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もうごみが捨てられないかもしれない 最終処分場のいま

ELEMINIST

あなたは、日本のごみの現状を知っているだろうか。日頃、わたしたちが家から出しているごみの行き先、最終処分場がひっ迫し、約23年後(全国平均)には、もう捨てる場所がなくなってしまうというのだ。こうした現状を打破するためには、ゼロ・ウェイストという考え方を実践するほかないのではないか。この連載では、近い未来のために何ができるのかを考える。

ごみの最終処分場が23.5年後になくなるかもしれない!

私たちの生活とは切っても切り離せないのが、ごみ問題。みなさんは、ごみの最終処分場が23.5年後になくなるかもしれない、という現実をご存知だろうか。

今年3月に発表された環境省のデータによると、令和3年度末現在で、残余容量が9845万㎥、残余年数が23.5年ということだ。この数字はいきなり飛び出してきたものではなく、あくまでも対象年のごみの量から試算されたものだが、23.5年という数字は決して見て見ぬふりをできるものではないだろう。このままのペースでごみを捨て続けていたら、次世代を担う子どもたちの未来には、ごみの行き場がなくなるということだ。

この問題について、今回は一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事の坂野晶さんに一緒に考えてもらった。ELEMNISTが坂野さんにご意見を伺ったのは、ごみをどのように処理するかよりも、そもそものごみの量を減らす方向=ゼロ・ウェイストに力を注ぐべきだと思っているからだ。

現在日本でのごみ処分は、焼却するのが一般的であるが、その経緯について坂野さんはこう教えてくれた。

「日本でも以前は海外のように、直接いろんなごみを埋め立てるという方法を採っていました。ところが90年代に、“このままでは埋立地の残余年数がヤバい!”という状況になったんです。海を埋め立ててもいずれは限界がくるし、メタンガスやハエが大量発生するなど衛生上の課題もありました。そこで埋め立てるごみの容量を減らすために、焼却炉を導入してごみを燃やし、かさを減らしてから埋めるという政策に切り替わっていったんです」(坂野さん)

日本のごみ排出の現状

日本のごみ処理の現状

日本の最終処分場の状況

※環境省「一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和3年度)について」より作図

しかし、焼却炉を導入すればごみは跡形もなくなるかと言えば、答えはNOだ。何かを燃やせば当然灰が出るし、なかには燃えないものや、有害ガスが出るため燃やさないほうがいいものもある。最終処分場にはそういった行き場のないものたちが運ばれていく。

「最終処分場=どうしようもないものたちを埋めてさよならする墓場です。運ばれるのは自治体で“不燃ごみ”等の部類に入るものですね。多いものだと陶磁器類がその一例です。実は、一部の自治体では最終処分場の残余年数を伸ばすために、昔埋め立てていたものを掘り起こし、分別して燃やして埋め直す、ということをしていたりするんです。それでもずっと1箇所に埋められるわけではなく、容量がいっぱいになったら閉じて他の場所に移らなければなりません。そこで問題になるのが、閉じた最終処分場の管理です。管理がずさんだと、有害物質が流れて土壌汚染や水質汚染につながります。だからこそ、半永久的に管理にコストがかかるということでもあります」(坂野さん)

ごみを処理し終わったあとの、“最後の墓場”にまで管理の手間がかかっているという現実。筆者もハッとしたが、ここまで思いを巡らすことのできる人は少ないのではないだろうか。私たちが“ごみ”と呼んで気軽に捨てているものは、想像以上に後世に影響を及ぼしてしまうのだ。

ごみを減らし処分するために奮闘する自治体

現在、ごみ問題に対して官民はどのような取り組みをしているのだろうか。まずは最近の自治体の様子について聞いてみた。

「自治体の動きとしてはいま、“脱炭素”が先行しています。そのなかで真っ先に注目されるのはエネルギー分野なんですが、エネルギーに関する問題は、取り組める地域と難しい地域があります。その点、ごみ問題はどこの自治体でも何かしらできる余地があるので、改めてこの領域に力を入れようとしている自治体が増えてきたという印象はありますね」(坂野さん)

ここで環境省が発表した「3Rの取組のベスト3」という表を見てみよう。自治体の規模によって取り組み方が違う点を念頭に置きながら、以下の坂野さんの分析を聞くと、より理解が深まるだろう。

3Rの取組のベスト3※1

※1 令和3年度中に国庫補助金交付要綱の適用を受けて災害廃棄物を処理した量は除いている。福島第一原子力発電所の事故による福島県内の帰還困難区域に係る町村は除外している。また、総人口に外国人人口を含んでいる。※2 中間処理後再生利用量から固形燃料(RDF、RPF)、焼却灰・飛灰のセメント原料化、セメント等へ直接投入、飛灰の山元還元された量を差し引き、リサイクル率を算出。

