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「最終日はもう竿が折れるぐらいの勢いです!!」夜にきらめく稲穂の波、竿燈会メンバーが絶対に見てほしいと念を押す感謝の妙技、最後の「戻り竿燈」とは? 【秋田県秋田市】

ローカリティ!

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仙台七夕まつり・青森ねぷた祭り・ねぶた祭りと並ぶ東北三大祭りの秋田竿燈まつりは毎年8月の3・4・5・6日と決まっており2024年の今年も開幕となった。

会場付近は秋田市山王・大町・中通など主要スポットでいくつかに分かれて出店の準備が進んでおり、いよいよ秋田市が一年で一番といっていいほどに熱く盛り上がる日を迎えている。

◆「経済効果を止めてはいけない」度重なる水害を経て決行

昨年7月に秋田県内に甚大な被害を及ぼした豪雨災害。演技が行われる会場まで徒歩15分圏内のエリアの繁華街は道路が川へと崩落し、住宅街は床上浸水した場所があり、車道で水没し廃車になった車のレッカー、ごみ収集車が多数活動し、年の終わりごろまで片付け作業が続いた。

1年たった今も少なくはなったが片付けが行われている地区もあるという。

そんな中でも経済効果を止めてはいけないと決行した2023年の祭り。そして今年2024年も再び、隣の山形県の庄内地方、秋田県の大仙市や横手・湯沢、由利本荘市やにかほ市など県南地方を中心に大雨の被害はあったものの、コロナ禍による中止だった数年を乗り越え再び全国や世界からも多数観光客を迎え入れて祭りの開催が決定した。

◆竿燈大通りで4日間に及ぶ演技を終えたばかりの夜に、再び光るともしびの稲穂と太鼓のはやしがはじまった

私の学生時代(JKの時代がなぜか何年前なのか数えられない)、竿燈まつりアルバイトとして大町の旧ニューシティ広場付近の飲食店で勤務をしたことがある。多数の観光客の方々に食事を提供し、勤務が終了した最終日6日の夜に、ちょっと店から外に出てと店主やママさんに促された。

そこには演技が終わった近隣の竿燈会メンバーが到着し、撤収作業かと思ったが竿燈の竿などを準備をしはじめたのだ。そのうちに地元住民の方々や商売を終えた方々が集まってきた。

「一体何がはじまるんだろう…?」と疑問に思いながらその時を待ったのだ。

すると、なんと!終わったと思っていたのに再び竿燈の演技が始まった。太鼓や笛、鐘のはやしも四日間連続で演奏してきているはずなのに、最後の力をふり絞った演奏には力強さを感じ、竿をあげる男性陣の力強い演技はそれまでの人生で見たことがないほどにエネルギッシュだった。その演技の最後、ゆっくりと竿は地面へと空気抵抗を受けながら倒れていく。

倒されたと同時に、集まった住民からの拍手。

これが竿燈を行う町内の方々にしか味わえない「戻り竿燈」の最後の姿だというのを後で知ることになった。

◆そもそも戻り竿燈とはいったい何なのだろうか?ネットで調べたものの…?

戻り竿燈について詳しく調べてみようとネットで検索してみたがそこまで詳しく情報が掲載されていなかったこともあり、空き時間を利用して大町にあるねぶり流し館に資料がないか訪問することにした。


実物大の竿燈まつりの造形や、実際に使われるちょうちんのついた竿燈の竿、各町内のちょうちんなどの展示とともに演技の詳細や竿燈まつりのスケジュールなどが細やかに説明されている。

一通り見学したあとにねぶり流し館の職員の三浦敏秋さんにお話を伺った。

戻り竿燈とはどういったものか資料などを探しているのですが…

三浦さん:「実は戻り竿燈というものに定義やルールというものがありません。そのためそれぞれの町内で戻り竿燈を行うところもあれば行わないところもあります。特に行わないことによる罰則などのルールもありませんし、近年では終わった後の深夜帯だと療養中や休んでいる方がいるといった理由のため戻り竿燈自体をとりやめる町内も出てきているという話も聞こえてきています」

つまり、戻り竿燈というのはあくまでそれぞれの町内竿燈会において独自判断にて行われる演技ということだった。そのために特に参考資料や文献などはあまり存在しておらず、町内ごとで受け継がれているものなのだという。

▶開催前夜、竿燈大通り周辺にある現在休業中の秋田の有名デパート木内も明かりがともっていた
▶大町五丁目周辺の旧町名「豊島町」現在も旧町名であり折り鶴が目印の豊島町竿燈会。祭事前夜には設営準備で追われていた
▶太鼓の練習は21時までと決まっており、まもなく21時を迎えるあたりの練習風景。後にも先にもこれが本番前の本格的な練習だが、女性陣は夏前から十分に練習を重ねており早めに練習は終了。準備万端の様子。

