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【連載コラム:魚釣りが育む子どもの心とカラダ】第一回・幼少期の釣りの記憶

つり人オンライン

令和の子どもたちは、さまざまな理由から、自然の中で遊ぶ機会を失いつつあります。そんな子どもたちに、釣りを通じて自然に親しんでもらいたい――。その想いから、半年間にわたり、雑誌×Web×SNS連動型企画をスタートします。「つり人オンライン」では特設ページを公開中。SNSでは「#つり人親子釣りコンテスト2025」も始まりました。釣りという本能に訴えるシンプルな体験が、子どもたちの心と体に、安らぎと自信を育んでくれるはずです。

レポート◎山根和明(株式会社つり人社代表取締役社長)

協力◎株式会社龍角散・宇津救命丸株式会社・樋屋製薬株式会社

自然とのふれあいの重要性

「皆さんは、幼少期に体験した自然とのふれあいをどれくらい鮮明に覚えていますか?」私は釣り雑誌の編集者として長年仕事をしてきました。日本全国の釣り場に出かけ、写真を撮り記事を書く――釣り好きにとっては夢のような仕事です。一方で「趣味を仕事にするのは大変でしょう?」ともよく聞かれましたが、その度に私は笑って答えてきました。「実は、楽しくて仕方ないんです。申し訳ないくらい楽しみながら仕事をしています」と。

北はオホーツクの秋鮭、奥尻島のマダラ。西は対馬・五島列島のヒラマサ。南は奄美群島、トカラ列島のカンパチ、伊良部島のキハダ。川や湖にもよく行きました。十和田湖のヒメマス、裏磐梯桧原湖のワカサギ、中禅寺湖のホンマス、奥琵琶湖の野ゴイ、長良川のアマゴ、四万十川の天然アユ、水郷柳川のカゼトゲタナゴ――釣りファン憧れのポイントにはほとんど足を運べたと思います。こんな仕事に巡り合えたことに、日々感謝しています。

そんな私ですが、ふとした瞬間に鮮やかによみがえる釣りの光景があります。それは、幼少期に小川でフナを釣った記憶なのです。田んぼ脇を流れる幅2mほどの用水路。深緑色の水面に浮かべたウキが2、3度小さく上下し、波紋を残して水中に消えていった――。あの瞬間を今でも鮮明に覚えています。

これは私に限った話ではありません。これまで多くの釣りのエキスパートに取材してきましたが、幼少期の釣り体験を鮮明に覚えているという人ばかりでした。大人になってから釣りを始めた人でも、よくよく聞けば子どもの頃に何度か釣り経験がある場合がほとんどです。ある時ふと子どもの頃の記憶が蘇り、「またやってみようかな」と再開する――釣りにはそんな不思議な魅力があるようです。

子どもの頃に自然の中で遊んだ記憶は、脳の奥深くに刻み込まれます。野鳥のさえずり、カエルの合唱、林に響くセミしぐれ、入梅の草いきれ、死んだ魚のにおい、陽光に照り返す銀鱗……。

たとえテクノロジーが進歩して生活がどれほど便利になっても、人類は結局地球上の生物の一種に過ぎません。だからこそ幼少期の釣りの記憶は、脳にとって何物にも代え難い大切な体験として残るのだと思います。自宅近くの小さな都市河川だって、子どもにとっては立派な自然です。小さな緑地や水辺でも、そこで遊んだ経験は貴重なのでしょう。釣りを通じて幼少期に自然の中で遊ぶことが、子どもの成長にとってどれほど重要か計り知れません。

幼い頃に川でフナを釣ったあの日から幾星霜。気がつけば私は、釣りに携わる仕事を生業とし、自然と共に生きてきました。この項では、私自身の体験を通じて、「釣り」という行為が子どもたちにもたらす情操教育、自然環境への気づき、そして食育の大切さなどについて綴っていきたいと思います。釣りの初心者の方や、子育て中の親御さん、自然教育に関心のある方にも楽しんでいただけるよう、専門用語は避けて平易な文章で書きました。読み終えたとき、皆さんが釣りを通じて命や自然、子育ての本質に少しでも触れ、「生き方の本」として何か持ち帰っていただければ幸いです。ではまず、釣りの基本から話を始めましょう。

