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パーソナルな想いを全て詰め込んだNakamuraEmi渾身のニューアルバム『KICKS』完成ーー「これ以上のものは作れない」

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NakamuraEmi 撮影=ハヤシマコ

NakamuraEmiが5月29日(水)にメジャー7枚目のアルバム『KICKS』をリリースした。タイトルからしてだが、これまで以上に力強いアルバムが完成した。1曲目「火をつけろ」から、その言葉の如く、猛烈に火がつけられていて、聴いているだけで鼓舞される。どうして、ここまでの力強さを込められたのかを、コロナ禍も振り返ってもらいながら、全て洗いざらい話してもらえた。とにかく物事を深く考える誠実で真摯で純粋な人だなと改めて感じている。

NakamuraEmi

――このアルバムは完全にコロナ禍を抜けたという印象も強く感じたのですが、改めてコロナ禍を振り返ってみて、いかがだったでしょうか?

コロナ禍は色んな事が上手くいかなくて、ヘコむ事もありました。でも、ずっとめげずにライブを止めずにもいましたね。そしたらツーマンライブにも誘って頂けたりもして。コロナ禍の中でツーマンライブ開催なんて勇気あるお誘いなので、とても嬉しかったです。アンコールセッションもあんまりした事が無かったので新鮮でしたね。

――そういったツーマンライブお誘いもそうですが、コロナ禍の中なのに、逆にライブスケジュールが増えたイメージもあったんです。もちろん、元々ライブは多かったのでのすが、また違う増え方というか。

今までも気合いを入れてツアーをやっていましたけど、たくさんスケジュールが入っているという流れが出来ていて。だけど、コロナ禍からは自分たちで工夫してスケジュールを組まないといけないと思いました。プロデューサーのカワムラヒロシさんを始めとして、チームのみんなは諦めない方ばかりなので、コロナ禍もリモートで打ち合わせして、カワムラさんにも「今が勝負だよ!」と言われていました。マネージャーもワンマンライブを入れてくれたりして、なので御当地のカバー曲に挑戦したりと、一個一個に責任を感じて取り組んでいましたね。当時は歓声が全くない中でのライブだったので、そこにヘコんだ事もありましたけど、お客さんが来てくださる事が感謝だし、お客さんが少なくても、どうやってライブをするかを考えていました。例えば、カフェみたいなお互いを近く感じる場所でライブをやってみようとか、ライブの受け止め方に変化がありました。

NakamuraEmi

――そういうコロナ禍を越えての力強さを、このアルバムには感じるんです。

ライブをやってヘコんでいた中でも、お客さんと歌えるライブが少しづつ増えてきたりして、勇気を持てたりしていましたね。多様性という言葉であったり、SNSなどのコミュニケーションツールが多くなったりとか、便利になっていく中で、自分が感じる事をちゃんと言っても良いなとも思えたんです。去年から体と心が元気になっていくのを感じていたので、今回のアルバムはゆったりしたメロウな楽曲は一旦いいかなとも思いました。

――ゆったりメロウな楽曲もあって素敵なんですけど、今回は特に1曲目「火をつけろ」からのスタートといい、ぶちかましていく感じがめちゃくちゃありました。

「火をつけろ」は1曲目だなと思ったんですけど、ただ一番最後に出来た曲なんです。2月にグワーっと作った曲で、出来上がった時に、この子が(アルバムの)先頭を引っ張るなとは感じていました。Mummy-Dさんと(3曲目「祭」で)御一緒した時にすごくパワーがあって、その上で2月あたりに感じた事を「火をつけろ」に入れ込めましたね。

NakamuraEmi

――Mummy-Dさんと御一緒した事は、やはり大きかったのですね。

憧れの方なので神様の存在でしたし、音楽を一緒に作る事を考えてなかったんですけど、三重県桑名市の地域資源の魅力をテーマごとに発信する役割を担う「魅力みつけびと」というお仕事で話せたのが大きかったですね。Dさんの初ソロアルバム『Bars of My Life』(今年3月リリース)に本気が詰まり過ぎていて……。この一行を作るのにどれだけ時間をかけたのかと思いましたし、トップを走る人がこんなに丁寧に音楽を作っていて、こういう人になりたいなと改めて想いました。Dさんのアルバムを聴いてから自分のアルバムを作れたのは大きかったですし、「マイク持つ者よ」、「Bars of My Life」の2曲の存在はとても大きくて……。レジェンドでも弱い部分を見せていたりとか……、まだまだこんな格好良いHIPHOPが出来るんだなと。