自治体のごみ問題への取り組み度合いが実を結ぶ

「エネルギー回収は、どれだけ性能のいい施設を持っているかにかかっているので、大都市が有利だと思います。名古屋市がトップなのは、きっとパワフルな施設を備えているからでしょう。人口10万人未満の例で見ると、長野県の自治体が2つリデュース部門であがっていますね。長野県は実は、一人あたりのごみの排出が一番少ない県でもあるんです。農村地域が多いので、自治体単位で生ごみを堆肥化している事例が結構多いです。京都市や掛川市は長年ごみ問題に取り組んでいることで有名ですね。またリサイクル率上位の自治体に関しては、鎌倉市などごみに関する政策がよく知られているところが多いと思います。名古屋市では昔、干潟を埋め立て処分場にする計画を反対運動を経て取りやめたという歴史があります。その時にしっかりとごみを分別して、リサイクルに回すことを市民と行政が一体でやってきたんですよね。その努力が反映されていますね。この表には、ごみ問題に対して昔から取り組み続けてきた自治体の結果が出ている、という印象ですね」(坂野さん)

リサイクルの方法も時代を経て少しずつ変わってきているという。現在、坂野さんがゼロ・ウェイスト政策で関わっている長野県・小布施町のユニークな事例を聞かせてもらった。

「小布施町は一人あたりのごみ排出量は平均よりやや少ないのですが、実はリサイクル率がとても低いんです。庭や畑がある家が多いので、必然的に可燃ごみに落ち葉などの草木の割合が増えます。また、長野のなかでも果樹農業が盛んな地域なので、農家さんが剪定したあとの枝葉もたくさん出るんです。しかしそれらを自分たちで燃やそうと思っても、煙の害などの課題もあります。そこでいま実験しているのが、最近Jクレジットに承認された“バイオ炭”と呼ばれる炭を作ることです。燃やすのではなく炭にすること、そして土壌改良のために土に戻すことで、土中に炭素が固定されます。また、地域の材のみで作った炭であることや、栗のイガなど面白い見た目の材料を炭にすることで、地域産のバーベキューの炭セットとして売り出そうとも思って作っているところなんです。このように、地域の材を活用して地域内外の人が楽しんでもらえるコンテンツを作ると、資源循環やごみ削減だけではない面白さにつながりますよね。かけ算しながらユニークな取り組みを考える地域が増えていけばいいなと思っています」(坂野さん)

小布施町の「おぶせ炭」

前進しているのは自治体だけではない。坂野さんは最近の事業者の動向として、リターナブルカップやリユース容器を取り入れる企業が増えたことを挙げてくれた。また、消費財のメーカー側がリフィルステーションを独自に始める事例が増えている動きにも肯定的な見方を持っている。なぜならば、「メーカーがやるのが一番早い」というのが坂野さんの意見だからだ。事業者のオペレーティング・システムが変われば、個人の行動も少しずつ変化していくだろう。

増え続けるごみを前に、私たちがすぐにはじめるべきこと

ここまで日本のごみの現状や自治体の取り組み事例などを見てきたが、実際にごみを減らすのは私たち一人ひとりだ。

最後に坂野さんに、個人ができるゼロ・ウェイストへの一歩は何かを尋ねてみた。
「自分がごみをどれだけ出しているのかを知っているのと、全く気にしていないのとでは、全然違うと思うんです。ですから“何からしたらいいですか?”と聞かれたら、私はいつも“とりあえず自分の家のごみ箱の中身を観察してみてください”と答えています。何がどれだけ入っているのか見ていくと、“これは買わなくてもよかった”とか、“もう少し使えたかも…”など、いろんなことを発見できるからです。難しいのは、それらをなんとかするための方法にひと手間かかるということです。便利さだけを追求しなくてもいいように、もう少し余裕を持ったライフスタイルを検討しつつ、日々の動線上でできることを増やしていくなど…、両方からのアプローチが大事なのかなと思いますね」(坂野さん)

ごみを減らしていくのにはいろんなハードルがあることは間違いないが、それでも一歩ずつ踏み出していかなければならないだろう。地球の観点では、もう私たちには手間を惜しんでいる時間は残されていないのである。

この連載では、引き続きゼロ・ウェイストのために“私たちは、いまなにをすべきか”について考えていく。ごみをなくしていくためには、自治体の取り組みが不可欠だ。そこで次回は、令和6年に市内唯一の焼却施設をなくす計画を発表し、ゼロ・ウェイストを目指す鎌倉市を取材する。

坂野晶/一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事。兵庫県西宮市出身。4歳でインコと出会い、絶滅危惧種のオウム「カカポ」(ニュージーランドにのみ生息)への思いが高じて環境問題に興味を持つ。大学で環境政策を学び、卒業後、モンゴルのNGO、フィリピンの物流企業などを経て、2015年、徳島県上勝町NPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーに参画。2019年世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)の共同議長を務める。2020年から現職。2021年、脱炭素に向けた社会変革を起こす人材育成プログラムGreen Innovator Academyを設立。2023年より株式会社ECOMMIT取締役Chief Sustainability Officerに就任。

取材・執筆/河辺さや香 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)

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