Mrs.fictions『再生ミセスフィクションズ3』中嶋康太・岡野康弘に聞く~活動18年の理由は「鈍感だから」?
Mrs.fictions『再生ミセスフィクションズ3』が、2025年11月13日(木)~11月17日(月)、東京・三鷹の武蔵野芸能劇場・小劇場にて上演される。『再生ミセスフィクションズ』シリーズは、2007年に活動を開始したMrs.fictionsが過去の短編作品を再演する企画で、今回は未発表の1作品も初めて上演される。メンバーの中嶋康太がすべての作品の作・演出を務め、同じくメンバーの岡野康弘は今回ひとり芝居に初挑戦する。板橋区の稽古場でふたりに話を聞いた。
■団体を長く続けられる理由
──『再生ミセスフィクションズ』シリーズは短編作品の再演企画ですが、今回はなぜこの5作品(『Yankee Go Home(ヤンキー母星に帰る)』、『ミセスフィクションズのメリークリスマス(仮)』、『ミセスフィクションズの祭りの準備』、『私があなたを好きなのは、生きてることが理由じゃないし』、『ハネムーン(仮)』)を選んだのでしょうか?
中嶋 短編作品が膨大にあるわけでなくて、まだ再演していないものがこの5つだった、という感じですね。初演の年もバラバラですし、共通のコンセプトがあるわけでもないのですが、並べてみて気づくことも結構ありました。
──どんなことに気が付きましたか?
中嶋 同じフレーズを結構いろんな作品で使っているんです。主宰の今村(圭佑)を含め僕らは同じ大学(日本大学芸術学部)で出会ったのですが、当時今村はナンバーガールってバンドが大好きで、CDを貸してもらったりライブに連れて行ってもらったりしていました。で、ナンバーガールって同じフレーズの歌詞を別の曲で繰り返し使うんです。
──「くりかえされる諸行無常」とか。
中嶋 そうそう、「6本の狂ったハガネの振動」とか。別に続編じゃなくても、印象的なフレーズを何回も使っていいんだ! って目から鱗で。それで自分も戯曲を書くとき、お気に入りの言い回しをいろんな作品に使うようになっていきましたね。
──そういうフレーズのなかに共通するテーマみたいなものはありますか?
中嶋 時間に対する悠長な感覚や死生観みたいなものがいろんな作品に出てきてると思います。テーマというと大袈裟ですが、時間に追われない方がいい、という感覚はずっとある気がします。僕らはコロナ禍のとき、丸2年間何も活動しませんでしたが、「まあそのうちまたやるだろう」とは思っていましたしね。
前に作った『花柄八景』(2012年・2022年)という作品も、落語というものが一度なくなったとしても、落語を好きな人がいればいつかまた始まるでしょうというお話で、良くも悪くもそういう悠長さが根底にあるのだなと思います。
──それは長く活動を続けていらっしゃる理由にもつながりますか?
岡野 コロナ禍のあいだも、話し合いでもして焦らず待つか、って感じではありました。「絶対にやれないと困る!」みたいなタイプの人間たちではなかったので。
中嶋 でも長く続けている理由は、単に鈍感なだけだと思います。
岡野 ハハハハハハッ!
中嶋 すでにやめてしまった同世代の団体と同じような問題は常に抱えていると思うのですが、鈍感だからというのがいちばん自分の実感としては大きいですね。別に問題から目を背けているわけではないけれど、「こうあらねば」という矜持みたいなものはそんなにないし。
岡野 そうかもね。大きな目標みたいなものもないし。
中嶋 結成当初7人いたメンバーが3人になった時点で、「団体を大きくしないと」とか「はつらつと活動しなくては」みたいな義務感は無くなったかもしれないです。
■「若手団体をフックアップする立場は僕らにはかっこよすぎる」
──『再生ミセスフィクションズ』シリーズの前回は2018年なので、7年ぶりになります。
中嶋 それだけ時間が開いたのは、シンプルに短編を作る機会が減ったことがいちばんの理由です。『15 Minutes Made』(Mrs.fictionsが2007年の旗揚げ当時より行なっている企画公演で、6〜7つの団体が各15分の短編作品を上演する)を、多いときには年に3回くらいやっていたので、そうすると必然的に1年に3本短編ができたのですが、コロナ禍前ぐらいにそれが一度止まって。
さらに、これはあまり明るい話ではないのですが、『15 Minutes Made』をやるにあたって、僕らの年齢が上がってきたことがネックになっているというか。元々どの団体も対等にみんなでひとつの公演を一緒に作り上げていきましょう、という気持ちでずっとやってきて、参加する団体も僕らより年上の方たちもいれば、年下の方たちもいるという状態を目指していたんです。
