驚くべき<ニホンウナギ稚魚>の捕食回避行動 食べられてもエラから逃げられる?
日本の食に欠かせない魚であると同時に、絶滅危惧種としても知られるニホンウナギ。
近年、ニホンウナギの捕食回避行動についての研究が進んでおり、Marine ecology progress seriesに掲載された論文(Changes in post- and pre-capture escape ability over development in juvenile Japanese eels)では、ニホンウナギ稚魚は発達に伴い、魚に捕食された後にエラの隙間から脱出できるようになることが明らかにされました。
長崎大学と国立研究開発法人水産研究・教育機構の研究チームは、これまでにニホンウナギの稚魚が捕食されても脱出できることを明らかにしています。
ニホンウナギ稚魚の捕食回避行動
これまで、ニホンウナギ稚魚の捕食回避行動については、長崎大学と国立研究開発法人水産研究・教育機構の研究チームが行った捕食魚(ドンコ)とニホンウナギ稚魚を同じ水槽に入れた観察・研究により、ニホンウナギ稚魚がドンコのエラの隙間を通って脱出していることが明らかになっています。
このように、能動的に捕食者の体内から脱出する生物は、魚類だけではなく無脊椎動物など他の分類群を見ても珍しい行動だそうです。
一方、ニホンウナギ稚魚がどのようにして捕食魚のエラから脱出しているのかは、これまで分かっていませんでした。
どうやってエラから脱出する?
長崎大学大学院の研究チームが2022年より開始したウナギ脱出行動を観察した研究では、硫酸バリウム水溶液をウナギに注入し、一連の様子をX線カメラで撮影しました。
撮影された映像では、体の一部がドンコの胃に達した後に食道からエラへと脱出する個体が見られたほか、完全に飲み込まれた際でも脱出可能な場所を探るかのように胃の中をぐるぐると回る様子が観察されました。
さらに、脱出の際にニホンウナギ稚魚はドンコの食道方向に尾部を差し込み、徐々にエラから脱出することが判明したのです。
一方、脱出に失敗したニホンウナギ稚魚は、平均して200秒程で完全に動きが無くなったといいます。
脱出できるのはある程度成長してから?
捕食されても体を上手く駆使して脱出することができるニホンウナギ稚魚。
1月16日にMarine ecology progress seriesに掲載された論文(Changes in post- and pre-capture escape ability over development in juvenile Japanese eels)では、脱出成功率が成長段階により異なることも明らかになりました。
ニホンウナギは浮遊生活から着底生活への移行に伴い、シラスウナギ(色素発達段階によって複数の段階に区別される)→クロコ→黄ウナギへと発達し、行動や形態が大きく変化することが知られています。
この研究では、この発達に伴う変化が脱出に必要な要因の一つと考え、2021年から2023年にかけて、幅広い成長段階のシラスウナギをドンコに与え、観察を行いました。
その結果、発達が進んでいないシラスウナギは、ドンコのエラから脱出できないことが判明。一方、一定程度の発達が進んだシラスウナギやクロコ、黄ウナギでは脱出できることが分かったのです。
これによりニホンウナギ稚魚は成長に伴い、捕食魚のエラの隙間から脱出するのに必要な形態や能力を獲得していることが示唆されました。
より高い放流効果を得られる可能性
日本ではニホンウナギの資源減少を受け、資源回復策の一つである放流を行っていますが、大型個体では放流水域に適応することが難しく、小型個体では他の魚に捕食される可能性が高いようです。
今回の研究は、どのような発達段階・個体のニホンウナギを放流すれば高い放流効果を得られるのか、その手掛かりとして重要になっていくでしょう。
(サカナト編集部)