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バンドネオン奏者・三浦一馬が、クラシック界を担うメンバーと届ける映画音楽~『バンドネオンシネマ』『バンドネオンシネマⅡ』インタビュー

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三浦一馬 (C)日本コロムビア

バンドネオンの第一人者として絶大な人気を誇る一方、多くの企画やプロデュースに携わり、日本の音楽界を牽引する一人として活躍する三浦一馬。クラシック界を担うメンバーと共に映画とミュージカルの音楽を豪華サウンドで届ける『バンドネオンシネマ』『バンドネオンシネマⅡ』が、2024年10月・11月に東京・大阪にて開催される。バンドネオンの新たな魅力にも出会えそうな公演を前に、三浦に話を聞いた。

――今回、映画音楽を取り上げようと思われたのはなぜでしょうか?

正直なところ、多くの方にとってバンドネオンはまだまだ馴染みがうすい楽器だと思うんです。まずは少しでも聴いていただきたいということで、バンドネオンで皆様がご存知の曲を演奏しようと思い、映画音楽のコンサートを企画しました。実は10年ほど前にも映画音楽に挑戦したことがあり、今年8月には、それを再現するような形で『バンドネオンシネマ』を東京の浜離宮朝日ホールで開催しました。今回はその続編として、10月25日(金)に同じく浜離宮朝日ホールで『バンドネオンシネマⅡ』、そして11月9日(土)には8月の公演と同じプログラムを大阪で演奏します。バンドネオンの音楽と言えば、まず「タンゴ」、「ピアソラ」などが思い浮かびますし、もちろんそういう曲を演奏することが多いのですが、かといって、そのためだけの楽器ということではまったくない。少しライトな気分でお楽しみいただける、そんな公演内容になっています。

――『バンドネオンシネマ』と『バンドネオンシネマⅡ』で、コンセプトは違うのでしょうか。

『バンドネオンシネマ』は、70分公演を昼と夕方に行い、映画音楽の巨匠の作品を演奏します。『バンドネオンシネマⅡ』は休憩なし80分の公演で、映画だけでなくミュージカルの音楽もお届けします。どちらもストーリーに沿った音楽ではありますが、それだけを切り取っても素晴らしいものだという点は共通していると思います。ゲストの方にもご参加いただき、豪華なステージになりそうです。

――『バンドネオンシネマⅡ』では、クロマティックハーモニカが加わるのも興味深いです。バンドネオンとハーモニカ、どちらも哀愁たっぷりの楽器で、メロディアスな映画音楽にぴったりですね。

哀愁、まあ、そうかもしれませんね。音を出した後に表情がつけられるという点も、他の楽器の奏者からは「いいよね」とか、「ずるいよね」とよく言われます(笑)。

太陽がいっぱい ニーノ・ロータ(映画「太陽がいっぱい」より)

――三浦さんはこれまでも素晴らしい奏者の方々と共演されていますが、今回初めて共演される方もいらっしゃるのでしょうか?

初めてご一緒させていただく方も多いです。ただ、この公演に限らず、音楽の世界ってどこかで繋がっているというか、会ったことがなくてもずっと知っている人のような気がするというか。おそらくリハーサルをするだけで打ち解けた雰囲気になれると思いますし、だからこの世界に何年いても楽しいんですよね。

――様々な編成にあわせて三浦さんが編曲されることが多いそうですが、今回はいかがですか? アレンジにおいて一番大切にされていることは?

以前この企画に取り組んだ際にアレンジャーさんにお願いしたものや僕が編曲したもの、加えて、今、公演に向けて新たに編曲しているものもあります。

アレンジで大切にしているのは、共演者に文句を言われない譜面にすることですね(笑)。冗談みたいですが、それは結構大事なことで、まず皆さんが気持ちよく演奏できるということは、マストで考えなければいけないんです。楽器の奏法として適しているか、無理がないかなどを考慮するためにも、楽器をよく知っている必要があります。何より、それぞれの楽器がよく響くようにしたい。音型や音域などによって、響きやすい、響きにくいってある気がするんです。できる限り、一番よく響くように書きたいと思っています。

そしてなんと言っても、作曲家が書いた原曲の素晴らしさは決して無くしてはいけないものです。これは自分だけでなく、おそらく共演する皆さんが思っていることだと思います。いくら手を加えようが、根幹の部分で感じているものは、絶対に表現したい。編曲によって無くしてはいけないのはその部分ですね。そこは心がけています。

――映画音楽の良さとは?

