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継続できるならラジオ体操でもいい。運動習慣が第二の人生を変える

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今回のゲストは、アレックス脊椎クリニック院長の吉原潔氏。吉原氏は整形外科医でありながらフィットネストレーナーのスキルを持つ、医師として異色の存在だ。日々、首や背中、腰などの悩みに苦しむ患者さんに応えながら、日本ではまだ珍しい脊椎内視鏡手術も行う。高齢者の腰の悩みに詳しい吉原氏に、健康な身体を保つためのヒントを聞いた。

二足の草鞋を履く整形外科医

―― まずは先生が整形外科を専門にされた経緯からお聞かせください。

吉原 昔から「痛みに苦しむ人を助けたい」という思いがありました。なので、麻酔科医になろうかとも考えたのですが、メスも持ちたかった。そこで、整形外科医になる道を選びました。現在は首・腰・足の痛みなどの治療を行うほか、リハビリのアドバイスをすることもあります。

―― 内視鏡手術も行われていると伺いました。

吉原 脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニア、圧迫骨折などの症状がある方を対象に、手術を行っています。内視鏡手術はピンポイントで切開できるので、出血が少なく、小さな傷で抑えられる画期的な方法です。

―― フィットネストレーナーとしてもご活躍されていますが、整形外科とトレーナーの両方に精通しているからこそできることは、どんなことでしょうか?

吉原 治療だけで終わるのではなく、リハビリのやり方についても細かい説明ができるのは、私ならではでしょうか。例えば“ちからコブ”ひとつとっても、どんな角度で腕を上げるかによって形が変わります。理想的な筋肉の動かし方を知っているので、患者さん一人ひとりに合わせたアドバイスができます。もちろん、リハビリは理学療法士さんにお任せしていますが、それとは別に独自のアドバイスや課題(宿題)を差し上げています。

―― 自分のことをよく知る主治医が、リハビリのやり方も説明してくれたら頼りになるなと感じますね。先生ご自身もがっちりしたお身体ですが、今も筋トレをされているんですか?

吉原 しています。筋肉や関節って、使わないとだんだん衰えていくんです。使っていない機械が錆びつくのと同じ理屈です。日常生活では腕を高く上げることがほとんどないため、日頃からそのような動きをしていないと、歳をとるにつれて完璧なバンザイができなくなります。それには、関節の柔軟性が失われていくことと、筋力が弱くなっていくことの両方が関係しています。今までと同じ感覚で生活できていると思っていても、身体は年齢とともに徐々に衰えていきます。健康を維持するためには、身体を動かしてその衰えに逆らわなくてはいけません。

ロコモティブシンドローム※が浸透しない理由もそこにあります。多くの人は、「今は普通に歩けているから不自由していない」といって運動をしません。しかし、今までと変わらないと思っていても、いつの間にか歩けなくなるものなのです。筋肉の衰えに対する自覚がないのは医療従事者も同じです。ロコモティブシンドロームの危険性を訴えていながら「自分は運動をしていない」という整形外科の先生も多いです。

だから、今は困っていなくても筋肉の“蓄え”を作っておく必要があることを、実感すべきだと思っています。歯磨きのように「運動しないと気持ち悪い」状況になれたら理想的ですね。運動で大切なのは、一時的に無理して頑張るのではなく、続けることを目標にして、生活の一部にしてしまうことです。

※運動器の障害によって移動機能が低下した状態のこと。

自分で移動できる力をいかに残せるか

―― 先生は、高齢者が元気でい続けるために大切なことは何だと思いますか?

