Yahoo! JAPAN

ノーベル賞を取れない日本人は全員、英語を勉強すべし! 鎌田浩毅先生からの警鐘【杉田敏の 現代ビジネス英語】

NHK出版デジタルマガジン

ノーベル賞を取れない日本人は全員、英語を勉強すべし! 鎌田浩毅先生からの警鐘【杉田敏の 現代ビジネス英語】

鎌田浩毅先生と杉田敏先生の特別対談を公開!

火山学・地球科学を専門とする、京都大学名誉教授の鎌田浩毅さん。聞き手を引き込む明快な講義は、学生の間で人気を博していました。テレビ番組や講演会でも、そのわかりやすい解説が注目を集めています。

英語に関する著書も多い鎌田さんが、備えるべき地学の知識や、語学の意義について語ってくれました。

※『杉田敏の 現代ビジネス英語 2025年 夏号』より一部抜粋して掲載。

分子生物学者・ワトソンの著書が科学や英語への興味の出発点に

杉田 鎌田先生は、京都大学での講義が毎年多くの学生を集めた「京大人気No.1教授」です。ご著書には、「自分をプロデュースした」と書かれていますが、具体的にはどのようなことをされたのでしょう?

鎌田 講義の人気は学生に聴いてもらうための“マスト”でした。なぜなら、日本の高校生のうち5%しか「地学」を専攻せず、残りの95%は地震や噴火について知らずに卒業してしまうのです。こんなに自然災害が多発している中で、それは非常にまずい。だから授業は「面白くて役に立つ」を心がけ、外見的にも目を引くファッションにするといった演出をしました。

杉田 学生はゲラゲラ笑ったりして講義を聴いているわけですか?

鎌田 それもあります。ほかに、僕が黒板に書きながら話す15分、自然現象を動画で学ぶ15分、質疑応答の15分など、1コマ90分を15分ごとに切り替えるという、学生たちが飽きない工夫をしました。教科書は、高価な専門書ではなく、文系の人が読んでも苦労なくわかるようにまとめた700円程度の新書を自分で書き下ろして用い、予習や復習にも役立ててもらいました。

杉田 なるほど、いろいろな点を考えられていたのですね。本のお話が出たので、「科学の伝道師」である鎌田先生の読書について聞かせてください。ご著書で「インスピレーションを得た本が何冊もある」と紹介していますが、1冊だけ挙げるとすると?

鎌田 DNAの構造を明らかにしたジェームズ・ワトソンの『二重らせん』です。筑波大学附属駒場中学(筑駒)の1年生で初めて読み、そのあと原書のペーパーバックThe Double Helixも読みました。後の僕の科学者人生の原点であり、英語に興味を持つきっかけにもなった1冊です。

杉田 どんな内容に惹かれたのですか?

鎌田 ワトソンは、分子生物学の大家たちと研究成果を競い勝ち抜いた学者です。科学研究界の熾烈な競争や、仕事の合理性とチームワークの大切さをこの本で知り、生き方のすべての縮図が詰まっていると、中学生ながらに感動しました。ワトソンはノーベル賞受賞後も精力的に活動し、『遺伝子の分子生物学』という世界的ロングセラーも書きました。こちらは大学時代にやはり原書で読みました。

巨大地震から命を守るために必要なこと

杉田 面白そうですね。読んでみたくなりました。さて、ご専門の地球科学に関連して伺いますが、日本全国で地震が多発している中、鎌田家ではどんな備えをしていますか?

鎌田 わが家には本棚が20台以上あり、以前は居間や寝室に分散していましたが、地震が来たら倒れて圧死すると思い、家を買い替えてすべてを一室に入れました。地球科学が専門の僕が地震で死んだらいかんのです(笑)。

杉田 確かにそのとおりですね(笑)。

鎌田 それから、水や食料や医薬品の備蓄、忘れてはならないのが簡易トイレ。この4つは家族の人数×1週間分は備蓄し、講演会やメディアでも、備えるように伝えています。もう1つ大切なのは、知識の備えですね。

杉田 知識の備えですか。ぜひ聞かせてください。

鎌田 たとえば、「南海トラフ巨大地震」について何がポイントかを知らない人がほとんどです。結論から言うと、2030 ~ 2040年の間に起こり、その被害は東日本大震災の10倍。この2つさえ知っていれば、必要な備えをして命を守ろうという気が起きます。そうでないと、ひと事なんですね。南海トラフ巨大地震が起きれば日本の人口1億2,500万人の半数以上、約6,800万人が被害に遭うと予想されており、少なくともその6,800万人に地学の知識を伝えることが僕の使命だと思っています。

杉田 地震は自宅にいるときに起こるとは限りません。外出中に留意していることは?

