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初登場の岡山で地元の酒や餅とのコラボも、12人の日本舞踊家集団 弧の会が表現する「素踊りでの身体表現そのもののカッコ良さ」

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弧の会「酒餅合戦」

「魅せる」「集う」「つくる」をコンセプトに9月1日(金)にグランドオープンした岡山芸術創造劇場 ハレノワ(以下、ハレノワ)。12月3日(日)には開館事業のひとつである弧の会『コノカイズム』が上演される。弧の会とは、流派を超えて結集した12人の日本舞踊家からなる集団で、1998年に結成。「紋付」「袴」「素踊り」をテーマに数々の新作舞踊を発表し、日本舞踊の可能性と伝統芸能の継承を目的に東京をはじめ全国各地で公演を開催している。このたびの『コノカイズム』のプログラムにもある「御柱祭」(おんばしら)は、長野県の諏訪大社で7年に一度行われる『式年造営御柱大祭』をモチーフに制作した作品で、2000年の初演以来再演を重ねている人気演目だ。弧の会では、日本の伝統神事を取り上げた作品も複数ある。弧の会としては初となる岡山公演を前に、弧の会で代表も務める市山松扇とハレノワの渡辺弘プロデューサーとの対談が実現した。

市山松扇

日本舞踊界の革命児がハレノワに登場!

――まずハレノワの開館事業ラインナップに弧の会を選んだ理由を教えてください。

渡辺:岡山は伝統芸能が盛んで、日本舞踊にも興味のある方が多いと思っています。ハレノワの開館事業として歌舞伎や琉球舞踊など広範囲のものを選ばせていただいた中で、噂に聞いていた日本舞踊の革命児の方たちにも登場してもらいたいなと思いました。失礼ですが、その噂がどんなものかということも楽しみにして選ばせていただいて。ずばり「観たい!」ということです(笑)。

――今、日本舞踊の革命児との触れ込みがありましたが、まずは日本舞踊とは何かということから松扇さん、教えてください。

松扇:日本舞踊の起源は古くから様々な説があるのですが、歌舞伎とは切っても切れなくて。歌舞伎の技法を基本として踊っているのが日本舞踊でございます。この7月に重要無形文化財の総合認定を受けまして、日本舞踊も沖縄の組踊や歌舞伎とやっと肩を並べることができました。簡単に説明すると、日本舞踊は太鼓や三味線、笛などで奏でる邦楽に乗って、日本の民族衣装である着物を着て踊るとご認識いただければと思っております。音やリズムに乗った直線的な踊りと、心情を大切にして曲線的に動く舞、演劇的な要素の仕草というこの3つの要素で構成されます。

――先ほど渡辺さんから「岡山は伝統芸能が盛ん」というご発言がありましたが、この公演をキッカケに、岡山とのつながりについて、何か考えていらっしゃることはありますか?

松扇:私個人としては岡山でも踊ったことがございますけれども、弧の会として初登場となります。弧の会は「一人でできないことをやろうよ」といって集まりました。先人から引き継いできた大切な日本舞踊を、とにかく全国のいろんな方に観ていただいて、次の世代につなげたい。お若い方に日本舞踊の良さを知ってもらいたくて結成しました。弧の会の「弧」という文字は円の一部を指していまして、弧の会のメンバーが一人一人集まって、大きな円、踊りの輪を作ろうじゃないかと。それともうひとつ、「弧」のという文字には日本列島という意味が含まれているそうです。それで、全国を回って日本中の人に観ていただき、踊りでつながりたいと思っていました。今回、岡山に初登場ということでメンバーも盛り上がっていまして、ひとつピースが埋まったことが嬉しいです。とにかく岡山の人に会いに行って、自分たちも楽しもうじゃないかというような気持ちでおります。

「御柱祭」 撮影=舘 健志

――弧の会のコンセプトが輪っかで、踊りでつながるというのは、ハレノワの事業に通じるものがありますね。

渡辺:そうですね。岡山はよく晴れることから「晴れ」と「ハレ舞台」の「ハレ」をかけ、その輪が広がっていくことを願って「ハレノワ」と名付けましたので、輪になるというのは非常に通じるものがあると思います。いろいろ流派があって、伝えられてきたものの違いがあるなかで、よくこれだけの人数が集まったなと素朴に思うのですよ。

