中野区新井の実力店『algorithm』でパン生地の違いを楽しみたい。クロワッサンにブリオッシュ、ライ麦入りも
中野駅北口から北に13分ほど。新井五差路交差点に面した場所にあるのが『algorithm(アルゴリズム)』だ。ガラス張りのおかげで、交差点の反対側からもパン屋さんだと認識できる。国産小麦をメインに、チーズやナッツ、フランス産チョコレート、オーガニックシュガーといった副材料も素材にこだわったパンばかり。種類ごとのパン生地の違いや味わいも感じられる。
ラインアップは60種類ほど! 選ぶワクワクを感じてほしい
店名の『algorithm』とはコンピューターの計算過程の意味。パン作りに対して計算をし尽くして、これまでにないような、おもしろさのあるパン作りに挑戦したいというオーナーシェフの津田雅彦(つだまさひこ)さんの意気込みを込めた店名だ。お店は2023年6月にオープンし、1年余り。「お店に入って、パンがたくさんあるのをみてワクワクしてほしい」と、現在焼き菓子を含めると1日に60種類ほどの商品を店頭に並べている。
フランスの伝統的なパンをイメージしたラインアップがベースになっていて、カンパーニュやバゲットに代表されるハード系の食事パンも種類が多い。
津田さんの自信作はライ麦の入った食事パン、セーグルだ。専用の発酵種を使っていて、ライ麦が30%使われている。生成色の生地は、香りには酸味を感じるが、口に含むと予想を裏切るほど酸味が軽い。しっとりとしていて少しねちっとした食感なのに、咀嚼(そしゃく)しているうちにほろほろとほどけて、小麦の甘味も感じられる。大きなパンだが日持ちもする。小分けにしてラップに包んで冷凍すると長く楽しめる。
クロワッサンはサイズが大きいのも特徴だ。焼きたてを味わってほしいと1日に何度かに分けて焼き上げている。パリっとした食感の外側としっとりした内部のコントラストが絶妙だ。
どのパン屋さんでも人気のクリームパンにも、『algorithm』らしい特徴がある。
表面に製パン用語でダッチと呼ばれるパリパリしたトラ模様が付けられている。ふんわりしつつも適度な弾力のある生地になめらかなクリームがたっぷり。パン生地にも自家製カスタードクリームにも生クリームが入っていて、リッチな味わいだ。パンを割ると、クリームがふわっと香るところも印象深い。
流行にも敏感。塩バターパンに、夏仕様のフリュイなど、季節に合わせて登場
スタンダードなパンに特徴を持たせる一方で、流行を意識した商品も。
パンスイスは、クロワッサンの生地でクリームやチョコレートを挟み込んで焼いたもの。『algorithm』ではクロワッサンに使う生地を、さらに折り込み回数を増やして一層パリパリした食感になるようにしている。
渦巻状のエスカルゴも、パリッとふわっとした食感の生地にレーズンやピスタチオを巻き込んで味と食感が加えられている。
もうひとつ、夏においしいパンとして準備されたのが塩バターパンだ。生地でカルピスバターを巻き込んでゲランドの塩をトッピング。表面はカリッとしつつ、じわっと伸びるような弾力の生地からじゅわぁっと塩気のあるバターがにじみ出す。ボリュームもしっかりあって、ひとつでエネルギーチャージできそうだ。
地域の人たちに届けたいパン生地のおいしさ
津田さんがパン職人を志したのは32歳。学生時代からものづくりが好きで、社会人になった最初の約10年間はテレビの制作会社に勤務していた。ディレクターとして人気バラエティ番組も担当していたが、やはり当時の番組制作は激務で休日もほとんどない状態だった。「一生この仕事やっていくのは難しい」と考えていたとき、ある番組でパン屋さんを取材して、興味を持ったことが転機になった。
それから15年余りの間で、個人経営のパン屋さんを皮切りに、複数の有名ベーカリーで勤務。
「最初は2年ぐらい修業して、パッとお店を出したいと思っていました。ところが、やり始めたらあれもこれも覚えたいと、それぞれのお店からいいところを吸収していたら15年も経っていました」
満を持しての独立にあたり、現在の場所にお店を開いたのは、繁華街や駅周辺から少し距離があり、街路樹の緑も豊かですぐ近くに大きな公園もある環境が気に入ったから。
近隣には昔ながらのスタイルのパン屋さんはあるが、本格的なハード系のパンを焼くお店は珍しい。材料にもこだわっている『algorithm』のパンは値段が高いという印象を受ける近隣の人もいた。オープンして間もないころ、セーグルやカヌレといった商品名を初めて聞いたという人も珍しくなかった。
「最近は『小麦によってこんなに味が違うのか』『加水が多い少ないでも変わるんだね』とパン生地の違いを楽しみに買いに来てくださる方も増えてきました」と津田さん。材料と技術を掛け合わせたおいしさが街の人たちに伝わり始めたようだ。
また近隣にはフランス出身の人たちが多く住んでいて、今では常連に。「『algorithm』のパンがいちばんだ」と話してくれるそうで、津田さんもうれしそう。
生地の違いも楽しみたい『algorithm』のパン。初めて訪れるなら、店主自慢のセーグル、バゲットなどのハード系に加えてブリオッシュ生地で作ったパンも試してもらいたい。
ブリオッシュは卵がたくさん入っていてほんのり甘いリッチなパン。パン屋さんそれぞれが個性あるブリオッシュを作っているが、『algorithm』ではしっとりとケーキのような食感に仕上げている。小型のプチブリオッシュ、表面に砂糖をまぶしたシュクレ、食パンのスタイルのブリオッシュナンテール、ケーキのようなクグロフがブリオッシュ生地で作られている。
バラエティ豊かなパンが並ぶ姿が目にも楽しい『algorithm』。どんなパン生地が自分の好みに合っているか、通って試したくなるパン屋さんだ。
algorithm(アルゴリズム)
住所:東京都中野区新井4-1-3/営業時間:10:00~18:00/定休日:火・水/アクセス:JR中央線・地下鉄東西線中野駅から徒歩13分
取材・撮影・文=野崎さおり
野崎さおり
ライター
2016 年よりライターとしての活動を開始し、複数のweb媒体で食べ物やお出かけネタを中心に執筆。おいしいものはもちろん、作る人とその背景に興味あり。都内をバスか徒歩で移動するのが好き。