「コロナ後に需要倍増」ホラー作品が映画界を救う?批評サイト97%好評価『悪魔と夜ふかし』の気鋭配給会社と最新トレンドを考察
スティーヴン・キング絶賛『悪魔と夜ふかし』日本上陸
作家デビュー50周年を迎えたホラー界の巨匠スティーヴン・キングをはじめ、著名人やメディアもこぞって絶賛するなどアメリカで大きな話題になったホラー映画『悪魔と夜ふかし』が、2024年10月4日(金)より日本公開。本作はテレビ番組の生放送中に起きた怪異を“ファウンド・フッテージ”スタイルで描き、あのRotten Tomatoes批評家スコアで驚異の97%フレッシュ(※2024/9/10現在)を叩き出している。
なぜ今“クラシック”とも言えるタイプのホラー映画が全米でスマッシュヒットを記録したのか? 本作を配給した<IFCフィルムズ>をはじめとする新興配給、そしてインディペンデント・ホラーの「勢い」についてホラー識者の意見を仰ぎつつ、その魅力を紐解いていこう。
米映画界のネクストブレイク<IFCフィルムズ>とは
現在のアメリカ映画界におけるインディペンデント製作・配給会社の二大巨頭といえば、<A24>と<NEON>だ。
前者は『ムーンライト』『ミッドサマー』『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』等、ここ数年アカデミー賞で話題を席巻する作品を連発し、日本でも多くのファンがその作品を心待ちにしている。
その最大のライバルであるNeonは、『パラサイト 半地下の家族』『TITANE チタン』『逆転のトライアングル』『落下の解剖学』『Anora』(原題)と、5作品連続でカンヌ国際映画祭パルムドール受賞作の北米配給権を獲得した。
IFCフィルムズはこの2社に次ぐ存在で、ニューヨークを拠点に2000年に設立。これまでの累計興行収入でトップ3は『マイ・ビッグ・ファット・ウェディング』、『6才のボクが、大人になるまで。』、『天国の口、終わりの楽園。』と続く。
『悪魔と夜ふかし』世界的ヒットの要因は?
『悪魔と夜ふかし』は今年3月22日に1034スクリーンで封切られ、初日から3日間で283万ドルの興行収入をあげて6位にランクイン。これはIFCフィルムズにとって歴代ナンバー1のオープニング成績である。そして北米では12週間にわたってロングラン公開され、最終的に1000万ドルの興収を記録。世界展開の試金石とされる北米で大成功を収めた。
その期待通り世界興行収入は現在1500万ドルを突破し、IFCフィルムズ配給のホラー映画としては最大のヒット作となったのはもちろん、累計興行収入でもIFCフィルムズ作品の中で前述のトップ3に続く4位の興収を記録。オーストラリアの“ほぼ無名”な監督コンビがメガホンを取ったノースターの低予算ホラー映画としては、異例のヒットとなった。
この大ヒットの要因のひとつとして、インディペンデント・ホラーが2024年のハリウッドを席捲している状況が考えられる。映画評論家の小林真里氏に聞いた。
北米でホラーが好調な傾向は近年ずっと続いているのですが、今年はパンデミックと昨年のハリウッドの俳優組合と脚本家組合のストライキの影響で全体的に新作映画の劇場公開本数が減っている中で、ホラー映画、特にメジャー以外のインディ・ホラーが目立っている印象です。
北米のホラー映画の市場占有率が10年前に比べ、なんと2倍以上アップしているのですが、この急激な成長の要因はひと言では語れません。権威の認定によるホラーのステイタス向上(『ゲット・アウト』がアカデミー賞で作品賞含む4部門にノミネート、カンヌ国際映画祭でボディ・ホラー『TITANE/チタン』がパルムドール受賞)、スター主演のフランチャイズ成功による一般的なホラー認知度の高まり(『死霊館』『クワイエット・プレイス』『スクリーム』など)、メジャーな映画祭でのミッドナイト上映の盛り上がり(トロント、カンヌ、サンダンスなど)、そしてインディ・ホラーの隆盛が挙げられます。
インディ・スタジオの2大巨頭「A24」と「NEON」が良質なアート・ホラーをコンスタントに発表し、確かな結果を残し、IFCフィルムズやライオンズゲートといったライバル会社も負けじとホラーを製作/配給しながらハリウッドを活性化させているのです。幅広い層に向けた多種多様なホラーが製作されていることも人気の大きな理由の一つではないでしょうか。
インディホラー豊作の年!Jホラーもヒット作続々
各社がしのぎを削って様々なアイディアをもちいてホラー映画を製作することで、質も量も向上。その結果、2024年のインディペンデント・ホラーは例年にないほど豊作となった。『悪魔と夜ふかし』を筆頭に、様々な作品が北米のBOX OFFICEを席巻している。
A24のタイ・ウェスト監督『X エックス』シリーズ3作目『MaXXXine』(原題)、ローズ・グラス監督、クリステン・スチュワート主演のボディ・ホラーにしてクライム・スリラー『Love Lies Bleeding』(原題)。Neonのニコラス・ケイジ主演のホラー『Longlegs』(原題)、ハンター・シェイファー、ダン・スティーヴンス主演『Cuckoo』(原題)。シドニー・スウィーニー主演の修道女ホラー『Immaculate』。ミラマックス製作、ウィラ・フィッツジェラルド主演の『Strange Darling』(原題)。そしてIFCフィルムズが配給した、殺人鬼の視点で描かれたカナダ発のスラッシャーホラー『In a Violent Nature』(原題)などなど、北米で話題を呼んだ作品たちが今後も続々日本に上陸してくるだろう。
こうしたインディペンデント・ホラー映画にファンが期待するのは、そのオリジナリティや創造性だ。今年は日本でも、興収50億円超えの特大ヒットとなった『変な家』をはじめ、10億超えの『あのコはだぁれ?』、中規模公開ながら興収2億を突破した『サユリ』など、バラエティ豊かなホラー映画が多くの観客の心を掴んだ。
『悪魔と夜ふかし』は、『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』(2022年)、『レリック ―遺物―』(2020年)など世界的に注目を集めているオーストラリアから誕生した傑作。目の肥えた日本のホラーファンは本作をどう観るのか? ぜひ劇場のスクリーンでチェックしよう。
『悪魔と夜ふかし』は2024年10月4日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国順次ロードショー