けれど最近は若い方たちから「出させてください」と言っていただくことが多くなり、それは本当にありがたいことなのですが、その一方、こちらが絶対的に選ぶ側みたいになってしまうのは少し違うなと。「フックアップしてあげる」みたいなのは僕らにはかっこよすぎて似合わないというか(笑)。いやフックアップは出来るなら絶対したいんですけど。権威的になることへの苦手意識ですかね。
岡野 というか。若い方たちからしたら、僕らぐらいの世代から「一緒に頑張りたいですっ!」みたいなノリで来られても怖いんじゃないかなとか(笑)。若い世代とどのくらい肌感覚が違うのかも測りかねているし、小劇場の状況も少しずつ変わっていますし。
──5作品の中でいちばん初期に上演されたのは2010年の『Yankee Go Home(ヤンキー母星に帰る)』ですが、台本を読ませてもらって「幹てつや」(90年代にフジテレビのバラエティ番組『ボキャブラ天国』で活躍したピン芸人)という単語が出てびっくりしました。
岡野 2010年当時でも十分古いですよね。
──わたしはボキャブラ世代なので反応してしまいました(笑)。
中嶋 ボキャブラ世代だけに向けて、ということで。ああいうのを削る発想がなかなかできないんですよね。自分が「知らないけどきっと面白いんだろう」で育ってきたので。他の台本も、基本的には当時のまま上演する感じになりますね。
──岡野さんは今回未発表の『ハネムーン(仮)』という作品でひとり芝居に挑戦されると。
岡野 これは中嶋くんが2007年の結成当時に書いたものですね。
中嶋 そのころは7人全員が作・演出できるよ、みたいなスタンスだったんです。実際にできるというのではなく、あくまで“スタンス”ですが(笑)。
岡野 『15 Minutes Made』をやるときに、自分がやりたい作品をそれぞれ団体内でプレゼンして、そこから選んでいく流れだったのですが、今回の『ハネムーン(仮)』はそのときに中嶋くんがプレゼンしたものです。でも当時、中嶋くんは覇気がなかったよね。
中嶋 すぐ引っ込める。みんないるし、そんなに頑張らなくてもと思ってたから(笑)。
岡野 今回のためにリメイクしてもらっていますが、当時は発表されなかったのでそのときのメンバーしか知らないという……。
──なぜこれを今回やってみようと思ったのでしょうか?
岡野 今、僕が別の舞台の本番中で稽古にあまり来られないので、それならせっかくなので今までやったことのないひとり芝居をやってみようと。さらに、陽の目を見ていないこの作品を再生させるという意味でもベストかなと思い、選びました。
──今回の企画に関して、内容以外のことですごく気になるのが、来場者全員に本編映像をプレゼントすることです。お客さんからしたら絶対うれしいはずですが、なぜそこまで大盤振る舞いをされるのかとも思って(笑)。
中嶋 (小声で)わかりません。
岡野 うっかり1回目にやってしまったので、もうずっとやらざるを得ないだろうっていう(笑)。
中嶋 僕らは元々再演が苦手で、それは初演が好きだからなんです。初演が最も特別で、再演してその思い出が薄まってしまったら嫌だなって。だけど『再生ミセスフィクションズ』をやってみて、再演の素晴らしさもあると気づいた。そもそも再演したくないけれど再演をしようと決めたときに、「再生といえば何だろう?」「DVDじゃない?」みたいな話になったんです。「じゃあお客さん全員にDVDをプレゼントしよう」みたいな発想で決まって。だけどさすがに今はもうDVDを観られる人が減っているので、動画をお配りする形で考えています。
岡野 『再生ミセスフィクションズ』の第一回公演は、チケット代2500円で、DVDも郵送していたんです。しかも断られない限り、来てくれた回数分送るっていう。
──サービス精神が旺盛すぎます!
岡野 手元に残るものが好きなので、物としての何かをお渡ししたいんですよね。
中嶋 ふたつ目の特典の「怪人カード」もそうだよね。お客さんに喜んでもらえるかどうかはわからないけど、作りたいから作るっていう。
岡野 今日、「怪人カード」持ってる?
中嶋 前の公演で配ったのはあるよ。持ち歩きすぎてボロボロだけど。
岡野 写真が趣味の僕の妹が、撮ってくれた写真です。僕らがやりたくてやってることなので、喜んでもらえるかはわかりませんが(笑)、こんな感じで特典もいろいろある企画なので、遊びに来ていただけるとうれしいなと思います。
【期間限定無料公開!!】Mrs.fictions『上手も下手もないけれど』(2018)本編映像
本作は2025年11月13日(木)~17日(月)に武蔵野芸能劇場にて上演する、Mrs.fictionsの再演公演『再生ミセスフィクションズ3』にご来場して欲しいあまり過去の短編作品を期間限定で無料公開するものです。特にいつという予告なく急に消えたりしますので、お時間ありましたら是非ご覧ください。そして短編面白いな、と興味を持っていただけましたら、こんな感じで概ね15分くらいの短編が一度に5本も観れる『再生ミセスフィクションズ3』に是非ご来場くださいませ!
取材・文=碇雪恵
写真撮影=山崎ユミ