つくばエクスプレスが東京駅・晴海方面へ。都心・臨海地下鉄新線とは
つくばエクスプレスとは
つくばエクスプレス(TX)は、秋葉原駅(千代田区)と、つくば駅(茨城県つくば市)の58.3kmを最速45分で結んでいる鉄道路線である。首都圏北東部の通勤・通学輸送を担うと同時に、国際的な研究学園都市であるつくば市と都心を直結する重要な役割を果たしている。
2005年の開業以来、利用者は順調に増加するとともに、東京圏への人口の受け皿として沿線自治体(流山市や柏市、守谷市など)の人口増加に寄与したことに加え、開業時の需要予測を上回る輸送実績を記録(2025年度の想定315千人/日を2013年度に達成)し、沿線地域の発展に貢献してきた路線である。元々、JR常磐線の混雑解消と首都圏の宅地供給、首都圏の都市圏政策としての業務核都市の形成(柏、つくば)を目的として国策として進めてきた路線である。
現在、このTXを起点に、都心側と郊外側の双方で延伸計画が具体化しつつある。
都心側と郊外側での延伸計画の概要
現在、TXの延伸計画は「都心側への延伸」と「郊外側への延伸」という二つの延伸計画の検討が進められている。これらはそれぞれ独立した計画でありながら、相互に連携することで効果の最大化を図る「一体整備」という視点が重要となっている。
都心側では、現在の起点である秋葉原駅から約2km南下し、東京駅まで延伸する計画がある。これにより、日本の交通網の中枢である東京駅にTXが直結することになる。
さらに、このTX東京駅延伸と接続する形で、新たな地下鉄路線「都心部・臨海地域地下鉄(都心・臨海地下鉄新線)」の事業計画の検討が進んでいる 。これはTX線の東京駅(仮称)を起点とし、新銀座(仮称)、新築地(仮称)、勝どき(仮称)、晴海(仮称)、豊洲市場(仮称)を経て、臨海部の有明・東京ビッグサイト(仮称)に至る約6.5kmの路線である 。
東京の国際競争力強化の拠点である都心と臨海副都心を結び、アクセス利便性を飛躍的に向上させることを目的としている 。2024(令和6)年2月には、東京都、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構、東京臨海高速鉄道株式会社の3者で事業計画の検討を行うことに合意がなされており、事業化に向けた動きが加速している 。
郊外側では、現在の終点であるつくば駅からJR常磐線が通る土浦駅(新土浦駅)まで、約10km延伸する計画が茨城県等によって進められている 。これは、つくば市と、茨城県南部の主要都市である土浦市との間の「ミッシングリンク(途切れていてつながっていない区間)」を解消し、TXの整備効果を県央・県北地域(水戸市やひたちなか市、日立市など)にまで波及させることを狙いとするものだ 。また、災害時などにおける常磐線との代替ルートを確保する広域的な確保の観点からも重要視されている 。
注目する点としては、茨城県がこの土浦延伸を単独で整備する場合と、都心側の東京駅延伸と「一体的」に整備した場合の比較検討を行っていることだ。県の試算によれば、一体整備を行うことで事業の費用便益比(B/C)が向上し、単独(土浦延伸単独整備)では黒字化に43年かかる採算性が、一体整備では27年に短縮される見込みであると示している。
このことから、茨城県は都心延伸との一体実現を強く目指す方針であることがうかがえる。
とはいえ、秋葉原駅から東京駅の延伸、ならびに都心・臨海地下鉄新線については、国の交通政策審議会答申において位置付けがなされているが、現時点において土浦側への延伸計画について位置付けがなされておらず、南北で事業進捗のスピード感が異なっている現状がある。
築地・勝どき・晴海などのまちづくりに影響
都心・臨海地下鉄新線の実現は、経由する各エリアのまちづくりに大きな影響を与えるという視点で述べていきたい。
※参考とした情報:中央区「令和5年度地下鉄新線検討調査報告書 概要版」
【築地エリア】
再開発と一体となった新駅 「新築地駅(仮称)」は、現在大規模な再開発計画が進む築地市場跡地に隣接して設置される計画である。
中央区の検討では、地上やデッキへスムーズにアクセスできる駅構造とし、都営大江戸線築地市場駅との接続や築地場外市場などへの回遊性を高めることがコンセプトとされている 。5万人規模の多機能スタジアムを核とする未来都市の玄関口として、新駅がその価値を最大限に高める役割を担うことになる。
【勝どきエリア】
タワーマンションの建設が相次ぎ、人口増加が著しい勝どき・月島・豊海エリアでは、都営大江戸線勝どき駅の混雑が課題であり。近年では、TOKYO BRTが開業し、環状第2号線を利用した新橋方面へのダイレクトなアクセスを可能にしたものの、今後も再開発が進展することが考えられ、輸送力の強化が求められている。
そのような中、新線の「勝どき駅(仮称)」は、この既存駅と地下で接続することが検討されており 、利用者の分散による混雑緩和が期待される。
【晴海エリア】
「鉄道空白地帯」が解消する。
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の選手村跡地「HARUMI FLAG」が位置する晴海五丁目周辺は、BRTは走行しているものの、最寄り駅まで距離があるため「鉄道空白地帯」といえる。
