【現地取材】大阪市立美術館『天空のアトラス イタリア館の至宝』ダ・ヴィンチの手稿も日本初公開!
2025大阪・関西万博で、ひときわ大盛況となったイタリア館。会期の終盤には8時間ほど並んだとの声もあり、多くの人々が期待と関心を寄せました。
万博が閉幕しても、イタリア館の物語は終わりません。《ファルネーゼのアトラス》をはじめとする一部の展示作品がもうしばらく日本に留まり、特別展『天空のアトラス イタリア館の至宝』にて再び公開される運びとなりました。
本展は2026年に日本とイタリアが国交160周年を迎えることを祝し、大阪市立美術館にて開幕。会期は10月25日(土)~2026年1月12日(月・祝)です。
さらに、本展の開幕に際し、レオナルド・ダ・ヴィンチの『アトランティコ手稿』が新たに来日。日本初公開となる本作が加わり、パワーアップした展覧会となりました。
ぜひ会場に足をお運びください、と言いたいところですが、オンラインチケット(日時指定予約)の全日程分が販売開始から1日で完売…。当日券の販売もなく、今後の対応については美術館からの発表が待たれるところです。
見通しが立つまでは、この記事を通して少しでも本展の雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです!
古代彫刻の傑作《ファルネーゼのアトラス》
イタリア館で最も注目を浴びた作品といえば、《ファルネーゼのアトラス》ではないでしょうか? 本展でも、高さ約2メートル、重さ約2トンという大理石彫刻の堂々たる風格を、360°どこからでも鑑賞できます。
「アトラス」とは、ギリシャ神話に登場する巨人のひとり。ゼウスとの戦いに敗れたため、世界の西の果てで天空を背負う役目を負わされることになりました。本作では、苦しそうに天球儀を担ぐアトラスの姿が表現されています。
本作はヘレニズム時代に作られた彫刻を模して、古代ローマ時代(紀元2世紀)に作られたものと考えられます。発見されたのは16世紀のルネサンス期で、当初は顔の一部と手足が欠損した状態でしたが、補われて今に至ります。
そのため、よく見ると両腕・両脚のつけ根のあたりにつなぎ目があるのがわかります。目を引かれやすいお顔も、実は後から補完されたものなのです。
しかし天球儀は古代ローマ時代に作られたオリジナルのものがそのまま残っているとのこと。元の作品は古代ギリシャ時代に作られましたが、本作の天球儀には古代ローマ時代の知見が盛り込まれており、ギリシャ彫刻の単なるコピーではありません。
天球儀は、宇宙を外側から見た視点で作られています。表面には星座が描かれ、おうし座やおひつじ座、てんびん座など、星占いでおなじみの「黄道十二星座」を見て取れます。
時が経つにつれて少しずつ移動する春分点・秋分点の位置から、本作の天球儀がどの時代の観測をもとに作られたかがわかるそう。さらに、常現圏、常隠圏の範囲から「どの緯度で観測されたのか?」までわかってしまうのだとか。
古代ローマ人の科学的な知識もさることながら、それに忠実に天球儀をデザインした彫刻家も凄い…。本作は、古代ギリシャ、古代ローマ、ルネサンスをつなぎ、科学と芸術の歴史を現代に伝えています。
苦しそうに歪むアトラスの表情に注目しがちですが、古代ギリシャらしい肉体表現が見られる胴体や、古代ローマの科学に基づく天球儀の細かな装飾も、ぜひ堪能してくださいね。
ラファエロの師匠ペルジーノによる名画《正義の旗》
同じくイタリア館で大きな注目を集めた作品が、ピエトロ・ヴァンヌッチ《正義の旗―聖フランチェスコ、シエナの 聖ベルナルディーノ、祈る正義兄弟会の会員たちのいる聖母子と天使》です。
ヴァンヌッチ(通称ペルジーノ、1450-1523)は、日本ではあまり知られていませんが、ラファエロの師匠としても有名なルネサンス期の重要な画家。フィレンツェのヴェロッキオに弟子入りしていたため、レオナルド・ダ・ヴィンチの兄弟子でもあります。
もともと宗教行列の際に掲げる旗(ゴンファローネ)として依頼された本作は、上下2段の構成です。上部には、聖母子と天使たちがいる天上の世界が描かれています。顔だけで表された天使が風変わりに感じられて気になりますが、体のある天使よりも高位の存在を示しているそう。
下部には、聖母子を仰ぐ2人の守護聖人が大きく描かれています。祈りを捧げる人々も小さく描かれ、背景のペルージャの街並みも精緻に表現されています。
そういえば、天上の世界と地上の人々がひとつの画面に描かれた作品は、あまり多くはないように思います。聖なる世界と私たちの暮らしが調和した本作は、見る人の心を優しく癒してくれるのではないでしょうか?
