オメーラとは背負ったフリルの数が違うんだよ『ロリータ・ファッション』著:嶽本野ばら
『ロリータ・ファッション』著:嶽本野ばら
ああ、この人はお洋服が好きなんだろうなあという人を見ると、高揚と羨望のまなざしを向けてしまう。私はロリータではないしファッションに詳しいわけでもないけれど、この本を推し、かつ同じような人にも読んでほしいなと思うのは、ほかならず「おのれの美学」を持っていることのかっこよさを讃えたいから。まずこの本の帯を見てほしいのです。「オメーラとは背負ったフリルの数が違うんだよ」これだけでもう手に取るには十分ではないですか。
本書は「下妻物語」でもよく知られる嶽本野ばらさんによるエッセイ集で、先の帯のことばと、リボンやレースのようなあしらい、カバーを外してなおかわいい装丁の本。
Vivienne Westwoodにはじまり、MILK、Jane Marple、PINK HOUSEにCOMME des GARÇONS、HERMESやISSEY MIYAKE、ひいてはSHEINとサン宝石についてまで、嶽本さんがそれぞれについて綴ったエッセイがずらりと並びます。
目次を見て、どのメゾンのお洋服も持っていないわ…とおずおずと開きましたが、案ずることはありません。何かにときめき狂い、それを前にはひれ伏してしまうくらいの好意や衝動を知る人なら、共感してしまう節があるはず。
「胸のときめきを抑え切れず、周囲から呆れられつつも自分の財布の中身に釣り合わぬお洋服を買うことは健全な病み」と嶽本さんが言うように、ロリータの方は、より強くときめきを抱ける人なのではないでしょうか。そしてそれはとても尊いこと。
ロリータ・ファッションが敬遠される理由の一つに、高額であることが挙げられます。小物だけでも高いのに、それで全身コーディネイトするとなると、とても現実には購入出来ない。加えてデイリーでの着回しがやれないから、コストパフォーマンスが悪過ぎる―。(中略)
お洋服で他者に虚栄を張るならば、CHANELやDIORという解りやすいメゾンのものにしますよ。虚栄心―ではなく、僕達、ロリータが着ることで得ようとしているものは気位なのだと思う。大袈裟ですが矜持といい換えてもいい。
そもそもなぜ私たちは服を着るのか?嶽本さんは本書でJ・アンダーソン・ブラックの『ファッションの歴史』を引用しながら、被服の目的は身体保護、貞節や身だしなみ、セックスアピールの堅持、そして何よりは権力と富の力の表現…
要約すれば所属を知らしめるものであるといいます。ロリータにおける所属とは仲間を意味するものではなく、矜持であり、“個”の原点であると同時に“個”の美学。魂をより自分に同化させる為にロリータはロリータ・ファッションに身を委ねるのだと綴っています。
自分のBeの肩書きを、装いが語ってくれる。案外本人よりもお洋服のほうがおしゃべりな人もいるのかもしれません。お金がかかっても後ろ指をさされても好きなこと、貫きたいあなたの矜持はなんでしょうか。おのれの美学なしに笑ってくるやつには負けずに生きましょうね!私たち。
著者:プロフィール
嶽本野ばら
京都府宇治市生まれ。1998年に初のエッセイ集『それいぬ――正しい乙女になるために』でデビュー。2000年に初の小説集『ミシン』を刊行して以降、少女文化を原点にした独特の世界観で支持を集める。主著に三島由紀夫賞候補作となった『エミリー』『ロリヰタ。』の他、『鱗姫』『カフェー小品集』『下妻物語』『ハピネス』などがある。
ロリータ・ファッション
[著者] 嶽本野ばら
[出版社]国書刊行会
[価格]¥3,740(税込)
[テキスト/天野加奈]
1993年大分生まれ。2023年より本屋「文喫 福岡天神」ディレクターとして企画や広報を担当。
大切にしている本は『急に具合が悪くなる』(宮野真生子・磯野真穂 著/晶文社)