【脱・東京】東京にアトリエだけ残し、広い田舎で工房も家も菜園も楽しむ【鹿児島県出水市】
「故郷にいつ戻るかどうかを悩み続けるより、戻ると決めてから整えよう」。そんな決意から二拠点生活を始めた人がいる。ステンドグラスのアトリエを営む井町さん家族だ。月の何日かはアトリエのある東京に通いつつ、鹿児島県出水市に設けた住居兼アトリエで暮らし働くご夫妻に話を聞いた。
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掲載:2025年4・5月合併号
鹿児島県出水市(いずみし)
鹿児島県の北西部に位置し、人口約5万人。冬になると毎年1万羽を超えるツルが渡来する地として知られる。温泉や豊かな自然に恵まれ、「出水麓武家屋敷群」や「出水城跡」などがあり、自然と歴史の薫り漂うまち。新幹線の出水駅を有し、交通利便性が高く、生活がしやすい。鹿児島中央駅から出水駅まで新幹線で約25分。鹿児島空港から連絡バスで約80分。
自分たちらしい暮らしをと、東京から故郷へ移住
キャンプを楽しむ井町さん家族。息子の紀翔(のりと)くんは友達と庭でキャンプすることも。
井町直紀(なおのり)さん(50歳)、美穂(みほ)さん
東京のデザイン事務所で出会い結婚。直紀さんのフランス留学を経て2006年に東京でステンドグラスのアトリエ「Atelier naor(i アトリエ・ナオリ)」を設立。2019年に鹿児島県出水市に住居兼アトリエを新築。アトリエでは制作・販売のほか、教室やワークショップを行っている。直紀さんは定期的に東京のアトリエで教室を続けている。
冬には1万羽を超えるツルが飛来する鹿児島県出水市。田畑のなかにポツンと立つステンドグラスのアトリエ。それが井町直紀さん・美穂さん夫妻の出水ベースだ。
直紀さんとステンドグラスとの出合いは、大学時代に旅したフランス。大聖堂のステンドグラスに光がさして映し出される美しさに魅了された。卒業後は念願のデザイナーとして東京で就職しながら、趣味でステンドグラスづくりを続行。そんななか、「渡仏してステンドグラスの技術を学びたい」と思っていた直紀さんを美穂さんが後押し。直紀さんは仕事を辞め、単身フランスに渡ったのだ。
3年後に帰国して結婚。2人で都内にアトリエ・ナオリを設立した。教室の生徒さんたちにも恵まれたが、「出水に戻ってこないか」という直紀さんの両親が気がかりだった。「アトリエのこと、子どもの学校、すべてが変わるので課題がいっぱいでした。ですが、いつ帰るか悩んでいても解決しない、絶対に楽しいことが待っている! 自分たちらしい暮らしをつくっていこう、と移住を決めました」と美穂さん。息子の紀翔君が小学校に上がる年を移住のタイミングと定めた。
「ステンドグラスを学んだのもフランスの片田舎。制作には案外雑音がない田舎が向いているとも思いました」と直紀さん。
一方の美穂さんは静岡県出身。移住で実家や友人とも離れる。「ペーパードライバーで大丈夫? 実家と離れる、友達がまったくいない、などの不安が押し寄せてきた」こともあったそう。また東京の生徒さんたちからの希望もあり、東京に拠点を残し、生活基盤は出水に移す二拠点生活へとたどり着いた。
東京では見られなかった広く大きく、美しい空
「庭でバーベキューがしたい。ロフトやブランコもつくろう。畑には何を植えよう?」と家族の夢を盛り込んだパースを描いて準備をスタート。直紀さんの実家に間借りしながら、移住1年で夢の我が家兼アトリエが完成した。
出水の生活で2人が感動したのは、大好きな空が大パノラマで見られることだ。雲のかたちを楽しみながらジョギングしたり、満天の星に心震わせたり。
実家のそばの土地に建てた住居兼アトリエ。近々、自分たちでデッキを張る予定だ。
10年以上続いた東京のアトリエはそのまま開設。直紀さんは出水と東京の両地を行き来し制作と教室を続けている。
パネルは主に直紀さんが、ランプやミラー、花器などは2人でそれぞれ手がけ、アクセサリーは美穂さんが担当。
窓から見える朝日。この美しい風景を家族で眺める、この時間が至福のひととき。
食材のおいしさにも驚いた。
「肉の色や野菜のみずみずしさが違う」と美穂さん。土に触ることが好きな直紀さんは菜園をつくり、「煮詰まると、庭の草を数本取るだけでもリセットされる」と安らぎを感じている。
ただ、いいことずくめではない。二拠点どちらも中途半端になることに悩んだり、かえって慌ただしさを感じることも。
それでも、鹿児島での展示会が定期化してスケジュールが組みやすくなってきたほか、東京のアトリエを移転してコスト削減するなど、「両方のいいとこ取り」に腐心している。
「じつは移住前に描いた夢が全部は完成していません。今後は、少しずつそれらを形にしていきます」と、幸せな暮らしづくりは今も進行形中だ。
自分で育てたものを食べられる家庭菜園も日常の幸せ。野菜づくりは生徒さんに教えてもらうことも多いとか。
東京生活に慣れ親しんだ紀翔君も、自然に囲まれ、人との距離が近い暮らしにすっかりなじんだ。
東京と出水の暮らしでよかったこと
両拠点で得た人とのつながりを保てる! 出水での生活は両親の近くにいることができるので安心感があります。父がやってきた米づくりを引き継ぎ、庭でつくった野菜を食べられるのもうれしい。一方で、東京にアトリエがあることで長年通ってくれている生徒さんたちと継続してかかわれるのもうれしいですね。(直紀さん)
出水の大パノラマの空が楽しめる
東京にいるころから空を眺めるのが大好きでした。東京の空は小さい四角だけど、こちらは大パノラマ。自然に包まれる生活に豊かさを感じています。東京には友達もいるし、実家の静岡も近い。拠点があることでつながっているという安心感があります。(美穂さん)
出水市移住支援情報
住まいに関する支援や子育て支援が充実
新幹線の停車駅があり大阪まで1本で行ける出水市。身近に自然がある一方で、生活が便利で飲食店が多いのも魅力だ。移住して住宅を取得した人へ「定住住宅取得補助金」のほか、リフォーム補助などがあり、住まいに関するサポートが手厚い。また、18歳までの医療費無料や乳幼児への子育て応援券など、子育て世帯への支援も充実している。
出水市は、冬になると毎年1万羽を超えるツルが渡来する地として知られている。
サクラの名所でもある東光山公園の展望台から見た出水市のまちなみ。
文/マエダマリ 写真提供/井町直紀さん