日本初公開!レオナルド・ダ・ヴィンチ『アトランティコ手稿』
レオナルド・ダ・ヴィンチの『アトランティコ手稿』2点は、本展の開幕に合わせて来日しました。いずれも日本初公開となります。
レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)は、科学・芸術・技術のあらゆる分野を横断して知を追い求めたルネサンスの巨匠。軍事技術者や建築家として活動するかたわら、《モナ・リザ》や《最後の晩餐》をはじめとする名画を制作し、「万能の天才」と呼ばれています。
レオナルドは約40年にわたり、研究や発想を手稿にしたためました。中でも、今回来日した『アトランティコ手稿』は、現存する中で最も大規模な手稿。紙葉は1119枚にも及び、数学・機何学・天文学・動植物学・物理学・建築・土木・軍事技術など、多岐にわたる研究成果が記録されています。
本展では、第156紙葉 表 《水を汲み上げ、ネジを切る装置》と第1112紙葉 表 《巻き上げ機と油圧ポンプ》の2点が展示。緻密に描かれた装置は今にも動き出しそうで、レオナルドの想像力や科学的な思考力をうかがい知ることができます。
また、アイデアを他人に盗まれないための工夫とされる、左右が反転した鏡文字にも注目しましょう。文字が右から左(←)へ書かれているのは、レオナルドが左利きだったためとされています。
同じく左利きの方は経験があるかもしれませんが、横書きの文字を左手で左から右(→)に描くと、インクを手で引きずってしまうのです…。レオナルドは正規の教育を受けておらず、右利きに矯正される機会がなかったとも考えられています。
科学と芸術を融合した万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチ。本展は、その功績を間近で鑑賞できる貴重な機会です。
世界で初めて油彩画に描かれた日本人、伊東マンショ
本展では、伊東マンショに関する研究成果も。ティントレットが描いた《伊東マンショの肖像画》の衣装を再現する試みが紹介されています。
リネンやシルク、コットンなど天然素材へのこだわりに加え、当時の縫製技術を再現。すべて手縫いで仕立てられ、ひだ襟だけでも6000針以上の手間がかかっているそうです。
伊東マンショ(1569-1612)は、安士桃山時代から江戸時代初期にかけて活躍したキリシタン(キリスト教徒)です。1582年、4人の「天正遣欧少年使節」の一員に選ばれてヨーロッパへと赴き、ローマをはじめとする各地で日本の文化や信仰を紹介し、東西文化交流の架け橋となりました。
なお、イタリア館ではティントレット《伊東マンショの肖像画》とともに、伊東マンショの足跡も紹介されました。
【まとめ】イタリア美術の底力に圧倒される展覧会
イタリア館からの申し出によって企画が始まったという本展では、《ファルネーゼのアトラス》をはじめとする至宝の数々を鑑賞できます。
繰り返しになりますが、オンラインチケット(日時指定予約)は全日程分が完売。チケットを持っておらず、日時指定予約を取っていない方は、無料対象の方を含めて入場できない状況です。記事執筆時点では、当日券の販売もありません。
今後の対応については、随時、大阪市立美術館ホームページと展覧会公式Xでお知らせするとのこと。1人でも多くの人が、展覧会に足を運べますように…!
展覧会情報
◆日伊国交160周年記念 大阪・関西万博開催記念 特別展
天空のアトラス イタリア館の至宝
【会期】2025年10月25日(土)~2026年1月12日(月・祝)
※災害などにより、変更となる場合あり
【時間】午前9時30分〜午後5時(入館は午後4時30分まで)
【休館日】月曜日(祝日の場合は開館し、翌平日休館)、12月29日~1月2日
※災害などにより、臨時で休館となる場合あり
大阪市立美術館ホームページ
公式展覧会X(旧Twitter)