4s4ki、Bimi、STARKIDSらが出演、ジャンルもカルチャーも越境する『SASAKRE FES 2024 -NEO JAPONICA Edition-』レポート
SASAKRE FES 2024 -NEO JAPONICA Edition-
2024.12.21 SHIBUYA WOMB LIVE
2024年6月に続き年内2回目の開催となる『SASAKRE FES』(以下、ササクレフェス)は、さながら師走の大忘年会。サブタイトルの“NEO JAPONICA”が意味するところは、ハイパーポップやヒップホップ、R&B、ボカロなど、ジャンルとカルチャーを横断、越境したジャパンメイドのクリエイティブを示しており、今回の出演アーティストをはじめ、日本発で世界に発信されるカルチャーになることを目指すフェスでもある。当日は出演者の多彩さゆえ、オーディエンスも前回以上に様々な世代が集結。ここではMAIN LIVEの10組のライブをレポートしていこう。
■嚩ᴴᴬᴷᵁ
トップバッターは女性ボーカルグループ・Dr.Anon解散後、今年からソロの音楽活動をスタートした嚩ᴴᴬᴷᵁ。アニメやボーカロイドに影響を受けた音楽性を持つ彼女は、オートチューンをかけたボーカルで、まず挨拶がわりの「sentimental」を披露。オーディエンスに近づいたり寝転んだり、自由奔放なステージを展開する。
イントロで歓声が上がったのはJ-エレクトロのプロデューサーとのコラボ曲「yuugenのガチャポップ Session,Vol.5」で、インパクトの強いSL0のイラストが用いられたMVもフロアのテンションを上げた。さらにDr.Anon時代の仲間、e5とponikaもゲストで登場し、人気曲「Blast」で締め括った。
■Lilniina
嚩ᴴᴬᴷᵁからほぼノンストップでステージに上がったのはY2Kエモを背景に持ち、バンド経験もあるジャンルミックスアーティスト・Lilniina。フェイクファーのパンダ帽と黒縁メガネ、タイトなファッションで“おうちMV”をバックにした「e-m@il」からスタートした。続く「SWEETSADTASTE」では意外にもR&Bシンガーに近いボーカルも聴かせ、表現の幅を実感させる。また、「kikilala」にはBimiがゲストで登場し強烈なラップを聴かせる場面も。
どの曲も洗練されたセンスに溢れていて、2ステップに切ない心情を載せる「_black cherry moon_」やTikTokでバズった代表曲「cigirl」の孤独感などが際立ち、ポテンシャルを感じさせるステージに。
■sheidA
女性ソロアーティストが続く中で、グッと洋楽テイストが強まったのがsheidA。L.A.、N.Y.、東京という多様なバックボーンを持ち、アニメやオタクカルチャーからもインスピレーションを得た創作を行う彼女のステージは、さながら『コーチェラ』の昼ステージといった感じの華がある。
オートチューンを用いながらパワフルなボーカルを感じられる「Hurt」、彼女と同じトラックメーカー/アーティスト集団・The Game ChangersのメンバーであるKiyokiとの「crAzy(feat.Kiyoki)」や、ラッパー・Tade dustと彼の曲「Rid3 or Di3」との共演で表現のレンジを証明。ラストは『ラップスタア2024』惜敗後にリリースした新たな扉を開く「Restart」で進んでいく今を見せてくれた。
■valknee
知性とユーモアの日本版ガールクラッシュ的なzoomgalsでも馴染みのオルタナティブラッパー・valknee。自身もトラックメイクする彼女のライブは音像もグッと立体的だ。フックありまくりの「OG」でスタートし、「『ササクレフェス』、いろんなアーティストが出るから負けじとやるんで楽しんでってください」とアピール。
Lilniinaとコラボし、ハロウィーンの怪しげな夜を表現した新曲「p00ky★sp00ky:party」を実際にライブで観られたのもこの日ならではで、ダークなトラップからエレクトロスウィングまで行き来するトラックとクールかつキュートな二人の声が行き交った。さらにXGのカバー「WOKE UP REMIX」、海の向こうまで音楽を届けたい意思を歌う「Over Sea」と多才ぶりが伺える30分に。
■Bimi
女性ファンがステージ前にドッと押し寄せたのは、俳優としても活躍するBimi。ラウドロックもハードなラップも飲み込んだ今回の『ササクレフェス』を象徴するアクトだ。和テイストの「輪-味変-」でいきなりフロアを爆発させ、映画的なMVを流しつつの「Miso Soup」と、彼の個性である和のメロや博打好きの危険なムードがラップにも落とし込まれる。
ドープなベースミュージックもしくはトラップの沈み込む重さは「NINJA」「熱気」と続き、グッとラウドロック色が濃くなる「怒鈍器」では畳み掛ける高音、言葉数の多いラップを乗りこなし、強烈なロングトーンシャウトまで渾身のステージングでオーディエンスを翻弄。来年4月のメジャー1stアルバムの告知をし、バンドサウンドで観たくなる「inner child」でフィニッシュした。
■OHTORA
熱くなったフロアに自ら「クールダウン担当」を自認するOHTORAが登場。この季節にぴったりの「Xmas With U」でウォームなR&Bの世界を醸成する。素直な言葉が染み込む「BLACK HIACE」など、生バンドで堪能したい気持ちが高まるグッドメロディを連発する。