吉原 自分の能力で移動できる力をどれぐらい残しておくかだと思います。自分の力で外出できなくなると、認知症も進行する危険性が高まるし、家の中で転びやすくもなる。まして骨折するとどんどん悪循環に陥ってしまいます。

―― 移動能力を維持するためにはどうすればいいでしょうか。

吉原 普段からよく動くことを意識してください。毎日散歩を続けるだけでも、とても意味があります。散歩中に坂道や階段の多いコースを選んだり、大股歩きや早歩きをしたりして、負荷をかけるのも良いと思います。この意識を少し心がけるだけでも大きく違ってきますよ。

運動や人間関係が面倒くさいという気持ちが勝ってしまうと、どんどん寡黙になって動かなくなっていきます。やがて物言わない置物のような状態になりかねません。そうなれば認知症にもロコモティブシンドロームにもなるでしょう。良いことはありません。

ラジオ体操は高齢者にこそ真価を発揮する

―― 高齢者が無理のない範囲でできる運動はありますか?

吉原 どんな運動でもいいのですが、「何がいいか分からなかったらラジオ体操をやってください」と言っています。ラジオ体操ほど認知度が高い体操は、世界中探しても他にないそうです。

ラジオ体操は、現代的な用語で言うと「動的ストレッチ」なんですよ。 ストレッチと言えば、同じポーズで30秒ぐらい続ける「静的ストレッチ」が有名です。一方、動的ストレッチは、動かしながら筋肉を伸ばすストレッチです。ラジオ体操は、動的ストレッチの最たるものなのです。

―― ラジオ体操だと、5分くらいしか運動する時間がないと思います。長時間運動するよりも、運動の継続に意味があるということでしょうか?

吉原 先ほども言いましたが、続けることが大事です。ラジオ体操と言えば、小学校が夏休みに行う運動のイメージですが、本来は歳を取った人こそが行うとよい体操です。身体能力の維持に役立ちますので。「ラジオ体操の音楽が流れると自然と身体が動く」という人がいますが、子どもの頃の経験が財産になっていると言えるでしょう。

高齢になっても美しい姿勢でいるために

―― 高齢になると腰が曲がる方が増える仕組みについてお聞きしたいです。

吉原 年齢とともに猫背姿勢が強くなる人が多いのが一番の原因です。猫背では身体のバランスが悪くなり、腰が痛くなったり首や肩が凝ったりします。頭が胴体よりも前に出て、重心がどんどん前方に移動してくるので、やがて杖が必要になることも多いのです。腰や背中が曲がると、見栄えも悪くなり実際よりも歳を取って見えがちです。

女性では、それに加えてホルモンの関係で骨粗しょう症を起こしやすいことが 挙げられます。骨粗しょう症では、背骨が少しずつ潰れて背中が丸くなりやすいことが分かっています。

猫背になると、身体のバランスが悪くなって、腰が痛くなったり首の凝りにつながります。どんどん重心が前にいってしまうので、やがて杖が必要になるのです。それに、腰が曲がると、実際よりも年を取って見えがちです。

―― 骨粗しょう症も原因となるとは知りませんでした。予防するためにはどうしたらいいでしょうか?

吉原 40代以上の方は、肩甲骨のあたりを反らす運動を毎日続けると良いです。身体が固くなっている場合は、フォームローラーのようなものを使って強制的に身体を反らしてあげるのも効果的でしょう。放っておけば固くなる一方なので、早めに取り組むことが大切です。

それから、骨粗しょう症にならないためにカルシウムをいっぱい摂ることですね。

―― カルシウム……!カルシウムは本当に骨を強くする力があるのですか?

吉原 カルシウムは骨の原料ですから、それが不足すると骨は出来てこないどころか衰える一方になります。そういう意味でカルシウムは身体にとって大切な栄養素であることは皆さんもご存知の通りです。ところがカルシウムは吸収率の悪い栄養素で、食べ物に含まれていても消化管から吸収されずに素通りして便から流れ出てしまうことも多いのです。そのため、お日様と仲良くすることも大切になってきます。

―― お日様と仲良くすること……ですか。

吉原 日光を浴びることで皮膚からビタミンDが合成されるのです。ビタミンDは、腸管からのカルシウムの吸収を促進させるとともに、血液に入ったカルシウムを骨まで運ぶ働きがあります。そのため日光を浴びるだけでも骨粗しょう症の予防になります。日光を浴びるには、家の中にこもっていないで積極的に屋外に出ることが大切ですね。

美容的には、日光には紫外線が含まれており、紫外線がシミやそばかすの原因になると言われています。ところが何事もほどほどが良い。日光を嫌ってサングラスや手袋などで完全防備していると、ビタミンDが不足しがちになり、骨粗しょう症に近付いてしまいます。

いかに筋トレを取り入れるかが命綱

―― 要介護状態の方はどのように筋力を鍛えたらいいでしょうか?

