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ピアノ上達への近道。ピアニスト本田聖嗣が伝授する「3マス流 本田メソッド」【3か月でマスターする ピアノ】

NHK出版デジタルマガジン

ピアノ上達への近道。ピアニスト本田聖嗣が伝授する「3マス流 本田メソッド」【3か月でマスターする ピアノ】

 ピアノ未経験ながら街角ピアノやYouTubeなどのピアノ演奏を見て「あんな風に弾けたらいいな」と思う人や、子どものころに習ったピアノにもう一度チャレンジしたい人って、意外に多いのでは?

 ここでは、プロから学生まで数多くの生徒を指導してきたピアニストの本田聖嗣さんが、自分の体を客観的に観察し、無理なくピアノが上達する、“3マス流 本田メソッド”を紹介します(『3か月でマスターする ピアノ』から抜粋)。

ピアノと出会う ~最速でうまくなろう

“ 姿勢” でその後の上達が変わる

 姿勢一つでピアノの上達度合いは大きく変わります。正しい姿勢でピアノに向かうと、演奏しやすくなるのですが、じつは、プロのピアニストでも、いすの高さが少し変わっただけで弾きにくく感じることがあります。どうしてだと思いますか?

 ピアノは指で鍵盤を押さえて音を出しますが、指の動きは手や腕、肩、胴など、体全体と連動しています。ピアノはいすに座って弾きますから、いすの高さや位置によって体とピアノの相対的な位置関係が変わります。つまり、ピアノを自由に弾くためには、いすの位置や高さも含めて、弾きやすい姿勢で座ることが必須になります。

 私がすすめるピアノを弾くときのよい姿勢は、「無駄がなく、無理のない状態」です。ピアノでは、速い手の動きや、両手を大きく開いたり、交差させたりと、いろいろな動きが出てきます。よい姿勢であれば、手を自由に動かせ、体はその動きに自然と追随することができます。しかし、姿勢が悪いとこれができません。姿勢の悪いまま練習していると、どこかで“ 上達の壁” にぶち当たってしまい、悪い癖がついている分、よい姿勢へ矯正するのも大変です。

 よい姿勢を保つには、次のポイントに注意しましょう。

 まず、いすには浅めに腰掛け、背中をまっすぐ立てます。ピアノといすの距離や、いすの高さの調整は、鍵盤の上に手を置いたとき、ひじを中心に、肩と鍵盤に置いた手の角度が鋭角にならず、90°よりも大きくなるようにします。ひじの高さが鍵盤よりも少し上になるよう、いすの高さを調節してください。また、いすがピアノに近すぎると手が窮屈に、遠すぎるとひじが伸びるので、弾きにくくなります。

 ピアノの上手な人が身近にいる場合は、姿勢を見てもらいましょう。1人で練習する場合は、スマートフォンで撮影・録画して確認すると、客観的に判断できます。

“ サルの⼿理論” で合理的な動きを⼿に入れる

 “サルの手理論”とは、私が編み出したピアノを弾くための手の動かし方の法則です。私たち人間の祖先はサルに近かったと考えられていますが、サルは片手で枝をつかみ、枝から枝へと危なげなく移動しますよね。じつは私たちの手も、第3関節を曲げてつかむようにすると、仮に枝などにぶら下がっても自分の体重より重いものを支えられるほど、しっかりとものをつかむことができます。サルが自然にやっていることですから、私たちにとっても合理的な動きのはず。この“第3関節を使ってものをつかむ動き”を、ピアノの鍵盤を弾くときに応用するのが“サルの手理論”です。

 例えば、人さし指1本でピアノの鍵盤を1つ弾くときも、第3関節を使って太い枝をつかむときと同じように動かします。

 初めてピアノを弾く人のなかには、手に力が入り、手全体で鍵盤を押し込むすように弾く人や、逆に指先だけでひっかくように弾いてしまう人も多いです。指先から第三関節まで使い、手全体でしなやかにものをつかむような動きをピアノ演奏にも応用しましょう。

 なお、ピアノの鍵盤は上から無理なく弾くとよい音が出ます。卵をつかむように指先を軽く曲げ、弧を描きながら鍵盤を弾くのがコツですが、このとき手首の位置も鍵盤の上側のよい場所にあるのがポイントです。“サルの手理論”の動きを身につけると、ピアノを弾く際の合理的な手の動きが理解しやすく、演奏も楽になります。

体の力を抜くストレッチ うらめしや体操

 私たちはふだん、生活の中で何か物を取ったり、つかんだり、押したりと、手を使った動作を自然に行っています。楽器だけを特別視する人も多いのですが、本来、ピアノを弾くことも手を使う動きの延長線上にあると私は考えています。

 では、何がピアノを弾くことを難しくしているのでしょうか? 今までいろいろな人にレッスンしてきて思うのは、「うまく弾けないと感じる人の多くは、体に力が入っていて、力みが抜けない」という事実です。特にオトナの場合は、もともと体が硬いという場合もあります。初めてピアノを弾くときは、誰でもわからないことだらけです。音楽の知識以前に、体の使い方についても慣れないことがたくさん出てきます。座り方や構え方、鍵盤を弾く手のフォーム、動かし方など、気を配ることがいっぱいです。そのため、いつの間にか体に力が入り、手はこわばり、肩は上がって、気がつけばガチガチに。これは、テニスやゴルフなどのスポーツでも同じで、力が入るとボールは正しく飛ばず、うまくプレイできないのです。

 “3マス流 本田メソッド”ピアノレッスンでは、オトナが最速で上達することを目指しますが、基本の練習はオーソドックス。まずは右手、左手、それぞれ片手で最後まで弾けるように練習します。しかし、片手である程度弾けるようになっても、今度は両手で合わせるときに大きな壁が現れます。両手になったとたん、手は止まり、次第に体が硬くなって、肩が上がってくるのです。

 この悪循環を止めるには、すぐに体をリラックスさせること。大きく深呼吸して体の緊張をほぐすことも効果的ですが、特におすすめなのが「うらめしや体操」です。

 みんなが思い浮かべる幽霊のイメージ通り、両手を胸の前に出し、手首をブランと垂らした状態で、手や腕をブラブラさせます。このとき一緒に「うらめしや~」と言いながら、ふざけて体を大げさに動かすと、よりリラックスできます。肩が上がってきたらすぐに「うらめしや体操」をして、脱力しましょう。リラックスした体で練習を続けることがピアノの上達の近道です。

講師:本田聖嗣(ほんだ・せいじ)

ピアニスト。東京都出身。麻布学園中学・高等学校を卒業後、東京藝術大学音楽学部器楽科ピアノ専攻入学。在学中に、パリ国立高等音楽院ピアノ科にも合格。半年間、日仏双方の国立大学に在籍。藝大を卒業後、パリ国立高等音楽院では、ピアノ科と室内楽科の両方でプルミエ・プリを取得。合わせて高等演奏家資格(DFS)を最優秀(トレ・ビヤン)の成績で獲得する。新聞社勤務の父と作家の母のもとで生まれ育ち、子どもの頃から物事を“なんでも言語化”する癖がつく。ピアノ演奏はもちろん、フランス語、英語、料理、鉄道、飛行機、IT、歴史、地理、など、広大な趣味と興味の守備範囲を誇る。

◆『NHKシリーズ 3か月でマスターする ピアノ』
◆文 小林渡
◆イラスト 雉○/ Kiji-Maru Works
◆写真 安部まゆみ

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