ガラッと雰囲気を変え、ReGLOSSに曲提供したエレクトロチューン「瞬間ハートビート」でソングライティングとボーカリストとしての幅を見せ、さらに先ほど激烈なライブを見せたBimiを呼び込んで二人のコラボ曲「error」を披露。洒脱なファンクテイストのナンバーでBimiの異なる魅力が見られたという意味で、このイベントでのOHTORAのハブ的存在が際立つ。ラストは再現フィルムのようなMVを映しての「Digital Tattoo」でフロアを揺らしたのだった。
■Hanagata
今年6月の『ササクレフェス』で本格登場したHanagata。その後、8月にEP『Lucid Tape』をリリースした彼。この日は短い時間ながら、EPから大半を披露するという、今の彼を知ることができるステージに。セルフボーストの意味合いも強い「Batman」でスタートし、ササクレクト新世代トラックメーカー・cat biscuitと作った「Age Unknown」も聴かせてくれた。
素直で届きやすい声質や物腰の柔らかさもラッパーとしては珍しい資質であるHanagata。個性が活きる「カラカン」ではフロアのジャンプにも勢いがつき、ラストは街で踊る彼の姿などがフィーチャーされたMVを背負った「by my side」で、重層的な魅力が伝わった印象だ。
■TOKYO世界
男性アーティストが続いた中でもニッチな個性を見せてくれたのが“昭和歌謡VIBES”を掲げるTOKYO世界。リバーブが効きまくったボーカルがちょっと異世界感を漂わせる「isekai」でスタート。が、この曲以外も歌の音像は共通している。
「ポップもヒップホップもロックも大好き」という彼は桑田佳祐の影響も公言しているのだが、なるほど「優しくなれたら」には特にそのムードが濃かった。かと思えば今っぽいチルポップ「Autumn」なども披露。まさにヒップホップと昭和歌謡が融合した謎の新ジャンルなのだ。ラストは『ラップスタア誕生!』で話題を呼んだ下ネタまじりで自身のトラウマや劣等感を綴る「同じ人間」を放ち、大きな歓声に包まれていた。
■STARKIDS
続いては多国籍クルーかつヒップホップコレクティブのSTARKIDS。「この番組はSTARKIDSの提供で送りします」というSEに乗り異なる個性の6人がステージに現れるだけで無敵感が漂い、男女問わず続々とスマホのカメラを向ける。
冒頭はダークな世界観の「Like this」でスタートし、高速BPMのハイパーな「HORIZON」、コール&レスポンスが巻き起こるハードテクノ調の「BACK 2 BACK」と畳み掛ける。6人6様のラップがビビッドで、オーディエンスは目も足も休む暇はない。歌メロ強めの「PARAPULL」、イントロからOiコールが起きた「FLASH」などほぼノンストップで放ち、ラストの「ODORUNO SUKI SUKI」はモッシュが起きるほどの興奮で駆け抜けた。
■4s4ki
そしてトリは前回同様、4s4ki。今年後半は中国ツアーや新たなフェス出演など活動の幅を広げた彼女だが、ステージでの佇まいがコアファンから初見のオーディエンスまで、この日同じ時間を共有している全ての人に開かれている印象を持った。
1曲目は「35.5」と、コラボEP『集合体大好病 / Collective Obsession』からDÉ DÉ MOUSEとのコライト曲「エスパー小学生」をつないで披露。ゴアトランスの如き迫力は音源を超えていくライブの醍醐味。冒頭から「ちょっと1回寝転びます」と、ステージに仰向けになりながら代表曲「おまえのドリームランド」に突入する自由奔放ぶりを見せたかと思えば、立ち上がりオーディエンス一人ひとりに向き合うようにステージ前方で膝をつくパフォーマンスを展開する。
「今日はお祭りですよ! 一生懸命歌うので、一生懸命ついてきてください」というなんとも素直なMCもオープンだ。再びコラボEPからrinahamuとRhymeTubeとの共作曲「頑張り屋さんだから愛して」で地声のトーンがしっかり伝わる。インタビューで“ADHD曲”と語っている自己開示がなされたこの曲は、生きづらさの表現ではあるけれど、一人で閉じていくネガティビティとは違うニュートラルな印象を得た。
さらに「風俗嬢のiPhone拾った」や新曲「Mona Lisa」など新旧楽曲のバランスの良さを見せる。そしてこのフェスならではの共演であるOHTORAとHanagataを招き入れてのアンセム「Don’t Look Back」、重低音がフロアを揺らしまくる「pure boi」と、あらゆるジャンルを駆使するクリエイターかつパフォーマー・4s4kiを体現。チームササクレクトへの感謝を述べ、ラストはシンガーソングライターとしての凄みと素直な心情を綴る「ねえ聞いて」で、じっくりとオーディエンスの心を震わせたのだった。
ステージ背景と天井も使ったVJもこのフェスには欠かせない要素で、10組のステージの興奮を視覚で盛り上げたhuezのVJも鮮烈だった。
■DJ
MAIN LIVEと並行して1FではNamitape、お柴鉱脈、Sakuら7人のDJが各々40分セットを担当した。なお、主な選曲は下記の通りだ。
駱駝法師 - うらみ交信 (covered by 凪乃ヒマワリ) / 稲むり
とーず - 夜の踊り子 (とーずremix) / サカナクション
幾砂襷 - うらみ交信(MIDy Remix) / 稲むり
Namitape - ミラレルミラー / Namitape
お柴鉱脈 - mother / お柴鉱脈
appy - Version / appy
Saku - 楽しいこと / サタスコ (Saku, タチマナユ、すずめのめ、コサメガ)
ササクレクトとゆくえレコーズが共同でキュレーションするSpotifyプレイリストを“NEO JAPONICA“と銘打ち展開している。今回はそのプレイリストとの連動フェスティバルでもある。ぜひ、このテーマを選曲からも感じ取ってほしい。
取材・文=石角友香 撮影=フジ・ヘンドリックス