野食を楽しむための基礎知識とは?野草・山菜が採れる場所を紹介【野草・山菜・きのこ図鑑】
野食を楽しむための基礎知識《2》野草・山菜が採れる場所
本書で紹介する野草・山菜は、里山、海辺、川や沼などの水辺のほか普段の生活圏にある身近な場所で採れるものもかなり多い。それぞれの採集場所ごとの特徴、採集の際の注意点を紹介しよう。
野草・山菜採取の話をするときに避けて通れないのが「どこで採れるのか」「どこなら採っていいのか」という2つの疑問だ。前者は植物学的な知識が、後者は法律学的な知識が必要となる。しっかり語ろうと思えばそれで一冊の本が書けてしまうほどだが、本書はポケット図鑑なので抄訳的な話に留めたい。
身近
野草ハントで一番身近なフィールド、それは街なかである。十把一絡げに「雑草」と呼ばれてしまう草たちの中にも美味しいものはたくさんあり、日常的に利用できるという点ではこれ以上便利なものはない。
そもそも街なかに草なんか生えてないだろ ! という人は自然への解像度があまりにも低い。コンクリートやアスファルトの隙間からたくましく生えてくる緑、ちょっとした空き地をあっという間に埋め尽くす茂み、それはすべて自然に生えてきた野草であり、そしてその中には食べて美味しいものが少なくないのだ。
身近なフィールドのなかでもっとも採取がしやすいのは「河川敷」である。河川敷は法律により土地やそこに生えているものの私有が許されておらず、共有財産ということになっている。そのため営利目的でない限りはそこに生えているものを誰でも利用することができるのだ。都会のオアシスともいえる河川敷には実に多種多様な野草が生えている。その気になれば八百屋代わりに利用することも可能だ。本書において「身近」の項目に掲載されているものはすべて河川敷で採取できると考えていただいて問題ない。
一方、河川敷以外の街なかのフィールドで採取するのは意外と難しい。ほぼすべての土地が私有地であり、採取には所有者の許可が必要となるからだ。また都市部の公園では、環境保全のためにあらゆる植物の採取を禁止しているところも多い。河川敷以外で何かを採取するときは、必ずその土地の管理者に確認するように心掛けてほしい。
里山
ご存知のとおり、山には多種多様な植物が生えている。しかし、一般の方が連想するだろう「山」と我々のような野草食愛好家が連想する「山」にはいくぶん隔たりがある。
美味しい野草・山菜を採るためには、大木の生い茂る本格的な山ではなく、適度に人の手の入った「里山」に行くのが鉄則となる。なぜなら山菜と呼ばれるものの多くは草本もしくは低木であり、高木の茂る森の中では日照が不足するため生育できないからだ。里山は人々がその暮らしの中で木々を切り、道を拓き、土地を造成してできたものだ。そのようにして撹乱された環境では、あらゆる植物が旺盛に生えることができる。人々は里山での暮らしの中で美味しい野草を見出し「山菜」として利用してきたのだ。
加えて、タラノキやウドのような植物はパイオニア植物と呼ばれ、木が切られて土がむき出しになったところに真っ先に生えてくる性質を持つ。ニュータウンや別荘地、林道の脇といった場所は食用野草を採取するのには最高の環境といえる。
しかし「身近」の項で触れたのと同様、採ろうとするフィールドが採取可能な場所かどうかは必ず確認しないといけない。自然公園では野草類を含めた生物の採取行為が禁止されていることが多いし、郊外の里山も必ず所有者がいる。
採取にあたっては慣例的に採取が許されている場所や、入山料を払うことで採取可能となる場所(インターネットで調べることができる)を見つけるのが無難だろう。
水辺
河川や湖沼の畔、用水路のわき、水田の畦などといった水辺に生える。セリやミツバ、ワサビなどスーパーで販売されるような著名な食用植物も多く、採取フィールドとして無視できない。水辺に生える野草は大きくなっても柔らかいものが多く、夏を過ぎても利用できるものが多いのもうれしいところだ。
気をつけたいのは、水辺には毒草も多いということ。とくにドクゼリやドクニンジンのようなセリ科毒草、キツネノボタンのようなキンポウゲ科毒草は水辺を好んで生え、食用野草と混生することも多い。採取にあたっては一株ずつていねいに確認していくことが大切だ。
また、ヒシやガマのように水中に生える野草を採取するときは、勢い余って転落してしまわないように注意したい。筆者はヒシの果実を採取していて水中に転落し、水浸しで帰宅したことが人生で2度ある。
海辺
水辺と同じようでまったく異なる植物が生育するのが海辺だ。常に塩分を含んだ強風にさらされ、強烈な日照による乾燥と戦わなければならない海岸は植物にとっては過酷な環境で、そこに適応した野草だけが生えることができる。
そのため、海岸近くで採れるのはアシタバやハマボウフウのように葉が丈夫だったり、ツルナやウチワサボテンのように肉厚だったりするものが多い。また年間を通して緑色の葉をつけるもの、ほぼ一年を通して柔らかいものも多く、山菜の減る盛夏から秋の時期に食べられる野草を採取したくなったら、海辺のフィールドに向かうのがおすすめだ。毒草が比較的少ないのもうれしい。
【出典】『野草・山菜・きのこ図鑑』著:茸本 朗