基本的に映像に寄り添って曲を書くわけですから、聴いている人にとってわかりやすいものではあるでしょうね。例えば、聖書の物語を宗教音楽や絵画で表したように、何か伝えたいものをよりわかりやすく我々に伝えてくれるものですし、映画を観たことがなくても、音楽を聴いただけでその世界観やストーリーが想像できるというのも、映画音楽ならではだと思います。もっと壮大にコンチェルトやシンフォニーで表す音楽もありますが、3分、5分の世界で、よりスピーディーにわかりやすく感じられるという点で、「映画音楽」という一つの独立したジャンルで括ってもいいと僕は思います。

三浦一馬 (C)日本コロムビア

――その「映画音楽」を、バンドネオンの演奏で聴く醍醐味とはどんなことだと思いますか?

それは、この企画をやる上で命題として突きつけられているところかもしれないですね。原曲にバンドネオンが入っていない作品がほとんどですから。でも僕は、「もしもこうだったら」という、パラレルワールドのようなことをよく考えるんです。バンドネオンのために書かれた曲だけを演奏していたら、その世界にしかいられないけれど、「もしバッハの時代にバンドネオンがあって、バッハがバンドネオンの曲を書いていたら」、「ガーシュインの時代に、ブロードウェイで、ジャズとかにバンドネオンを使っていたら」というように、「もしもこういう世界だったらどうだろう」というファンタジーをもとに、バンドネオンでいろいろなことをやってみています。今回も考え方は一緒で、「もしこの銀幕の時代に、映画を彩る音楽としてバンドネオンが使われていたら、同じメロディでもこんなふうに奏でたんじゃなかろうか」と思い描きながら演奏しているので、そんなことを感じていただけたら嬉しいです。

――ジャンルが限定されると思われがちな楽器で、他のジャンルの音楽が演奏されているのを聴くと、「この音色が似合わないはずがなかった」と目から鱗が落ちる思いをすることが多いです。三浦さんが垣根を越えていろいろな分野に挑戦されているのは、師匠のネストル・マルコーニ氏の影響もあるのでしょうか?

弾いている自分ですら、固定観念のようなものにとらわれている部分がある気もしますが、思われ「がち」というところがポイントなんですよね。本当は何をやったっていいわけです。それこそ師匠であるマルコーニ先生は、タンゴに限らず、70〜80年代からクロスオーバー的な音楽や、コンテンポラリージャズのようなものもやっていましたし、作曲、指揮、編曲、プロデュースなど、いろいろなことをやっている人なので、師匠の影響というのはもちろんありますね。当時から意識はしていました。あんなふうにマルチに活躍できる人になりたいと思っていますね。

――映画にまつわる思い出などはありますか?

新しい映画をどんどん観るほうではないのですが、今回取り上げる『ニュー・シネマ・パラダイス』は子どもの頃から好きでした。イタリアに住んでいた幼少期の記憶なども重ね合わせながらトトとアルフレードの話を観ていました。曲も大好きですし、ノスタルジーに走りすぎているかもしれませんが、やはり、若い頃にそういう想いを持って観ていたものって、ずっと好きですよね。大人になってから観たものもいいですけれど。

――コンサートをどのように楽しんでいただきたいですか?

独立した音楽としても素晴らしい作品ですし、世界中の誰が聴いても、一度耳にしただけでグッと心を掴まれてしまうメロディの数々ですから、ティッシュ、ハンカチ、たくさん用意していただいて……(笑)。それは冗談にしても、昔を懐かしく思い出す方もいらっしゃるでしょうし、僕自身がそうだったように、音楽を通して知らなかった映画を観てみようと思うきっかけにもなると思います。素晴らしい共演者と、素晴らしい響きのホールで演奏できることを、僕もすごく楽しみにしています。

そしてバンドネオン奏者としての視点になりますが、この公演を機にバンドネオンという楽器を知っていただき、僕が普段やっているような音楽も聴きに来ていただけたら嬉しい。どこにだって可能性はありますから、入り口は何でもいいのだと思います。

取材・文=正鬼奈保

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