【中学受験伴走】不合格だったとき 親はどう言葉をかけるべき?
教育ジャーナリスト・佐野倫子さんによる「中学受験伴走」連載。今回は「不合格」という現実に直面したときに、親子ともにどのように前を向いていけばいいのでしょうか。先輩の体験談を集めました。
【画像】「これが葉っぱ?」発達障害の特性を強みにした「葉っぱ切り絵アーティスト」 驚きの作品教育ジャーナリスト・佐野倫子です。「中学受験伴走」連載、今回はまさかの不合格を知ってからの、親子の軌跡をレポートします。中学受験の第1志望に合格するのは3~4人に1人です。すべての家庭に桜が咲くとは限りません。
そこで今回は不合格だったご家庭の、心に残ったお話をいくつかご紹介します。
「何が何でも開成へ」と思い続けた12年
「夫は、今でも出身校である開成の仲間とよく飲んでいます。部活も厳しい運動部に所属していたので、余計に結束が固いのだと思いますが、いかに開成が楽しかったかについて結婚当初から聞いていました。だから息子が生まれたら絶対にあの環境に入れてあげたい、と。
私は地方出身で、中学受験のことはちっとも詳しくありませんでしたから、素直に『東京にはそんな学校があるんだ。彼の経験と意志があれば、そこに息子も入れるかも』と気軽に考えていました。
実際、夫はとても一生懸命息子をサポートしました。正直、サポートというよりは、指揮・管理という言葉のほうが近いかもしれません」
6年生の合格率は40%~50%
「息子も期待に応えるべく、必死で努力していました。まさに家族一丸。しかし6年生になってからも、合格率は40%~50%。毎日祈るような気持ちで過ごし、緊張感とストレスからか、私は秋から生理が止まってしまったぐらいです。
『でも最後はきっと、全て報われて合格する!』と、どこかで信じていました。さらに、少なくとも第3志望の学校までには入るだろう、とも」
2月3日まで4校すべて不合格
「2月1日の午前に開成を受け、2月3日の開成の結果が出るまで、2日・3日も受け続けたにもかかわらず、開成を含めて結果は4校全て不合格。4日は芝中学校に挑戦する予定だったのですが、息子は精神的に追い込まれたのと疲れが一気にでたのか、腹痛がひどくなり、4日は受験することができませんでした。また、開成に落ちた衝撃で、一家が思考停止状態になり、5日も受験に行くことができませんでした。
1月に受けた学校からは合格をいただいていたので、すべてが不合格だったというわけではありません。また、結果的にこちらに進学することになったのですが、見学時にも通わせたいと思った学校で、進学実績もとてもいいですし、満足はしています。ただ、そのことは開成に不合格になったこととは別物で。
結局、思い入れが強すぎたんです。もし入ったとしても、その中学に行けば万事OKだというのは幻想だし、そもそも中学受験は、長い人生の通過点ということもよくわかっています。だけど、涙はずっと止まりませんでした」(千葉県共学に進学した保護者)
12歳の中学受験が、いわば「みずもの」だと事前に頭では理解していたと話してくれました。そのことと、母の心の痛みは別物なのだと筆者にも強く伝わってきました。
そう、どんなに頑張っても、全員が合格する受験はない──。
ではそのとき、どうやって「先輩ママ」たちは前に進んだのでしょうか? 2024年終了組、第3志望に進学された方々にお話を伺ってきました。
入学したら不合格のことは忘れる!
「入学してからは、日々新しいことの連続。『部活はどうしよう』『友達できるかな?』と心配しつつ、私は毎日のお弁当作り。娘は楽しみなことや、ドキドキすることが盛りだくさんで、毎日あっという間に過ぎている様子。正直、入学式まではくよくよしていたのですが、現実が始まったら親子とも、すぐに適応! あれ? なんであんなに泣いていたんだろう!? って今では思っています」(都内女子校進学の保護者)
「保育園のときからの仲良し3人。うちふたりは小学校受験で私立小に進学。うちの娘だけ公立小に進学し、小3から中学受験塾に通いました。最後は個別塾にも。それなのに、第1志望から第3志望まで不合格で、合格をいただいたのは小学校受験組と同じ系列の中学校……。正直に言うと、『それならば小学校受験にすればよかった……』と茫然としました。あんなに塾に毎日のように通ったのに。小学校受験のほうが、親子の負担は少なかったのでは、と。でも娘は『友達がいて心強い』と言ってくれて、入学してみればすっかり女子校生活を謳歌していますね。最初から仲良しの子がいたことで、小学校からの持ち上がり組とも仲良くできているようで、親としては子どもに教えられた形です」(神奈川県女子校進学の保護者)
なんと嬉しいお話! そう、これまで何十というご家庭に取材をしてきましたが、ほぼ全員の方が「入学したらそこには新しい生活があって、すぐに合格不合格は遠ざかる」ということをお話しされます。時間と、子どもたちの力が必ず未来を拓いていくのだと。
そして最後に。
冒頭でご紹介した、開成が不合格で悲しんでいたお母様と息子さんですが、今、中学ではゼロから始めた運動部で活躍をされ、高校に進学されています。高校時代に短期留学をするため、今楽しく英語を頑張っているとのこと。「うちの子には今の学校、結果的にとてもあっていました」と数年越しのメッセージをいただきました。
何度でも言いましょう。「中学受験は、通過点」です。進んだ先で、たくさんの素敵なこと、成長の糧があります。
貴重な体験をシェアしてくださった皆様に、心から感謝と、エールを送ります。
取材・文/佐野倫子
※『2025年 最新やってしまったこと速報』を読む
『中学受験ウォーズ 君と私が選んだ未来』著:佐野倫子(イカロス出版)