産卵期になると鮮やかな婚姻色が浮かび上がるオイカワのオス。オスとメスでこれだけ見た目が変わってくるということも、子どもにはとても新鮮です   

釣りの基本知識

釣りを始めるには、まず基本的な知識を押さえておくことが重要です。とはいえ、何も難しく考える必要はありません。

昔は「海釣り」か「川釣り」くらい大雑把な分類でしたが、最近ではフライフィッシング、バスフィッシング、ソルトルアー、テンカラ、船釣り、磯釣り……とジャンルが細分化されています。そしてそれぞれに専用の道具があり、極端に言えば魚の種類ごとに専用タックルが存在します。そのため「何から始めればいいの?」と迷う人も少なくありません。しかし、本来、釣りはシンプルな遊びなのです。来年80周年を迎える『つり人』の創刊号の詞にも、こう書かれています。

「釣りは、人類の原始時代から、我々と深い因縁を持っているらしい。子供は、すべて釣りを好む。我らの遠い祖先のような無心の姿で、子供は釣っている。釣ろう。無心の姿で。釣りするために釣ろうではないか。」

この一節は、釣りの原始的な魅力を端的に表しています。子どもが無心で釣りに夢中になるのは、遠い祖先から受け継いだ本能だからなのでしょう。難しく理屈付けせずとも、まずは純粋に釣りを楽しむ――それが基本なのだと創刊者の佐藤垢石は言っています。私自身、初めて手にした釣りザオは祖父が庭で切って乾かした竹ザオ(布袋竹)でした。

私は現在、公益財団法人日本釣振興会の理事も務めています。日本釣振興会では子ども向けの釣りイベントも多く開催しています。その中に釣りの環境学習というものがあり、私は神奈川県川崎市の平間小学校で何度か釣りの授業をしました。座学と実技があり、実技では校庭裏の竹林で子どもたち自身が刈った竹をサオに使います。長さは1mほど。その先にイトを結び、イトの先にハリと小さなオモリをつけ、エサをセットするだけという原始的な道具立てですが、ハゼやテナガエビがちゃんと釣れるのです。

日本釣振興会の釣り環境授業の一環として川崎市の平間小学校で毎年、釣り授業を実施しています。写真の竹ザオは校庭に生えていた竹を生徒が各自刈って作りました。これでも魚はちゃんと釣れます

道具の選び方についても少し触れておきましょう。釣り道具は大きく2種類、リール付きの「リールタックル」と、リールのない「ノベザオ」に分かれます。最初は扱いが簡単なノベザオがおすすめです。ノベザオといっても、50cmほどの短ザオからアユ釣り用の10m近いものまで様々ですが、小学生くらいの子どもが扱えるのはせいぜい3mくらいまででしょう。私が子どもたちに教えるときは、2~3mのサオで手軽に楽しめるハゼ釣り、テナガエビ釣り、クチボソ(モツゴ)釣り、フナ釣り、そして1mほどのサオとイトとハリだけを用いたピストン釣りなどを中心にしています。

釣りの世界に足を踏み入れると、最初はたくさんの専門用語や道具に圧倒されるかもしれません。でも心配はいりません。釣りの基本はシンプルなのです。簡単な仕掛けでも魚は釣れますし、むしろ初めはそのほうが魚との駆け引きを存分に味わえます。凝った道具立ては大人になってからいくらでも楽しめますから、子どもにはまず身近なサオと仕掛けで魚と触れ合ってもらいたいです。

日本釣振興会で実施している多摩川フィッシングフェスティバル。上流部の青梅エリアでは、川に立ち込んでピストン釣りを楽しみます   

これだけは知っておきたい釣り場のマナー

釣り場では他の釣り人や自然環境への配慮が欠かせません。ゴミは持ち帰る、静かにする、釣った魚を丁寧に扱うなど、基本的なマナーを守りましょう。特にコロナ禍で釣りブームになった際には、漁港でのゴミ放置や迷惑駐車が大きな問題となりました。こうしたマナー違反が原因で釣り禁止になってしまった場所も少なくありません。

釣り場を守るためにも、「来たときよりも美しく」を心掛けたいですね。そして意外と大事なのがあいさつです。釣り人同士、見知らぬ人でも挨拶を交わせば気持ちよく過ごせますし、情報交換ができることもあります。

実は釣り人には不思議な心理があります。学校や職場で釣り好きに出会うと旧知の友のように感じるのに、釣り場で突然知らない人が隣に来ると「自分のポイントに入ってきたな」と敵意を抱きがちなのです。同じ釣り好きなのに、この差はなんなのでしょう?