▶男性陣は屋台と呼ばれる太鼓を乗せて移動するトラックに屋根を乗せる作業中だった。もともと現役の職人さんなど、全員で力を合わせて屋根を取り付けていた。
▶こちらが練習会場。予想以上にコンパクトなスペースで練習をする。近隣企業よりお借りした駐車場にロープをはって倒れないようにする。これでも他の町内より広いのだそうだ

日が暮れた頃合いを見計らって開幕前日で気合いが入った町内にも取材許可をとり訪問した。

現在の大町五丁目付近の旧豊島町(としままち)、豊島町竿燈会(豊島町竿燈会)だ。

竿燈会が多く残る大町周辺はいまだ旧名で町の名前が使われることが多い。以前知り合いの後期高齢元タクシードライバーさんと話をしたことがあるが「大町や寺町は旧名で場所を把握できない奴はタクシードライバーのもぐりだぞ」という名言を思い出した。

それほどに歴史を大事にし、旧町名が今も健在の地域である。

今回、こちらの竿燈会の副代表(大若責任者)を務める森裕昭さん、そしておはやしを長年担当し、今期はおはやしの指導をメインで担当されているAさんにもお話を伺った。

◆「スポンサーからの金銭や場所の提供そして地元の方々の支援があってこそ竿燈会は今年も演技をさせてもらえている」…演技は演者のみで成り立つものではなかった

練習会場は企業の駐車場。柱と柱をロープでくくり、竿燈が倒れこんでもいいように四方囲った中でこれまで演技の練習を行ってきた。

・意外にもその練習エリアはとても狭いように感じますが・・

Aさん:「私どもの練習会場は逆にとても広い練習会場です。他の町内はさらに狭い場所でおはやしの太鼓練習や竿燈の演技を練習しているんです」

合同練習では秋田駅東口にあるアルヴェのきらめき広場や、ねぶり流し館の中でも行っている団体があるという。もともと商店の多い地域であるため大きい広場があまりない。そのなかで地域の企業の方々からの厚意で駐車場を借りるなどして練習を続けているのだそうだ。

団体の方の中には現場仕事をしている方、地元小学校の校長先生、子育て中のママ、様々な業種や生活の方が地元の祭りに合わせて集っている。

竿燈で使われる屋台、そして太鼓や資材はすべて地元の神社に収納されており、男性陣が力を合わせて屋台の屋根をのせる作業をおこなっていた。

Aさん:「基本的に、屋台や神社の会場設営はすべて団体のみんなで力を合わせて行っています。そして私はもともとこの近くの町に実家があったのですが、その地区が竿燈をあげてはいけない地区だったんです

◆竿燈をあげてはいけない、禁止されている町内がある!なぜあげてはいけないのか?

・いったいなぜ竿燈をあげてはいけないのですか?

Aさん:その地区は過去に、佐竹のお殿様が栄えていた時代にお殿様に献上するものを作っていた地区なんです。そのため、その地区の者が「一般庶民のお祭りごととして竿燈まつりで竿をあげてはいけない」っていう風習だったんですよ!

あくまで竿燈まつりというのは「庶民のまつり」のため、上級民は同じ祭りを行ってはいけないという古いしきたりだ。

Aさん:「そういう理由で、竿燈会のない地区に住んでいる方は隣町などの縁故を頼って竿燈会に入っていたりするんです。私も家族もその一人なんですよ!」

・他にも同じように、いにしえから伝わる風習はありますか?

Aさん:「例えば、竿燈の竿は女性が触ってはいけない、竿をまたいではいけないという絶対禁止の決まりがあります。神様=紙様に例えられ、紙でできた御幣(ごへい)やちょうちんをつけている竿燈の竿は「神様」そのものを差し手といわれる男衆があげていくっていう話もありました!」

森裕昭さん:「保戸野鉄砲町(ほどのてっぽうまち)ではいまだ【女人禁制】で太鼓のおはやしすらNGです。我々や他の団体もそうですが、江戸時代には基本的にほぼすべての団体が女人禁制で行われてきたのですが、いつしか近年は竿は男性、太鼓のはやしは女性も参加ができるように変わりました」

◆時代とともに変わりゆく風習、変わらない風習

Aさん:「うちのちょうちんの柄は「折り鶴」で、このちょうちんや竿燈の竿をつくってくれる職人さんの店はずっと同じところなんです。町内によっては竿も直接買ったりするけれどうちは竿の竹は毎年山に採りに行って近くのお寺さんのご厚意で採ったものを寄せてもらっています。しばらく寝かせて乾かす…ちょうど乾いていい頃合いになったら竿燈の竿の職人のところに持っていくという流れです」