「晴海駅(仮称)」の設置は、この長年の交通課題を根本的に解決するものであり、住民の利便性向上はもちろん、エリア全体の価値向上に大きく寄与することは間違いない。中央区の検討では、地上へアクセス後、デッキレベルのネットワークへスムーズにアクセスできる駅構造を検討している。
概ねのスケジュール
二つの延伸計画は、それぞれ異なるプロセスとタイムラインで進められている。
はじめに都心側である都心・臨海地下鉄新線については、2024(令和6)年2月の3者合意を受け、今後は環境影響評価や都市計画決定の手続きが進められることとなっている 。その後、事業認可(国交省)、詳細設計、建設工事認可(国交省)を経て運行開始となるが、現時点で具体的な開業目標年は公表されていない。
TX土浦延伸については、茨城県が公表したロードマップによると、2024年頃から2030年頃までを「フェーズ2:調整と磨き上げ」期間とし、関係者との調整や追加調査を行うとしている 。その後「フェーズ3:具体的な計画内容の決定」を経て、開業目標は2045年頃に設定されている 。長期的なプロジェクトではあるが、現時点において具体的な目標年が示された意義は大きいと考えられる。
今後の想定として、茨城県においては、都心側との一体整備の方が事業効果や便益が大きくなるという試算を行っているため、今後、国の交通政策審議会の中で土浦延伸を含めた一体整備のあり方について議論が行われるものと想定される。
つくばエクスプレスと常磐線との関係性
TXとJR常磐線は、都心と茨城方面を結ぶ路線として、競合と補完の関係にある。土浦延伸が実現すると、この関係性は新たな段階に入る。
最大のポイントは「リダンダンシーの確保」である。現在、茨城県から都心への鉄道アクセスはつくば市や守谷市をはじめとしたTX沿線を除き、実質的にJR常磐線に大きく依存している。
ところが、TXが土浦市内で常磐線と接続することとになれば、県央の水戸市やひたちなか市、さらには県北の日立市、県境に隣接するいわき市から都内へアクセスする際に、仮に、土浦駅以南において不通となった際には、TXを利用することで都心へアクセスすることが可能となる。つまり、相互に代替輸送を担うことが可能となる。
このことは、首都圏全体の鉄道ネットワークの強化につながるとともに、広域的な都市圏政策として役割・意義が非常に大きい。
また、試算では、東京延伸と一体整備された場合、東京駅〜土浦駅間の所要時間は約57分となり、現在の常磐線快速(約74分)と比較して約17分の短縮効果が見込まれている。これにより、利用者の選択肢が広がり、サービスレベルの向上が図られることになる。
一方で、JR東日本にとっては一部で課題となる。まず、JR東日本が運行する特急「ときわ」は東京駅〜土浦駅間を約50~55分で結んでおり、延伸後のTX(約57分)と所要時間がほとんど変わらなくなるため、直接の競合相手となることが考えられる。前述したように、TXの主目的は、JR常磐線の混雑を和らげる目的でつくられており、そのためJR東日本にとっては特急のライバルになるという難しい問題に直面することが考えられる。
筆者自身の考えとしては、防災や交通手段の多様化などの面、さらには広域的な都市圏政策の観点からはTXの土浦延伸は実現すべきと考えているが、JRとの利害をどのように調整していくのか注目したい。
おわりに:今後、注目されるまちづくりエリアについて
TXの延伸計画は、単なる鉄道路線の延伸にとどまらない。都心、臨海部、そして北関東をつなぐ新たな大動脈を形成し、首都圏の人の流れ、経済活動、そして土地の価値を大きく変容させるポテンシャルを秘めている。特に、ここ数年の市街地再開発では、特定都市再生緊急整備地域の指定もあり、東京23区の東部側での動きが顕著であり、TX線の延伸計画が実現していけば、JR常磐線沿線なども注目されていく可能性が高い。
今後、特に注目すべきは以下のエリアと考えている。
【東京駅周辺〜日本橋エリア】
TX延伸と都心・臨海地下鉄新線という二つの新線が結節する、新たな交通の要衝となることに加えて、日本橋から常盤橋へかけて大規模かつ連続的な市街地再開発が進められている。
【築地エリア】
築地市場跡地における巨大な再開発プロジェクトの成否が新駅の価値と直結する。
【勝どき・月島・豊海エリア】
木造密集市街地が点在していることに加えて都心部に働く方々の居住地として今後も再開発が進展する可能性が高い。
【晴海エリア】
鉄道という新しいインフラを得て、ウォーターフロントの職住近接エリアとしてどのように成熟していくのか、今後の動向が注目される。
【つくば〜土浦エリア】
延伸ルート上の新駅および中間駅周辺で、どのようなまちづくりが行われるか。新土浦駅(仮称)周辺での再開発計画なども検討されていく可能性が高い。特に、都内への通勤圏域として再度注目されていく可能性がある。
これらの計画が現実のものとなるには、多くの調整と時間が必要となっている。しかしながら、その巨大なインパクトを踏まえれば、今後の動向を注視していく価値は十分にあるといえる。今後、事業許可などの具体的な動きが出てきた段階で再度、記事にしてお届けしたい。
中央区公式サイト 都心・臨海地下鉄新線