松扇:お流儀の壁はありますよね。例えば同じ曲で踊っても振り付けが違うとか、形が違うとか、思いが違うとかはあります。ですが、やはり自分たちは舞踊家として生まれて育ってきて、日本にはこんな素敵なものがあるんだと、一度は日本舞踊を観て、知っておいてもらいたい思いがありました。みんなで集まって、お流儀の壁を取り払って、今の人たちに日本の舞踊が面白いと思っていただきたい。同じ思いを持った者が集まったのが弧の会なのですね。ですから、こういう発表できる場をいただけることの幸せを感じております。今回、岡山に呼んでいただいて本当に嬉しく思っております。

渡辺:皆さんのスケジュールを合わせるのは大変じゃないですか。

松扇:そうなんですよ。分かりやすく言うとそれぞれ会社が違って、仕事も違うという感じです。一国一城の主の皆さんが集まっているので、スケジュールを合わせるために夜中に稽古することもあります。

――こうして岡山で上演できるというのも奇跡的なことですね。

松扇:劇場というビンと張り詰めた空気の中、お客様が目の前にいて、キャッチボールもできる。舞台の上の我々と、観に来てくれた方とが一体になる。劇場は素晴らしい空間じゃないですか。時間を共有する瞬間がたまらなくて、やっているんですよね。特に今回は今年を締めくくる公演になっておりますので、とても楽しみにしております。

公演や演目を通じて地域とのつながりを

「若獅子」

――演目は「若獅子」「酒餅合戦」と「御柱祭」です。この演目を選ばれた理由を教えてください。

松扇:1時間半から2時間という限られた時間の中で、どれだけ踊りが楽しかったと思ってくださるかが勝負だと思っていて、演目はメンバーとも相談して入念に選ばせていただいきました。「若獅子」で幕を開き、とにかく楽しかったと思っていただける「酒餅合戦」を2番目に持ってきました。日本舞踊の三大要素のひとつとして「仕草」とお伝えしましたけれども、この演目は「お酒を飲んだ」とか、「ほうきで掃除している」とかいうことが仕草で分かります。また重要文化財の総合認定で認められたものに「素踊り」があります。素踊りの「素」は素顔の「素」。なかなか歌舞伎では上演されない形ですが、かつらや衣裳を着用せず、素のままで踊る。「酒餅合戦」も素踊りですので、くるっと回ってお餅になったり、女性に変わったり、ある時は風や波、のれんにも変わったりします。そんな楽しい踊りが「酒餅合戦」です。

渡辺:「酒餅合戦」では岡山の酒造会社の酒樽を用意できました。お餅も地元のものをご用意しています。

松扇:ありがとうございます。

渡辺:地元の方々のご協力が得られてよかったなと思っています。

「酒餅合戦」

松扇:そういうご協力があってこその総合芸術だと思っています。踊りは敷居が高い気がするとよく聞きますが、ドレスコードはありませんし、楽に観てくださればと思います。我々も初めて観る方に分かってもらいたいという熱い思いがあるので、演目ごとに簡単な解説をさせていただき、舞台上とお客様とでキャッチボールができればと思っております。「酒餅合戦」ではまさしく、お餅でのキャッチボールになりますね(笑)。

渡辺:解説がつくのがいいですよね。

松扇:皆さんと作品を共有できればなと思っております。本当にとても楽しいトークになると思います。メンバーもかなり面白い人たちが集まっています(笑)。

「ジュニア育成プロジェクト」 撮影=仲間勇太

――ハレノワでは、岡山市内のひとり親家庭を対象にした招待枠を公演ごとに設けておられます。ひとりでも多くの方に芸術文化に触れてもらう取り組みとして、弧の会でも「ジュニア育成プロジェクト」をされています。方法はそれぞれ異なりますが、文化芸術を後進に伝えるという思いは共通しているのではないでしょうか。

渡辺:ご多聞に漏れず岡山はお祭り好きで、子どもたちが参加しています。中劇場では子どもたちがお琴を弾いたりしているので、弧の会の公演にも来てもらえると嬉しいです。いろんな方に『コノカイズム』を観ていただいて、刺激を受けていただけたらいいなと思っています。今回は叶いませんでしたが、また次があるのでしたら弧の会の皆さんにワークショップを実施していただきたいです。これは次にまた来ていただくキッカケとして残しておいて、岡山の方たちとの交流をぜひまたお願いしたいと思います。