森裕昭さん:「ちょうちんの配置にはちょっとルールがあるんです。七夕や町名のちょうちんの位置とか。そして演技が終わるまで何度も倒れたりする竿でちょうちんが燃えたり、中のろうそくが折れたり落ちてしまったりする中で小さくなってもずっと残っているろうそくは安産のご利益として観客の皆様などにお配りしています。
演技の場所もだいぶ変わってきました。最初は中土橋(なかどばし)。そこから通町(とおりまち)になったのですが、通町は風がよく抜けるんですよ。演技の最後に残った8チームが争うんですが、8チーム中7チームが風で倒されてし減点になり、倒れなかったのは優勝の1チームだけってぐらいでした…今は観光客の方々も見やすい場所として中通りの「なかいち」の広場になりましたが、あそこも風が回るんです。それでも通町より全然風に運命を左右されることはなくなりましたよ(笑)」

◆「竿が折れてもいい。最後の演技は一番高くなるように竿を継ぐんです」感謝の気持ちを最大限に披露する、地元の方々への最高のお披露目【戻り竿燈】

戻り竿燈は竿燈のおはやし、流しばやしと本ばやしとがあり佐竹義宜が常陸国(ひたちのくに・今の茨城県)から秋田に来られる前の城下町の「天神ばやし」より伝えられて土崎湊ばやしの寄せばやしを経て今の竿燈ばやしになったのだと練習中の若い方から伺った。その方は竿燈まつりの歴史を調べており所持されていた竿灯のはなしという冊子からの情報だよ!と教えてくださった。

森裕昭さん:「戻り竿燈、うちでは期間中毎日あげているんだけど、特に最終日はスポンサーの企業や地元の方々へ最大限の感謝の気持ちであげています。地域によっては竿燈大通りでそのまま戻り竿燈もあげて帰るところもあって、その時は太鼓も竿をあげていく男性たちもみんな最後の最後まで力をふり絞って、その竿の役目を果たせるまで…最後はもう折れてしまってもいい!そのぐらいの気持ちで一番高くまで竿を継ぎます。今年も無事に開催ができたのは、町内の地区の皆様そしてスポンサーとなってくださる企業の皆様のおかげです。一年後再び祭りができる、出られることを願って最高潮に盛り上がる最終日の戻り竿燈はぜひ見てもらえたらと思います!」

▶竿燈の始まり、入場前
▶日が暮れたあとの飲食スペースとその奥には大通りの祭りが見える
▶戻り竿燈が私の職場の前にやってきた。観光客の方々にとっては何が起こるのか興味深々で窓からのぞき込んでいる

この日旧ニューシティの前にある広場では数団体の戻り竿燈が披露された。

ホテルに宿泊される観光客の方々は一体何がはじまるんだろう?と不思議に思われていたようだが、

あの日学生時代の私が体験したように、そして今回調べた由来を語る夜になった。

◆【まつりのあと】盛り上がった祭りの夜から一晩、きらめく稲穂が「刈られていく」

豊島町竿燈会の森裕昭さんが最後に語ったのは祭りのあとの話。

竿燈まつりの最終日は6日夜。戻り竿燈で盛り上がった翌7日の朝5時頃、旭川にかかる橋「刈穂(かりほ)橋」から竿燈の竿の一番頂上で揺れていた御幣を川に流し祭りが修了となる。橋の名前にもなっている「”刈穂”橋」の通り、夜にきらめく稲穂…竿燈の稲穂を刈り、今年も祭事は滞りなく完了となるのだという。

祭りが終わり盆が過ぎると秋田にも少しずつ秋の気配を感じられるようになってくる。

そのころには竿燈大通りできらめいた稲穂の波が県内全域の大地に場所を変え、風になびく稲穂の波へと変わりゆくのだ。

情報

秋田市民俗芸能伝承館(ねぶり流し館)

住所:秋田市大町1-3-30
お問い合わせ:秋田市民俗芸能伝承館(ねぶり流し館)
利用時間:9:30~16:30
休日:12月29日~1月3日
利用料金: 一般130円、高校生以下無料※秋田市立赤れんが郷土館との共通観覧券あり(370円) ※団体割引あり(20名以上)

【参考文献】

竿灯のはなし
著者:堀田正治
製作:秋田文化出版社
製作協力:秋田協同印刷株式会社
1979年8月5日初版

前田かおり(かおりん)

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