絵巻の場所に「長屋跡」2棟確認 中には銑鉄精練の鍛冶炉 本年度の橋野高炉跡発掘調査で
釜石市の世界遺産「橋野鉄鉱山」の高炉場跡で進められる発掘調査の本年度の成果が9月28日、一般に公開された。2018年から10年計画で実施する「橋野高炉跡範囲内容確認調査」の一環。昨年度に続き、三番高炉の西側、長屋があったとされる場所で発掘調査が行われ、江戸時代末期(1861~63年ごろ)の高炉稼働時に描かれた絵巻とほぼ同地点に長屋建物2棟の遺構を確認。建物敷地内では、高炉で作られた銑鉄を精錬し純度を高めるための鍛冶炉の跡が見つかった。
本年度の発掘調査は7月29日から開始。成果を公開する現地説明会には午前と午後の2回に計26人が参加し、市世界遺産室の髙橋岳主査から説明を聞いた。発掘調査が行われたのは、長屋想定地の3つのエリア。昨年度、試掘した最も南側(大門側)のエリアは範囲を広げて調査した。
その結果、昨年度見つかっていた鍛冶炉のさらに南側に新たな鍛冶炉を検出。粘土に囲われ、中には炭が見られる。炉の構造は1899(明治32)年に東大の研究者が現住田町の錬鉄工場で聞き取りし、図面に描いたものと同じ。周辺からは炉に風を送るフイゴの羽口片や鍛冶滓、れんがが出土している。これにより、高炉でできた銑鉄をそのまま出荷するほか、鍛冶炉で錬鉄にして品質を高めた形で出荷していたことが確実となった。今回発見された鍛冶炉の外側に新たな柱穴も見つかった。鍛冶炉を設置するために建物を増築した可能性があり、約24.5坪の建物敷地を検出した。
他の2エリアは試掘調査を実施。柱穴が見られる長屋建物跡1棟を確認した。約15坪を検出し、鍛冶炉とみられる跡も見つかった。1892(明治25)、94(同27)年の橋野鉄鉱山の建物記録には15坪の長屋が記録されている。遺物は鉄銭が多く出土した。北側の試掘箇所では道状遺構を検出した。
この他、三番高炉の補足調査も行われた。高炉絵巻に描かれる三番高炉(改修前の仮高炉)は水車場とフイゴ座が、これまでの発掘調査で確認された位置と異なることから、「仮高炉は現在、石組みが残る高炉より北側にあったのでは」と推測し掘削したが、今回の調査ではその痕跡は確認できなかった。
今回の調査で見つかった錬鉄にするための精錬用の鍛冶炉は、炭が残り内部構造が分かる形で検出されており、同所で行われていた作業を証明する貴重な証拠となった。市世界遺産室の髙橋主査は「高炉絵巻に描かれている三番高炉西側の長屋3棟のうち、2棟を確認できた。錬鉄製造用の鍛冶炉が見つかったことも大きな成果。絵巻の通り、長屋がもう1棟あるのか、さらに調査を進めたい」と話した。
本年度の発掘調査は11月上旬までを予定。出土したフイゴの羽口片や鍛冶滓、鉄銭、陶磁器片などの遺物は橋野鉄鉱山インフォメーションセンターで12月8日まで展示されている。