松扇:ぜひ機会がありましたらお声掛けください! 歌舞伎と違って日本舞踊は一般の方も趣味としてできますし、プロになることも可能です。後進を探すのも私たちの使命と思っておりまして「ジュニア育成プロジェクト」を立ち上げました。一緒にやるという意味では、地域と連携していきたいですね。今回のように近所のお酒屋さんのお酒が出てきたら観ている方も嬉しいと思いますので、これもいいよということがあったら、お知恵を拝借できればと思っている次第です。

渡辺:岡山は桃太郎がいますので、ぜひ。

松扇:桃太郎ですよね、なんて言ってもね! 知らない方はいないくらいの知名度ですからね。

「御柱祭」木落し

渡辺:各地にいろんな桃太郎伝説があるので面白いかなと思っています。ちょっとお聞きしたいのですが、どうして諏訪神社の『御柱祭』を取り上げようと思われたのですか?

松扇:『御柱祭』が7年に1回しかないということもありますし、25年くらい前に作った当時は今ほどテレビで取り上げられていなくて。今は木落としのシーンはニュースで取り上げられるので、丸太にまたがっているところを見たことがある人も多いと思いますが、実はそこに行くまでにいろんな神事があるのですね。お祭りを観に行った時に感銘を受けまして、どうにか踊りにならないかなと。仲間にも「無理だよ」と言われていたのですけども、それをやりたい。調べに調べたら、オペラで1回上演されていたけれど、演劇、踊りにはなっていないと聞いて、みんな若かったのでメラメラと燃え上がり、やるぞ! となりまして。チャレンジ精神ですね。おかげさまで評価をいただき、代表作になりました。これからもチャレンジ精神は忘れずに演じていこうかなと思っております。

渡辺:オリジナル作品を生み出すとなると、ある種、新しい振りをつけなきゃいけないでしょう。照明も凝ってらっしゃるじゃないですか。あの辺は演出されるのですか?

松扇:そうですね。みんなで考えています。もちろん古典舞踊家なので古典の技法を使っておりますけれども、太鼓も現代とシンクロさせるために(太鼓芸能集団)鼓童さんのご許可をいただいて、素晴らしい音で踊ることができました。声を上げたり、ひっくり返ったり、袖をまくったり、「舞踊家としてあまりお行儀良くないんじゃないかな」というようなことにもチャレンジしています。「そういうのはどうかな」とおっしゃった先生もいらっしゃいましたが、最後は皆さんが認めてくださって。一歩踏み出すことの勇気を持つ大切さは、弧の会で活動していたからこそわかった部分が大きいですね。

「御柱祭」 撮影=舘 健志

渡辺:弧の会の「御柱祭」では、みんなでサッとジャンプするじゃないですか。僕は西洋的なダンスや舞踊を観ているから、(日本舞踊でのそれに)びっくりして、ハッとして。西洋的なものと一瞬シンクロする部分もあったり、東と西がパッと合わさったような感じもしました。

松扇:バレエダンサーが同じ人数で集まって踊ったら、きっともっときれいに揃うと思うのです。我々も音をずらすことはしないのですが、ダンス的な要素でいうとメンバーが12人いて、7流派が入ってるので、決まった形があったとしても、「うちはここまで手を上げるよ」「いやいや、うちの流派ではこの位置までだよ」という違いがあるわけです。なので、あえて揃えないカッコ良さがあると思っています。僕たちは自分の流儀の大切なものを背負って踊っているので、自分の流儀で自分が一番カッコ良く見える形をすればいいじゃないかと。正直、高さとかは全然揃っていません(笑)。

渡辺:すごい迫力なので、不揃いな所もカッコ良いですよ。

松扇:日本には独特の間とか呼吸がありますが、弧の会を20何年やっているので、音と振り付けは揃っています。素踊りは本当にごまかしがきかない、身体表現そのもののカッコ良さをご覧いただくことになりますので、その迫力がぐっと前に出るのではないかなと思います。

渡辺:ますます公演が楽しみです。

取材・文=Iwamoto.K

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