吉原 まず、家族や施設の方の協力が必要です。

なぜなら運動や外出に億劫になってしまっているお年寄りが多いからです。高齢者が一人で運動するのはエネルギーがいるので、「一緒に運動しましょう」とか「一緒に散歩しましょう」と声を掛けて誘ってあげるのがポイントです。

若い人もスポーツクラブで筋トレするときは、誰かと一緒の方が楽しいですよね?「友人は10回やったのに、自分は8回でやめたら格好悪い」という気持ちにもなります。無理しないことは大切ではありますが、見栄やプライドがあるからこそ頑張れる部分もあるのです。

高齢者同士で誘い合って散歩するのも良いことです。散歩が楽しくなると続けやすくなりますし、会話もできるので認知症予防にもつながるでしょう。

―― 車いすや寝たきりの方が体力を回復する方法はありますか?

吉原 回復するための環境を作ってあげることですね。整形外科医の立場から言えば、車いすが絶対悪いわけではありません。「車いすは嫌だ」と言って、無理して歩いて転んだら、もっと大きな怪我につながるかもしれないので。

それより、日常生活で、いかに筋肉を鍛えるか、維持するかを考えてみてください。車いすの方であれば「トイレの便座に座るときだけは、手すりを持って、自分で車いすから移動する」というように、日々何回かでも着実に自力で実行することが大切なんですよ。

―― できるところからやっていくということなのですね。

吉原 そうですね。「今日は疲れたからやめる」となると、残念ながら現状を良くすることはできない。あきらめたら、そこから回復できなくなります。本人が頑張ろうと思える状況をいかに作るかが大切です。

「続ける」を叶えやすい、ドクターズスクワット

―― ご著書の「ドクターズスクワット」についても詳しくお聞きできますか?

吉原 ドクターズスクワットは、両手を前方に伸ばして胸を張り、しゃがんだ状態から立ち上がる動作を繰り返す運動です。1回30秒でできるので、テレビのCM中にもできます。運動習慣を身に付けてほしいという思いから30秒という短い時間設定にしました。続けることができたら、次は心身の変化という結果につながるのが理想です。最初から結果を求めるのではなく、難なく運動習慣をつけることを目標としており、それが身に付けば体は自然と変わってくるのです。たった30秒でも、チリも積もれば……です。

―― 30秒で良いのであれば、続けやすそうです。

吉原 そうですね。30秒が物足りなければ体力に合わせてセット数を増やしていただくこともできます。例えば、学校の運動部で鍛えている方であれば、30秒のスクワットだけでは負荷が軽すぎてほとんど変化がないかもしれません。その場合は、30秒1セットを何回か行うのも良いでしょう。ただし、繰り返しになりますが、いっぺんにたくさん行っても、数日で飽きてしまうのではダメです……!

―― 実際、30秒でも効果は出てくるものですか?

吉原 やっぱり、そこが気になりますよね。実は、効果が出たことを伝える読者ハガキが、出版社にたくさん届いているんです。例えば、介護施設に入居されている女性から、「今まで自分にできる運動はなかったけど、ドクターズスクワットならできた」とハガキが来ていました。

毎日30秒で4回ドクターズスクワットを繰り返しているそうです。若い方なら30秒で20回ぐらいできるかもしれませんが、年配の方なら4回でも運動になります。何より継続されているのが素晴らしいです。

