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「一周まわった14歳」に届けたい。人は結局、いつまで経っても、14歳の気分から抜けられないものでもあるからと。

ほぼ日

生きるため、はたらくための教科書のように使っている人もいるし、どことなく「俗流の哲学本」みたいに敬遠している人もいるのが「自己啓発本」。これについて語り合おうと、座談会が開かれました。
『嫌われる勇気』の古賀史健さん、『夢をかなえるゾウ』の水野敬也さん、『成りあがり』(矢沢永吉著)の取材・構成を担当した糸井重里。そして『14歳からの自己啓発』の著者である自己啓発本の研究者、尾崎俊介さん。にぎやかな、笑いの多い座談会になりました。第8回、『14歳からの〜』というタイトルにした意図は?


水野
だけど、自己啓発から僕の本に興味を持ってくれたような人たちに、いまの僕が興味のある「社会」の話まで面白がってもらうのって、なかなか難しくて。「それ、誰が読むねん」っていう(笑)。
古賀さんとか、そういう悩みないですか?
古賀
うーん、そうですね‥‥。
僕にとって『嫌われる勇気』の発端は、20代のときに読んだアドラー心理学の本なんです。だからこの本は当時の自分を思い出して、そのまま書けばよかったんです。
でもいま、新しく本を書くときに、現在の自分の興味をそのまま追求してしまうと、誰も喜ばない本になる可能性はけっこうあって。
『嫌われる勇気』のようなものを本当に待ってるお客さんって、20代の頃の僕みたいな人たちなんで、「その人たちとどうつながっていけばいいんだろう?」というのはよく考えますね。
水野
そうですよね。難しい。
尾崎
うーん。
糸井
‥‥はぁー、わかった。3人とも、その問題とぶつかったんで『14歳からの~』とかを書いたんだ。
尾崎
ああ、そうかもしれないです。

糸井
つまり、自分が過去に気づいたことをそのまま書くって、やる理由がないんだよ。
だけど「14歳」という観客に向けると、二重性を帯びますから。まさにいま14歳の当事者はもちろん、成熟した人たちも、その14歳用のものを自分なりに読んでくれるわけで。
水野
なるほど、そうですね。
糸井
古賀さんの新しい本もそうですよね。
古賀
完全にそうですね。
糸井
尾崎さんの本は『14歳からの自己啓発』だけど、たぶんこれ、14歳には読めないですよね(笑)。
尾崎
かもしれない(笑)。
糸井
このタイトルは、編集者と相談して決めたとかですか?
尾崎
これ、いまの話を全部崩すことになっちゃうんですけど。
この本はトランスビューという出版社から出てるんですけど、そこのいちばんのロングセラーって、池田晶子さんの『14歳からの哲学』なんですよ。池田さんって僕の先輩でもあるんですけど。
それもあって「トランスビューから出すなら『14歳からの~』シリーズだろうな」と。わりと安易につけたんです。
水野
あぁー。
尾崎
ただ、全く理由のないタイトルでもなくて、本の冒頭にも書いてますけど、きっかけに父との会話があるんですね。
あるとき、僕が80歳の父に「自分は精神的にいくつだと思う?」と訊いたら、「14歳だ」と返ってきたんですよ。
それがすごく心に残ってて「そうだ‼ この本は『14歳からの~』にしよう」と心が決まったんです。
糸井
引き寄せたわけですね。
尾崎
そうですね(笑)。だから実年齢の14歳には難しいかもしれないけど、人は結局、いつまで経っても、14歳の気分から抜けられないものでもあるからと。
水野さんの「女の子にモテたい」も、14歳がスタートかもしれないじゃないですか。
水野
そうですね。言ってみればほんとに僕も、あの頃からなにも変わってないんです。まぁいま、家に帰ると子どもが4人いて、「なんかめっちゃおるな」って状況ではあるんですけど(笑)。
尾崎
だから「一周まわった14歳」かもしれないけど、そういう人に届けばいいなと。
糸井
事実、人は「14歳用に書く」ぐらいのことしか考えてないんだとも思うんですよ。たくさんある『14歳からの~』みたいな本も、読んでるのはけっこう大人だと思うんです。
みんな難しぶったり、大人っぽい言葉をこねくり回したりしてますけど、結局ほとんどの人は「14歳用に書く」ぐらいのところで理解する。
昔だったら「商品価値を高めるには、崇高そうに見せなければ」とかで、14歳用に書いてちゃダメだったかもしれないけど、それ以上に難しそうに書く必要って、ほんとはないのかもしれない。
古賀
ああ、そうですね。
糸井
水野さんは『夢をかなえるゾウ』のとき、お客さんの年代って想定したんですか?

