「ニコラ・フィアット」の至宝“パルム・ドール”が語る美しき熟成
“フランスで最も親しまれているシャンパーニュ”と評される「ニコラ・フィアット」からトップキュヴェ『パルム・ドール2009年』と、メゾン初のヴィンテージ・コレクション『クロノテーク』が登場した。10月に最高醸造責任者のギョーム・ロフィアン氏が来日、新しいポートフォリオについて語ってくれた。
白い花や黄桃、リコリスの香り。グラスの奥からブリオッシュやハーブのアロマが顔をのぞかせる。どこか“落ち着き”を感じさせる、やさしい果実味と余韻に残る繊細な苦味が『ニコラ・フィアット パルム・ドール 2009年』の熟成を物語る。
「2009年は“穏やかで暑い年”でした。ブドウは理想的に熟し、味わいに深みと厚みをもたらしてくれました。14年の熟成を経ていますが、しっかりした酸のおかげで、フレッシュさが感じられます」と最高醸造責任者のギョーム・ロフィアン氏は語る。
特徴的なのが、そのブレンドの手法だ。使用するブドウはシャルドネとピノ・ノワールがそれぞれ50パーセント。シャルドネはコート・デ・ブラン地区のグラン・クリュ(シュイィ、オジェ、メニル・シュル・オジェ、クラマン)のもの、ピノ・ノワールはアンボネーやアイを中心に使用しているが、興味深いのはシャンパーニュ地方南部に位置するモングー村のシャルドネを使用していることだろう。
「モングー村のシャルドネは力強く、まろやか。グラン・クリュのブドウは強い個性を持っているので、シャルドネとピノ・ノワールを繋ぐ役割を果たしています。独特のパイナップルのようなニュアンスも華やかさを添えてくれます。また、最終的にワインの個性を決めるドザージュにも気を使います。2009年から21年のヴィンテージのワインを使用していますが、マロラクティック発酵をしていないものを約20パーセント取り出し、フードルで分けて熟成しています。ですが、使うのはほんの少しなので“エクストラ・ブリュット”にカテゴライズされますね」
ニコラ・フィアットのアドバンテージは、何といっても“最高級のブドウが存分に使える”ことだろう。メゾンは1976年に実業家のニコラ・フィアット氏が設立、86年にはシャンパーニュ地方最大の協同組合と手を携え、現在、フランスでも最大規模を誇る。組合員となっている栽培農家はグループ全体で約6000、そのうちニコラ・フィアットは5000の農家から定期的にブドウを供給しているという。
「組合員がブドウを栽培している地域には、550の圧搾所があり、仕込みの時期になると、収穫後すぐに各所で圧搾された果汁がタンクローリーで運ばれてきます。このほうが、ブドウを直接運ぶより、果汁のフレッシュさが保たれるのです」とロフィアン氏。
そして今回、20年瓶内熟成されたシャンパーニュ『クロノテーク』が国内で初めてロフィアン氏より紹介された。カーヴに眠るオールドヴィンテージの熟成のポテンシャルに着目し、これにロフィアン氏独自のドザージュの手法を施した3つの特別なキュヴェだ。ヴィンテージにはそれぞれニックネームが付けられ、“Distinguished(際立った)” 1999年、“Vibrant(活気に満ちた)” 2000年、“Inviting(魅惑的な)” 2002年。どのキュヴェも個性豊かで熟成の美しさを感じさせるが、驚くのはさらなる熟成のポテンシャルを予想させることだ。「花の命は思ったより長い」と実感させられる。「コレクターズ・アイテム必至」と言っても過言ではないだろう。ロフィアン氏によれば、今後、ヴィンテージが異なるものを継続的に発表していく用意はできているという。
華やかな『パルム・ドール』が今後どのような進化を見せるのか。ワイン愛好家にとって“気になる存在”になりそうだ。
text by Kimiko ANZAI