ビジネスケアラー増加、経済損失は9兆円も⁉介護離職せず働くには
2025年にはいわゆる団塊世代が75歳以上の後期高齢者となり、介護や医療業界などは今以上に様々な社会課題に直面することが予想されています。こうした課題は「2025年問題」ともいわれています。その中でも特に昨今増えている「ビジネスケアラー」について焦点を当て、今後の対策について考えていきます。介護と仕事を両立させるための支援制度など、介護離職しないために知っておきたいことなどをお伝えします。
「ビジネスケアラー」とは?超高齢化社会の現状
ビジネスケアラーとは、働きながら親や身内などの介護をしている人のことを指します。仕事と介護の両立は難しく、仕事・介護どちらも満足のいく状況になければ、介護をきっかけに退職しなければならない「介護離職」に追いやられる人もいます。
介護離職は避けたいことですが、こういった事態が会社そして社会という大きな単位においても影響が出始めています。その背景にはやはり日本の高齢化が挙げられます。
日本は高齢化社会あるいは超高齢化社会などといわれ、高齢化が進んでいることは皆さんご存じだと思います。介護と高齢化は切り離せない関係にありますので、ここで「高齢」や「高齢化」という言葉の意味について改めて確認しておきたいと思います。WHO世界保健機関による高齢化の定義は以下のようになっています。
<総人口に対する65歳以上の割合>
65歳以上が全体の7%を超えると「高齢化社会」。社会が高齢化している目安となります。そして14%以上で「高齢社会」となり、21%以上で「超」が付きます。7%刻みで高齢化に対する細かい表現が定義されています。では日本は65歳以上の割合は何パーセントでしょうか?
内閣府が発表している令和6年版高齢社会白書によると2023年10月1日現在、65歳以上の人口は3622万人で、総人口に占める65歳以上人口の割合は29.1%に達しています。
つまりWHOの定義によると「超高齢社会」に突入しています。上の表が7%刻みであるように、仮に次のランクがあるとすると28%以上が「超超高齢社会」となり、日本はその水準も突破していることになります。2030年には30%を突破し、少子化の影響もあり、日本は右肩上がりで高齢者の割合が高まると推計されています。
約7万人が介護を理由に離職、最も多い年代は?
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「超超高齢社会」である日本において、当然介護を必要とする人も増えています。公的介護保険制度が始まったのが2000年。厚生労働省の令和3年度介護保険事業状況報告(年報)によると、当時は要支援・要介護者はおよそ300万人弱でしたが、現在は700万人に達しようとしています。
それに伴い介護に従事する人も増え、そして介護離職も増えています。厚生労働省の雇用動向調査(2022年)によると約7.3万人が介護を理由に離職しており、年代別では55歳から59歳が最も多く占めています。まだまだ働き盛りで、職種などにもよりますが、重要なポストに就いている人が多い世代です。
今回のテーマであるビジネスケアラーは離職にまでは至っていませんが、やはり「残業ができない」「勤務形態の変更」など様々な影響が考えられ、企業などの生産性低下につながることは避けられそうにありません。経済産業省の試算によりますと2030年時点ではビジネスケアラーは約318万人に上り、経済損失額は約9兆円と試算されています。
介護を理由に離職しなくていいように、そしてビジネスケアラーとして生産性を維持しながら働けるような仕組みづくりが今後の大きなポイントとなりそうです。
介護離職しないために知っておきたい公的制度
今はまだ介護問題に直面していないという人も多いでしょう。ただし、私たちは一律に年齢を重ねていきます。親や身内の介護にいずれ向き合うことになるかもしれません。今は関係なくても、最低限公的な制度などを理解しておくことは大切です。
まずは公的介護保険に対する理解を深めてください。介護保険は40歳以上から被保険者となります。被保険者は1号と2号に分かれます。
ビジネスケアラーの多くは「第2号被保険者」である現役世代に該当します。第2号の場合、介護保険の給付を受けることができるのは「末期がんなど特定疾病によって要支援者・要介護者になった者」に限定されますが、65歳以上の「第1号被保険者」は介護になった理由は問われません。原則1割の費用負担で介護サービスを受けることができます。以下が居宅サービスの1カ月あたりの利用限度額となります。
<居宅サービスの1カ月あたりの利用限度額>
例えば「要介護1」で週数回のデイサービスなどを利用した場合、月額16万7650円までは原則1割負担で、その額を超えると全額自己負担となります。当然介護の度合いが重たいほど、利用限度額は大きくなります。
介護保険は市町村の役所・役場が窓口となります。介護と向き合う際はしっかり制度を理解しておくことが大切です。例えば「区分変更申請」です。要介護1と認定されていても身体の状況は日々変わっていきます。より状態が悪化した場合などは、いつでも区分変更の申請ができます。要支援・要介護認定は定期的な更新がありますが、状況が変われば更新を待つ必要はありません。等級が上がればより手厚い介護保険のサービスを受けることができます。