水野
いえ。僕はそういうことがほんとに苦手で、まったくしてないんです。
だから毎回「9歳から90歳まで。もうめちゃくちゃ売りたいんです!」みたいな書き方で(笑)。
尾崎
メインキャラクターのガネーシャを思いついたのは、どのタイミングですか?
水野
実はそこ、けっこう後半なんです。
『夢を叶えるゾウ』の成り立ちの話をすると、自己啓発本って『ザ・シークレット』みたいな、読者がなにも行動する必要がなくて「思いついたら叶う」というのが極致だと思うんです。
でも僕は「そこまでいくとちょっとな‥‥」と思ってて、人間が変わるというのは、やっぱりなにか実際に行動を起こす必要があるんじゃないかと思ってるんです。
だけどハードルが高いものだと、自分もできない。だからすごく簡単な行動を集めた本にしようと思って、そういう行動を365個集めてきて、一連のエピソードと紐づけて、原稿が完成したんです。
だけどできあがったそれ‥‥めちゃくちゃつまんなくて(笑)。
糸井
いいね(笑)。
水野
いろんな自己啓発書が持ってるような「これで人生変わるんだ!」というワクワク感が、完全に失われていたんです。
だから「これは物語にしなきゃ」と思って、別に考えていた、神様とサラリーマンが会話する絵本みたいなネタをガコッと乱暴に変えたら、ああなったんです。
尾崎
日本の神様にしなかったのはどうしてですか?
水野
そこは明確に理由があるんですけど、その時点では神様って、なんでもよかったんです。
だからGoogleで「神様」って入れると画像が出てくるじゃないですか。そのとき「この神様、なんかどっかで見たことあるな。インパクトがあるしこの人にしよう」とかで、ほんとに安易に決めたんですよ。
古賀
へぇー。
水野
ガネーシャって、いろんなゲームや映画にチラッとカメオ出演してるんです。『ストリートファイター2』とかのバックにいて、記憶はあるけど名前はわかんない、みたいな。その感じもよくて。
だからパッと検索して、パッともう「君が内定だ!」ぐらいの感じで決めちゃったんです。
おそらく僕は日本の神様にはしないんですね。そこまで近いと、なにか気持ち悪さがあるというか。

(出典:ほぼ日刊イトイ新聞 「自己啓発本」には、かなり奥深いおもしろさがある。(8)気持ちの上では、人はけっこう14歳。)

古賀史健(こが・ふみたけ)
株式会社バトンズ代表。1973年、福岡県生まれ。九州産業大学芸術学部卒。メガネ店勤務、出版社勤務を経て1998年に独立。著書に『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(岸見一郎共著、ダイヤモンド社)、『さみしい夜にはペンを持て』(ポプラ社)『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』(ダイヤモンド社)、『古賀史健がまとめた糸井重里のこと。』(糸井重里共著、ほぼ日)、『20歳の自分に受けさせたい文章講義』(星海社新書)など。構成に『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(幡野広志著、ポプラ社)、『ミライの授業』(瀧本哲史著、講談社)、『ゼロ』(堀江貴文著、ダイヤモンド社)など多数。2014年、ビジネス書ライターの地位向上に大きく寄与したとして「ビジネス書大賞・審査員特別賞」受賞。編著書の累計は1600万部を数える。

水野敬也(みずの・けいや)
1976年、愛知県生まれ。慶応義塾大学経済学部卒。著書に『夢をかなえるゾウ』シリーズほか、『雨の日も、晴れ男』『顔ニモマケズ』『運命の恋をかなえるスタンダール』『四つ話のクローバー』、共著に『人生はニャンとかなる!』『最近、地球が暑くてクマってます。』『サラリーマン大喜利』『ウケる技術』など。また、画・鉄拳の絵本に『それでも僕は夢を見る』『あなたの物語』『もしも悩みがなかったら』、恋愛体育教師・水野愛也として『LOVE理論』『スパルタ婚活塾』、映像作品ではDVD『温厚な上司の怒らせ方』の企画・脚本、映画『イン・ザ・ヒーロー』の脚本など活動は多岐にわたる。

尾崎俊介(おざき・しゅんすけ)
1963年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科英米文学専攻後期博士課程単位取得。現在は、愛知教育大学教授。専門はアメリカ文学・アメリカ文化。著書に、『14歳からの自己啓発』(トランスビュー)、『アメリカは自己啓発本でできている』(平凡社)、『ホールデンの肖像─ペーパーバックからみるアメリカの読書文化』(新宿書房)、『ハーレクイン・ロマンス』(平凡社新書)、『S先生のこと』(新宿書房、第61回日本エッセイスト・クラブ賞受賞)、『紙表紙の誘惑』(研究社)、『エピソード─アメリカ文学者 大橋吉之輔エッセイ集』(トランスビュー)など。

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