吉原 強度が調整できるのもドクターズスクワットの良さです。例えば、30秒の間に超ゆっくりとスクワットをするのは、結構きついと思うんですよ。同じ30秒でも素早く動くのとは違った負荷になります。その人の筋力レベルや体調に応じて行えるので、30秒でも決して馬鹿にしたものではありません。

―― しゃがんだ状態から立つスクワットという点も変わっていますね。

吉原 スポーツクラブでスクワットしている人を見て、十分に筋肉を使えていない人が多いと感じていたんです。なぜなら、立った状態からしゃがむ従来のスクワットでは、しゃがみきる途中で立ち上がってしまうことが多い。すると、スクワットの上下の移動幅が少ないので、運動量が減ってしまうのです。そこで上下の動きを広げて負荷を得るために、完全にしゃがんだ状態から立ち上がるドクターズスクワットを考えました。

“自律神経を整えること”はすべての土台

―― 患者さんの中には痛みが出てから「どうにかしてほしい」といって来られる方が多いと思います。日々、痛みに悩む患者さんをみているからこそ、予防として大切だと実感されていることはありますか?

吉原 その点において患者さんにアドバイスしているのは「自律神経を整えましょう」ということです。

呼吸や体温、血圧、脈拍などは、自分が意識しなくても自律神経の働きで自動的に調整されています。少し熱くなると体温が上がらないように身体が恒常性を保ってくれる。早歩きをすれば、息が上がってくる。そのような身体のコンディションは、全部、自分の意思とは関係なく動いてくれています。それを司っているのが、自律神経です。自律神経は、「交感神経」と「副交感神経」に分けられます。交感神経は活動するときに働く神経でアクセルの役割、副交感神経は休息やリラックスするときに働く神経でブレーキの役割を果たしているのです。

自律神経が乱れてくると、大抵は交換神経が優位になります。 すると、眠れなくなったり、血圧が上がったり、呼吸が荒くなったりします。 最初は1の痛みだったものが、増幅されて10の痛みになりかねないのです。

自律神経を自分の意思で調整できるのは、唯一、呼吸だけです。 長くゆっくり息を吐くと、脈を打つ速さが落ち着いてきます。気持ちが安定して、怒りも抑えやすくなります。

それから、身体のリズムを整えるためには、十分に眠ることが大切です。自律神経の元になっているのは「体内時計」という、細胞が感じている時間なんです。上質な眠りは、体内時計を整えてくれます。日本人は睡眠不足の人が多いですが、まずは自律神経を整えないと良いパフォーマンスは生まれませんし、痛みも過剰に感じてしまいます。

幸せは自分の心から

―― 先ほど、本人の意思が大事というお話がありました。具体的な実践のヒントをお聞きしたいです。

吉原 私が印象に残っている出来事をお話します。クリニックを開業する前に勤めていた病院には、療養病棟が併設されていました。そこで感じたのは、患者さんの人柄によって、家族がお見舞いに来てくれる頻度が変わるということでした。

いつもにこにこしているおばあちゃんのところには、家族がよくお見舞いに来ていました。しかし、愚痴や不満ばかりのおばあちゃんのところには、家族は寄り付かない状況がありました。周囲に対する思いやりや笑顔、感謝の気持ちはすべてそのまま自分に返ってきます。それによって幸福度が変わってくるのです。

―― 若くいられるかどうかも、本人の気持ちに寄るところが大きい気がします。

吉原 そうですね。例えば、外出するときに「面倒くさいのでスウェットでいいや」という人と「きれいにしないと嫌だ」という人がいます。

その気持ちの違いが、「若さ」を左右します。「人に見られている」とか、「おしゃれして見栄えは良くしたい」と考えるのが若さの秘訣です。気持ちが「どうでもいいや」になると一気に老けます。

―― 運動にしてもおしゃれにしても、まずは本人の”生きる意欲”というところですね……。いろいろな悩みがあると心が塞ぎがちになるものですが、日々のなかに小さな幸せを見つけるクセを付けたいと感じました。本日は、ありがとうございました。

撮影:熊坂勉

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