これはおそらく、人類の狩猟採集本能と関係しています。200万年の人類史の中で農耕牧畜が始まったのはほんの1万年前、それ以前の199万年間は狩猟採集生活だったと言われます。つまり釣りという行為は、人の奥底に刻まれた狩猟採集本能を直接刺激する趣味なのです。釣った魚を持ち帰るか逃がすかに関わらず、釣り場にいる魚は無意識のうちに「自分の獲物」と感じてしまうのでしょう。だからこそ、自分の縄張りに他人が入ってくると感じると、つい警戒してしまう。

しかし、そこで笑顔で「おはようございます。釣れていますか?ここでご一緒していいですか?」と声をかけられれば印象は大きく変わります。最初の一言で、お互い気持ちよく釣りを楽しめるかが決まると言っても過言ではありません。釣り人には「同じ趣味を愛する仲間」という連帯感があります。ですから、マナーとあいさつを大切にして、釣り場では気持ちの良いコミュニケーションを心掛けたいですね。

   

子どもと一緒に釣りをする際の安全対策

子どもと釣りに出かけるときは、安全対策を万全にしなくてはなりません。以下のポイントを押さえて、楽しく安全に釣りを楽しみましょう。

天候の確認

出発前に必ず天気予報を確認します。雷・強風・大雨などの予報が出ている場合は無理をしないことが肝心です。山間部の川では、現地が晴れていても上流で大雨が降ると急に増水することがあります。数日前の雨でまだ増水している場合もありますので、国土交通省の「川の水位情報」なども前日までにチェックすると安心です。

適切な服装と装備

季節と釣り場の環境に合わせた服装を選びます。夏場は帽子やサングラスで直射日光を避け、冬場は防寒対策をしっかりと。阪神タイガース現監督の藤川球児さんは大の釣り好きですが、少年時代にお父さんに磯釣りに連れて行ってもらった際、とても寒い思いをしたため、今でも磯釣りだけは行きたくないそうです。また、子どもには必ずライフジャケットを着せましょう。ライフジャケットは万一水に落ちたとき命を守ります。大小様々な子ども用が市販されているので、釣りの際は忘れずに持参します。

ライフジャケットは必ず着用しましょう

子どもから目を離さない

特に10歳未満の子は予測不能な行動をすることがあります。水辺はちょっとした油断が重大な事故につながりかねません。親が自分の釣りに夢中になっている間に子どもが川に落ちてしまった――そんな体験をした人を私は知っています。実際、会社の同僚にも「子どもの頃、親が釣りに夢中になり、自分が川に流された」という人がいます。

釣り船でも、10歳未満の子は予期せぬ行動をとる恐れがあるため乗船不可にしているところがあるほどです。小さな子どもを連れていると、自分の釣りに集中するのは難しいかもしれません。しかし、子どもが自然の中で安全に遊ぶためには、大人の見守りが不可欠です。「良い子は川に近づかない」ではなく、「川は楽しいけど危険もあるから気を付けよう」と伝えるのが大人の役割だと私は思います。実際に危険に近づかないためのルールを教えつつ、子どもの冒険心と好奇心は大切にしてあげたいですね。

親子釣りフォトコンテストを開催中

Instagramと特設サイトで親子釣りの写真投稿を募集しています。投稿時に指定ハッシュタグ「#つり人親子釣りコンテスト2025」を必ずつけてください。投稿作品の中から優れた作品を、つり人オンライン特設ページへ掲載(紹介文や編集部コメント付き)。毎月3名に子ども用ライフジャケットまたはAmazon ギフト券をプレゼントします。さらに2026年1月16〜18日「釣りフェスティバルin パシフィコ横浜」つり人社ブースにて、投稿の中から選ばれた優秀作品を展示いたします。

 

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