韓国にも“トー横”がある!ガチ心霊スポットとの関係は?陰惨スリラー『ヌルボムガーデン』監督インタビュー
韓国の“三大心霊スポット”とは
韓国には“三大心霊スポット”として知られる恐怖の名所がある。映画『コンジアム』(2018年)の舞台となった京畿道広州市の<コンジアム精神病院跡地>。朝鮮戦争で死亡した学徒兵の埋葬場所とされる慶尚北道ヨンドク郡の<慶北ヨンドク刺身店>。そして、とあるレストランに纏わる不幸と、多くの怪談が語り継がれる忠清北道堤川市の<ヌルボムガーデン>だ。
1月24日(金)より公開の韓国映画『ヌルボムガーデン』は、その忠清北道の<ヌルボムガーデン>を舞台に……していない!
本作においてヌルボムガーデンは“呪われた家”としての引用にとどまっており、ガチのオカルト好きは肩透かしだろう。しかし、この映画は本家に負けないほど、陰惨かつオカルトな物語になっている。
ソヒは夫のチャンスと幸せな新婚生活を送っていた。しかし突然、チャンスが自殺を遂げてしまう。悲しみに暮れる中、夫がこっそりと購入していた郊外の邸宅「ヌルボムガーデン」を相続したソヒ。亡き夫の影を求めて引っ越すのだが、まもなく奇妙な出来事が続発。原因はチャンスの自殺の理由にあると考え、彼の痕跡を追っていくうち、思いも寄らぬ“10代”の怨嗟の声を聞くことになる……。
人の情念と思惑が絡みあった物語に、思わず「えげつないなぁ」と声を漏らしてしまうようなストーリーになっているのだが、ミステリー要素が強いため詳細を書くことができない。そこで、監督のク・テジンにお話を伺ったので、韓国において本作が如何にオカルト映画たり得るか? を読み取ってほしい。
「韓国では家出をした子どもたちがたむろするコミュニティがあって……」
―韓国語で“ヌルボム”は“常春”を意味すると伺いました。とても清々しい言葉です……が、『ヌルボムガーデン』の登場人物は皆、虐げられる被害者でもあり、かつ後ろ暗い過去をもつ加害者である情念に満ちた物語ですね。
『ヌルボムガーデン』のスタート地点は、常に春のような美しい場所が何故、こんな瘴気漂う場所になってしまったんだろう? というものだったんです。登場人物に加害者と被害者の2つの側面を持たせたのも、「彼らはどうして、そうなってしまったんだ?」といった視点から。「どうして?」を突き詰めていくと、加害者本人ではなく家族や家庭に原因がある。必ずしも加害者が悪と決めつけることはできないと考えてのことなんです。
―物語の起点となった“イジメ”は、もはやイジメの範疇を超えた陰惨なものです。なにか基にした事件はあったのでしょうか?
特定の事件をリファレンスにしてはいません。でも、韓国では家出をした子どもたちがたむろするコミュニティがあって、そこでは本作で描いたようなことが起こっているのは事実です。特定の子に暴力を振るって金品を巻き上げたり、売春を強要したり。
―なんだか日本のトー横、グリ下みたいです……。
まさに。
「キム・ジュリョンは純粋さと怖さの二面性に個性がある」
―家に入り込んだ人を霊が操る設定はオカルト映画の定番です。しかし、ひとつのキャラクターの視点ではなく、客観的に物語を紡ぐことで恐怖感を高めている点に、本作のユニークさを感じました。
それは主人公のソヒに取り憑いている霊について説明したほうがいいですね。韓国では家に取り憑く“地盤霊(チバンレイ)”という考え方があります。地盤霊は家に住んでいる人に取り憑くことで、家の外に出て、あちこちで霊障を起こすことができるんです。だからソヒの周りでは怪異が起きる。客観的に見せようとしたのは、そんなソヒの置かれている状況や、彼女のまわりで起こっている怪異から恐怖を感じて欲しかったんですよ。
―ソヒを演じたチョ・ユニさんは、あまりホラー映画のイメージがなかったのですが、抜擢した理由は?
清楚なイメージがある俳優ですよね。映画のスピード感を出すためにエピソードを削除してしまったんですが、ソヒは難しい家庭環境で育った小説家なんです。複雑な心境を演じるにはチョ・ユニが最適と思いました。彼女はとても優秀で、これも都合で削除してしまったんですが、姉のヘランとの乱闘場面でも熱のこもった演技を見せてくれましたよ。
―キム・ジュリョンさんが演じた姉のヘランは、元気で前向きな存在でしたね。日本ですとキム・ジュリョンさんといえば『イカゲーム』の怖い姐さん212番ですが、『ヌルボムガーデン』では優しいお姉さんでした。
キム・ジュリョンは純粋さと怖さの二面性に個性があると思います。これは私が欲を出したんですが、彼女にヘランを演じてもらえたら、その二面性を存分に楽しめる映画になると思ったんです。ヘランは映画の後半で“ある変化”をしますから。実際、現場で十分にその才能を発揮してくれました。ちょっとしたディレクションにも素早く適応してくれますし、チョ・ユニともすぐに打ち解けて、本当の姉妹のようになっていましたよ。
―キム・ジュリョンさんは表情が豊かですね。
そう思います。韓国では、変幻自在な演技ができる俳優のことを八色鳥(ヤイロチョウ)に例えるんですが、ジュリョンは八色じゃ足りない。”一万鳥”といったところですね。
「夢がない答えで申し訳ないんですが……(笑)」
―本作は監督のデビュー作(※プロデューサーとして『チェイサー』[2009年]などに参加)でもありますが、1作目にホラー映画を選んだ理由は?
正直に言ってしまうと、ファンタジー映画を撮りたかったんです。だけど、ファンタジー映画は予算が膨大になるから、戦略的にホラー映画を選びました。夢がない答えで申し訳ないんですが(笑)。でもホラー映画は好きですよ。『シャイニング』やM・ナイト・シャマラン監督の映画は何回も観ています。『ヘレディタリー/継承』も好きですね。
―ミステリーはいかがですか?『ヌルボムガーデン』のプロットは、かなりミステリー味があるのですが……。
ミステリーは大好きなんです! 撮るならガチガチのミステリー映画にしたいと思っていて、実はシナリオも書き上がっているんですよ。だけど、今はミステリーが流行っていないから……様子をうかがっているところです!
取材・文:氏家譲寿(ナマニク)
『ヌルボムガーデン』は2025年1月24日(金)より全国順次公開