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​【静岡市立芹沢銈介美術館の朗読会「芹沢銈介が描いた『絵本どんきほうて』の世界へ」】宮城嶋遥加さん、芹沢銈介作品と〝共演〟。声で届けるドン・キホーテの珍道中

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静岡新聞論説委員がお届けする、アートやカルチャーに関するコラム。今回は8月17日に静岡市駿河区の静岡市立芹沢銈介美術館で開かれた朗読会「芹沢銈介が描いた『絵本どんきほうて』の世界へ」を題材に。静岡市文化政策課が企画制作する「まちかどシアター」の一環。(リポート=論説委員・橋爪充)

染色家芹沢銈介の本にまつわる仕事を集めた「絵本と装幀 芹沢銈介の本の仕事」の会場内で、舞台俳優宮城嶋遥加さん(静岡市出身)が、芹沢が作った『絵本どんきほうて』の画像を背景にミゲル・デ・セルバンテス「ドン・キホーテ」を朗読した。四つのアート要素を一つにした、刺激的な催しだった。

「絵本どんきほうて」は芹沢が、米国在住の「ドン・キホーテ」収集家カール・ケラーから依頼を受けて作った絵本。昭和10(1935)年10月に制作を始め、昭和12(1937)年3月に頒布された。ドン・キホーテが鎌倉時代の武士に置きかえられ、絵本は江戸時代の印刷物を模して合羽刷で制作されている。

宮城嶋さんは、換骨奪胎の産物とも言える「絵本どんきほうて」の絵をスクリーンに映しながら、あえて原作訳を参照したテキストで朗読した。これがなかなか効果的だった。騎士道を独自解釈したドン・キホーテの、滑稽とも奇矯とも言える行動を際立たせた。さらに、よろいをまとって槍を持つドン・キホーテ、風車やライオンの代わりとして選ばれた水車、トラなど、芹沢本人のユーモアやセンスも感じ取ることができた。

セルバンテス全集のドン・キホーテ前後篇からの31幕で構成される「どんきほうて」を、宮城嶋さんはさまざまに声色を変えて演じきった。

決闘に敗れたドン・キホーテは失意を抱えて故郷に帰り、正気に戻って世を去る。その前に騎士道物語を読み過ぎた自分を客観視する一幕がある。現実と自分の想像の区別が付かなくなり、現実には存在しない「敵」と戦おうとし、「邪悪な魔法使い」というありもしない存在を信じた。

「陰謀論」がはびこる現代において、極めて示唆的なストーリーではないだろうか。宮城嶋さんが発する「声」が、その類似性を強く印象づけた。紙に書かれたテキストとは異なる、演者の身体を通りぬけた言葉の説得力を強く感じた。

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■静岡市立芹沢銈介美術館「絵本と装幀 芹沢銈介の本の仕事」
住所:静岡市駿河区登呂5-10-5 
開館:午前9時~午後4時半
休館日: 毎週月曜(祝日を除く)、祝日の翌日
観覧料(当日):一般420円 、高校生・大学生260円、小・中学生100円
会期:9月23日(火・祝)まで

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