――今こうやってお話を聴くと、そういう想い全てが「火をつけろ」には込められているなと感じました。

「火をつけろ」はDさんもそうですけど、a flood of circleの佐々木亮介君とか色んな人とライブをさせてもらって色んな音楽に触れられたのは大きかったです。なので私もカワムラさんも気合いが入っていたし、歌詞の部分からカワムラさんに一緒に入ってもらって、ひとつの文字探しにもむちゃくちゃ時間をかけました。その頃にドラマ『不適切にもほどがある!』を観ていて、「ここまで言っていいのかな?」という気持ちも、あのドラマがある事で「そうだよね、いいよね」と思えて。あのドラマと共に素直になりながら作れましたね。

NakamuraEmi

――今までのアルバム以上によりパーソナルな思いが込められていますよね。それは2曲目「梅田の夜」でも感じました。去年の8月に梅田シャングリラでのコカレロのイベントに呼ばれた時の事が、まるで日記の様に詳細に鮮明に書かれているんですよね。

「梅田の夜」は去年の中でも、あの日が一番強烈で……。初めて御一緒するHIPHOPのミュージシャンもいらっしゃって。だからウチのお客さんも多くないはずなので、私は大丈夫かなと心配していたら、お客さんがむちゃくちゃ盛り上げて下さって。音楽にはジャンルの垣根は本当に無いなと。打ち上げもお店が空いてなくて、コンビニのビールで乾杯したんですけど、普通に居酒屋で乾杯していたら生まれなかった感じというか……。ホテルまで見送ってくれたりもして、これは書こうと思ったんです。こんなに心が動いた事が久しぶりで、自分のステージはあんまり覚えていないんですけど、カワムラさんと「Rebirth」という曲を格好良くしたいとなり、カワムラさんが2、3年眠らせていたMPCを出してきて、私もフルートを吹いたり、とにかくHIPHOP好きなお客さんに新しい楽器を使ってでも伝えたくて。この場には今までの自分の必殺技だけでは足りないと思いましたし、出番がトリだったので緊張もしましたね。でも、みんなが自分の曲に私の曲の一部を入れてくれたりして、バトンを繋いでくれたんですけど、そういうとこにも感動しました。

――この曲の何が素晴らしいかというと、ずっとその日の事を描いていくんですけど、最後2行が<憧れのHipHop 人生変えてくれたHipHop 私のくくりはジャパニーズポップス becauseルーツは演歌と歌謡曲>という御自身のルーツ根幹で締め括られていた事なんですよね。

その2行を最初は頭に入れていたんですけど、「いきなり、この歌詞で始まるのは」とカワムラさんが言ってくれて、でも、この歌詞は良いので最後に入れたらまとまり感が出たんです。

――1曲目「火をつけろ」もそうですけど、続く2曲目「梅田の夜」の特に最後2行を聴いた時に、このアルバムはすごいと直感ですけど、そう感じました。

去年の夏から今年にかけて「究極の休日」、「白昼夢」、「晴るく」を8㎝CDで3枚出してたり、「雪模様」というデビュー前からの曲があったりと、色々な曲があったんですけど、それ以外の新曲をとにかくパワーで書きました。このアルバムは7月にアナログでも出るんですけど、A面が元気でB面がゆったりと楽曲もそれぞれ分けていて。B面最後の曲は「一円なり」という歌詞にそろばんが出てきて昔を感じる曲で〆ていて。またA面最初の曲で多様性やSNSなどについて歌っている「火をつけろ」にドカンと戻るんです。

