボーイフレンドはいても、男性が一緒に住むことはできない。New Groundでは、メンテナンス、ガーデニング、清掃、法律問題などを、すべて住民たち自身で管理している。 

Senior Cohousing_A Different Way of Living SUBS (1) from New Ground Co-Housing on Vimeo.

New Groundの発起人は、ジャーナリストでアクティビストのShirley Meredeen(シャーリイ・メレディーン)さんだ。彼女のアイデアで同プロジェクトが生まれ、仲間を集めていった。プロジェクト開始当初から関わっていたのは、高齢化について研究していたMaria Brenton(マリア・ブレントン)さん。ブレントンは研究の一環で1980年代から、老人ホームや介護施設に代わるものとしてコミュニティベースの共同生活を奨励してきたオランダへ行き、現地の共同住宅について学んだ。

そうして、6人の女性グループが集まり、New Ground設立の主要メンバーとなるOWCH(高齢女性同居グループ)が結成された。(参照元:The Guardian)実現までに15年以上かかったというNew Groundは、2016年に完成。日々コミュニケーションを重ねながら女性たちが楽しく暮らしている。

歳を重ねていく中でどのように暮らしたいか、という会話から始まったコミュニティ

Jude Tisdallさん

――まず初めに、New Groundについて教えてください。

New Groundは、25部屋のアパートのインテンショナル・コミュニティ(※)です。住民は56歳から95歳の女性たちです。

※ インテンショナル・コミュニティ(英: intentional community、別訳目的共同体)とは、高度な社会的紐帯とチームワークを持つように企図して設立された居住共同体である。(参照元:weblio) 

――どのように始まったのですか?

歳を重ねていく中でどのように暮らしたいか、という会話から始まりました。これは、ワインを飲みながら食事をする時などにみんなが何気なく話すことだと思います。New Groundを始めた女性たちは、歳をとった時の自分の生き方を、自分で選択したいという思いを持っていました。

――現在どんな方々が住んでいるのですか?

一番若い住人は50代で、教育に関するチャリティー団体のCEOです。一番年上は95歳で今でも編集者&ライターとして働いています。彼女は1940年代にオーストリアから難民としてイギリスに来た方で、そのことについて小学校などで講演しています。最近、子ども向けの本も出版したばかりです。他にもアルバイトをしている人もいますし、ボランティアとして活動している人もいます。バックグラウンドや宗教、経済状況や文化はバラバラですが、みんなで仲良くしています。

――New Groundに移り住む前には住民たちとその家族の間でどんな会話があったのでしょうか?

うーん、詳しいことは分からないけど、多くの住人が自分の家を売って引っ越してきたことは知っています。このプロジェクトは実現するのにすごく時間がかかったから、住民の家族の多くは、このプロジェクトに対する私たちの希望や熱意をその間に徐々に理解していったんだと思います。私の場合は、娘たちに私の老後を心配してほしくなかったという思いがあります。一人暮らしだとそうなると思ったんです。他のみんなも同じ気持ちだと思います。

大切なのは、お互いについて学び、寛容になり、オープンでいること

――どうしてこのような場所が必要だと思いますか?

歳を重ねるごとにたくさんの変化があります。もし子どもがいれば、子どもは成長し自立していく。学校や職場や子どもを通して知り合った人たちとの関係性も変わっていきます。女性は男性より長生きすることが多いですよね。また老後、女性は男性よりも経済的に自立するのが難しいことが多いという事実もあります。それでも、コミュニティの中で暮らすと、孤独になりにくいですよね。お互いを気遣うことができます。

――多くの人がそういった場所を求めているのかもしれないですね。昨年の8月に公開されたThe Guardianの記事には、大きな反響があったと聞きました。

はい。記事には25万件以上のアクセスがありました。みんな、New Groundと同じような場所をどうやったら始められるのかと聞くんです。それは高齢の女性に限らず、全世代からです。変わり続けているこの世界でみんな自分の居場所を探しているんだと思います。コミュニティの一部になりたいんだと思います。

――実際に住んでみて、どうですか?

素晴らしい体験ばかりです。譲り合わないといけないこともあるから簡単ではありませんし、コミュニティとプライバシーのバランスをとることも難しいです。でもこの7年間、私たちはバランスをうまくとってきました。New Groundでの共同生活はまるで恋人と付き合って最初の1年みたいなものです。お互いについて学んでいかなければいけません。もともと知り合いではありましたが、住んでみるとやっぱり違うんですよね。New Groundにみんなで引っ越してきた当初は、25人と同時に付き合い始めたみたいでした(笑)。

――New Groundはこれまであまり見ることのなかった老後の選択肢を見せてくれているのでとても希望を感じます。伝統的な家族の形や生き方に縛られたくない人にメッセージはありますか?

とにかく周りに話し始めてみてください。New Groundも数人の女性のアイデアから始まりました。そして場所を見つけ、許可を取り、実際に建設するのに15年かかりました。でも一番重要なのはコミュニティの建築なんです。グループを築き、お互いを知り、コミュニティとしてどのような暮らしをするかで同意すること。お互いについて学び、寛容になり、オープンでいること。そういったことが何より大切です。

――最後に、実際にNew Groundのようなコミュニティをつくりたい人にアドバイスはありますか?

あまり遅くなりすぎないように、というのが私のアドバイスです。まとまりのあるグループを作るには時間がかかります。そして、現実的に考えてください。プロに相談してください。幸運を祈っています。私たちのウェブサイトにある情報も参考にしてみてくださいね。

執筆:南のえみ

Profile

New Ground

イギリス・ロンドン郊外のバーネット地区にある女性だけの共同住宅をベースとしたコミュニティ。50代以上の女性が26人で共同生活をしている。2023年8月、英国紙The Guardianに取り上げられ国内外で注目を集めた。

公式サイト https://newgroundcohousing.uk/

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