「次世代につなげたい」 四日市市、鳥出神社の鯨船行事 8月14日は町練り、15日本練り
ユネスコ無形文化遺産で、250年近い歴史がある四日市市富田地区の「鳥出神社の鯨船行事」。少子高齢化で、祭りの担い手が減少する中、鯨船保存会は、祭りの魅力を発信し、子どもたちの郷土愛を育み、次世代につなげる努力を続ける。
行事は4つの組(北島組・中島組・南島組・古川町)から1艘ずつの鯨船の山車が出され、張りぼての鯨を追いかけ仕留める演技を行う。毎年8月14日に町練り、15日に鳥出神社に奉納する本練りがある。
2016年にユネスコ無形文化遺産に登録された。それまでも国指定重要無形民俗文化財だったが、ユネスコ登録を機に同じ文化遺産に登録された他の祭りと連携し、祭りの継承や意見交換のネットワークができた。しかし、練習に何日も費やす負担、かつて漁師町だった同地区の住人が、今は会社員になり、残業を切り上げたり、有給休暇を取ってまで祭りに関わるのは難しいなど、時代の流れで祭りの価値が伝わらず担い手が減少するのは、どの組も課題だ。
【太鼓叩きと唄の練習をする中島組の有志】
練りは裏方を含め100人ほどが必要。中島組は46世帯しかなく、市外に引っ越した子ども世帯や、四日市大学の学生の手を借りる。組ごとで唄や踊り、太鼓の叩き方に特徴があるが、中島組は10年ほど前、太鼓叩きの継承者が一人になった。その人が病気で余命わずかになり、有志が集まり毎週太鼓叩きの練習をし、中島組の太鼓叩きを守った。
北島組、中島組、南島組は慣例で毎年どこかの組が祭りを行わない。今年、中島組は行事を行わない年だが、有志が太鼓や唄の練習を続ける。伝統を守ろうと、熱い思いで太鼓の撥(ばち)を握るが、飲食を楽しみながら交流の場にもなっている。行事に参加する年は、子どもたちも練習に参加。小学生は本番では太鼓叩きができないが、興味津々で、休憩時間に太鼓を叩いて遊ぶ。
保存会は地域の学校で郷土を学ぶ授業で行事の魅力を伝える。富田小学校では実物の半分ほどの大きさの鯨船で、演技を楽しむ。富田中学校では、祭りを守る意義を伝え、自分たちが何をするべきか問題提議を行う。
富田鯨船保存会連合会では年間を通して、住民以外の人にも祭りに触れられる場所が必要と「鯨船会館」の建設構想があるが、場所の確保が課題。伝統を守るため様々な取り組みをしてきた加藤正彦保存会会長は「地区住民で支え合う気運が盛り上がってきた。住民の熱い思いを感じながら、この暑い夏、鯨船行事を見てほしい」と語った。