――アナログレコードならではのループ感を感じられますね。今の話を聞いて、ラストナンバー「一円なり」で締められてる理由がわかりました。その前の9曲目に収録された「究極の休日」を改めて聴いた時に凄くパーソナルな想いが歌われていたので、オープニングナンバーである「火をつけろ」などの流れを考えると、この曲で締められても格好良いなとも思っていて。でも敢えて次の曲である「一円なり」で締められている魅力も感じていたので、話を聞けて良かったです。

「究極の休日」はこのアルバムが生まれる前の卵みたいな曲ですね。コロナ禍から元気になってきて、「行こうぜ!」となった時に突っ走ってくれた曲です。だから「白昼夢」や「晴るく」という曲にも挑戦できたので。人の休日を調べる必要なんて無いんですけど、みんなキラキラしていて。でも私は地味なんだけど、それもちょうど良いよねと。周りにいる同世代がお母さんが多くなってきて、みんな子育てが忙しくて休みが無いんですけど、そう考えると私は休みがあるじゃんとも思って。

NakamuraEmi

――今の話を聞いていても、そうですけど、僕がNakamuraEmiさんが好きな理由はすごく色々な事を考えておられる事なんですね。確かに考えなくてもいい事もあるかもですけど、でも、そこをすごく考えているのから好きなんです。

すごい考えていますね。そんな格好悪いところは見せなくてもいいんですけどね。カワムラさんは正反対の人なので、だから私がネガティブに走りすぎずに済んでいるし、カワムラさんもネガティブを否定する人では無いので。「究極の休日」の<休日で生き返れ>という歌詞と「火をつけろ」の<純粋に火をつけろ>という歌詞は、自分の思いがまとめられた言葉が出てきてくれた気がしました。素直になれた曲たちばかりですし、これ以上のものを今は作れないですね……。

――本当にパーソナルな部分がより強く濃く出たアルバムになりましたよね。

元々そういう曲の書き方をしていたんですけど、色々な人の気持ちも入ってきて、誰かを考える優しい歌も書くようになったんです。でも、40代になって、いつまで歌えるのか切実になってきて、みんなと最後になっても後悔の無いようにとなりましたね。亡くなるミュージシャンの方も多いですし、病気になられるミュージシャンの方も多くて、今私が音楽をできている事は当たり前じゃないよなと。このアルバムは後悔がないと言えます。

――その強い決意は『KICKS』というアルバムタイトルにも表明されていますよね。今まで『NIPPONNO ONNAWO UTAU』というタイトルコンセプトでアルバムを数枚作られてきて、前作であるメジャー6枚目のアルバムでは『Momi』(2021年7月リリース)という言葉に辿り着かれて、今回の『KICKS』という流れについても教えてもらえますか。

『NIPPONNO ONNAWO UTAU』で種蒔きをしたものが、『Momi』で籾(もみ)のように芽を出して、その籾が太陽や雨や虫など触れ合って色んな栄養もいっぱいもらい、前へ蹴って進み出す感じですね。最初は籾の発展でアルバムタイトルを考えていたんですけど、しっくりこなくて。改めて考えた時にストリート感が好きだなとなって、色んな人のスニーカーの足跡が入ったという意味合いで『KICKS』という言葉が良いなと。デビューして綺麗な格好もたくさんさせてもらえたからこそ、今、根っから好きなもので構築が出来ましたね。

――色々な経験を積んだ上で原点に戻られるのは強いですよね。アルバムジャケが金の下地にピンクで『KICKS』とデザインされているのも凄く好きなんです。

「一目惚れ」(7曲目収録)で<カラフル>という言葉を歌詞に書いていますが、そこに挑戦できましたね。特に女の人は「こんな色を着ていいのかな?」とか思ったりもしますけど、ちょっとスーパーへ行く時にピンクを着てみたりしていたら、どんどん自分が明るくなったりもしたので。明るい色は自分が元気になるんだなと想いましたね。

――元気な気持ちになれる力強いアルバムが完成したなと心から思います。

本当に好きなアルバムですね。

NakamuraEmi

取材・文=鈴木淳史 撮影=ハヤシマコ

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