また介護する側、ビジネスケアラーが会社員の場合、雇用保険の「介護休業給付」の活用も検討してください。一定の条件を満たした家族を介護するために会社を休む場合、その間の賃金が全く支払われない時などに休業開始時賃金日額の67%が給付されます。
雇用保険は失業や育児休業の際に利用するものという印象を持っている人が多く、介護休業給付の存在自体を知らないという人も少なくありません。同じ人の介護に対して「最大93日まで3回を限度」に給付を受けることができます。例えば父の介護の後、今度は母の介護となった場合はさらに93日と別カウントとなります。
介護休暇など会社の支援制度を事前に知っておく
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厚生労働省は仕事と介護の両立に向けて「仕事と介護の両立支援ガイド」や「仕事と介護の両立支援実践マニュアル」などを作成し、企業に周知する活動を行っています。
どれだけ取り組んでいるかは企業次第ですが、ビジネスケアラーにとって今後、一段と働きやすく、介護をしやすい職場環境になっていくことが期待されています。在宅ワーク制度を積極的に取り入れる企業も増えており、ビジネスケアラーにとっては働きやすくなりそうです。
また、年次有給休暇の未消化分を一定日数まで介護休暇に積立できる制度を導入した企業もあります。社会保険労務士など専門家のアドバイスを踏まえ、就業規則の改訂も行ったようです。有給休暇を毎年すべて消化するのは難しいという人も多く、その未消化分は一定期間後、時効で消滅してしまいます。消滅する前に将来の介護に備え、「介護休暇」として積立ができるのは従業員にとって非常にありがたいですね。
今後、このような企業は増えていくと思います。就職や転職する際に確認する項目に入れておきましょう。
介護費用は平均どれくらいかかる?
公的介護保険制度で一定額まで原則1割で介護サービスが受けられるとはいえ、一定の負担が生じ、また介護保険対象外の支出も想定されます。生命保険に関する全国実態調査(生命保険文化センター、2021年12月発行)によると実際の介護で要した平均費用と期間は以下のようになっています。
一時費用(住宅改造や介護用ベッドの購入など):74万円介護に要した費用のうち、月々の平均費用:8.3万円介護を始めてからの平均期間(介護中の場合は経過期間):61.1カ月(5年1カ月)
あくまで平均で、つぶさに調査結果に目を通しますと、平均から大きく乖離しているケースも少なくありません。介護が必要な人・介護する側それぞれの状況、自宅の状況、地域の状況など様々な要因が影響するため参考としてご覧ください。
一時費用は74万円となっていますが、これもその最たる例で、全く必要なかったという人も一定数います。一方で、数百万円かかったという人も。あらかじめ想定することは難しいので、この平均値を1つの目安に、いざという時に備えて貯めておきたいところです。
月々の平均費用は8.3万円。地域にもよりますが家賃並みの負担となります。先に紹介しましたように50代で親などの介護と向き合う人が増えてきますので、子供の学費と住宅ローンなども視野に入れ、資金計画を立てておくと良さそうです。例えば、住宅ローンはなるべく早く完済できるように30代や40代からやりくりするといった具合です。
介護の平均期間は5年1カ月となっていますが、これは介護中の場合の経過期間も含まれています。つまり、実際はもっと長く介護と向き合う人も多いでしょう。その間の経済面、そして精神面など様々な問題に直面する可能性があります。「老老介護」という言葉もありますが、介護する側も高齢者となり、肉体的にも大きな負担になることも考えられます。
無理なくできる範囲で事前準備を
筆者は数多くのFP相談を受けてきました。その中でも保険の見直しはFP相談の代表例です。これまでの保険相談を振り返りますと「死亡した場合」、「入院した場合」、「がんになった場合」とそれぞれの不安やリスクを口にされる人は非常に多いのですが、「介護する・されることに備えて」といった保険加入や見直し理由を挙げる人はほとんどいません。
また近年はNISAやiDeCoに興味を持つ人が多く、そのような相談が増えています。みなさん圧倒的に「老後の生活費」を意識していますが、やはりここでも「介護」というキーワードが出てくる人はほとんどいません。
まずは介護について知り、意識を高めることがビジネスケアラーになった際、仕事と介護を上手に両立できることにつながりそうです。
ビジネスケアラーに関するQ&A
Q:義理の母が要介護となりました。この場合、介護休業給付の対象になりますか?
A:なります。介護休業給付は実の親のみならず義理の両親も対象となるほか、祖父母や兄弟姉妹も対象になります。またこの場合、夫婦が入籍しておらず事実婚でも「配偶者の両親」として対象となります。
Q:ビジネスケアラーとして親の介護をしていますが、介護費のみならず生活費も負担しています。この場合、贈与税など税金の対象になるのでしょうか?
A:子供として親の介護をし、また生活費を負担しているという状況であれば、社会通念上、妥当とされる金額であれば原則、課税されることはありません。税金は金額や状況によって異なりますので、一度税務署等で確認してみてください。