鎌田 500mlのペットボトルの水、ペンライト、チョコレートなどの食べ物。この3つは常に持ち歩いています。

杉田 南海トラフ巨大地震、富士山の噴火、首都直下地震は「パスできない」ということも強調されています。地震予知についてブレイクスルーは起こらないのでしょうか?

鎌田 地震現象は物理学で言う「複雑系」なのです。「バタフライ・エフェクト」とも表現されますが、コンピュータでいくら計算しても、小さな変化がさまざまな連鎖を起こしてまったく違う結果になり得る。これは予測不能な人間の一生と同じです。かといって、僕たち学者が諦めるわけにはいきません。何とかブレイクスルーできないかと、オールジャパン態勢で必死に研究を進めている最中です。と同時に、人知を超えたものへの畏敬の念と謙虚な気持ちを忘れてはならないと思っています。

世界の人と渡り合うために英語は必要

杉田 鎌田先生にはご専門の著作のほかに、英語、読書、勉強法に関する著書も多くあり、敬服します。しかもかなり具体的で効果的な学習法を紹介していらっしゃる。中見出しやキャッチフレーズの使い方もお上手です。英語に興味を持ったきっかけについても聞かせてください。

鎌田 中学時代に父が買ってきた、リンガフォンの英語教材を通じて、英語の音の響きに魅せられたのがきっかけです。高校時代は予備校の名物講師、伊藤和夫先生の影響を受けました。「英語を学ぶのは文化や価値観の違う人とわかり合うため」という教えです。

杉田 日本のノーベル賞受賞者で、「英語ができたらもっといろんな研究ができたかも、なんて思うことは一切ありません」と語った方もおられました。

鎌田 益川敏英先生ですね。大尊敬する物理学者です。益川先生ほどの方ならそうでしょうが、僕は逆立ちしてもノーベル賞は取れないので英語を勉強しました(笑)。これはあながち冗談ではなく、ノーベル賞を取れない日本人は全員、世界の人と渡り合うために英語を勉強したほうがいいと思います。

杉田 『理系的 英語習得術―インプットとアウトプットの全技法』(ちくま新書)という英語の学習法の本も書いておられます。

鎌田 世間の英語勉強法に物申す本です(笑)。ChatGPTを使いこなせば英語を学ぶ必要はないか? 否です。たとえば、 エレベーターにばかり乗っていたら脚力が落ちるのと同様、生成AIを使うほど英語力は「退化」する。自分で辞書を引いて英文読解や英作文をすることで、英語コミュニケーションの「自前の能力」がつくと信じるからです。

「教養としての英語」を備えると、人生の後半が格段に楽しくなる

杉田 英語が得意だという自覚を持ったのは、いつごろですか?

鎌田 本にも書いたのですが、読解やリスニングなどのインプット、作文やスピーキングなどのアウトプットには、それぞれ効果的な「技術」があると知りました。得意だと自覚したのは、筑駒の中高時代に実際に使いこなせるようになってからですね。研究者になってからは学会で「ツールとしての英語」が機能して、論文発表や議論の席で耳を傾けてもらえることに喜びがありました。最初は簡単な英語表現でも構わなくて、ネイティブに話が通じた達成感や成功体験があれば、次の学習意欲につながります。学生たちにもそう伝えています。さらに言うと、語学は価値観の違う人との相互理解という「フレームワークの橋渡し」。僕にとっては、専門知識を持たない人たちに地学をどう伝えるかの大事な基礎訓練にもなりました。

杉田 なるほど。

鎌田 もう1つ重視しているのが「教養としての英語」です。それを備えると、人生の後半が格段に楽しくなります。定年になって肩書きがなくなった途端に誰からも誘われなくなる人がいる。実は、 人生の後半ほど人間力が問われるのですね。科学者同士でも、仕事を超えて食事や余暇をともにする楽しいつきあいが続くかどうかは、この人間力次第です。イギリス人にとってチャーチルは神様みたいな存在ですが、彼の回顧録The Second World Warを読んでおけば、価値観の違いを超えて共通の話題で盛り上がります。人間力の一部として英語力があるんです。コミュニケーションの基本ですから。

杉田 とても共感します。このムックの最終的な目標は「雑談ができること」です。仕事でも、人が集まれば雑談や食事の機会が生まれます。そうした席こそ、人間力が測られるものです。ですから収載するビニェットは、教養のある会話を意識して作成しています。

ビジネス英語の本質は、雑談ができること

鎌田 今日は杉田先生に「ビジネス英語の本質」を伺うつもりだったんです。

杉田 まさに雑談ができることだと思います。「ビジネス英語」と題してはいますが、ビジネスを動かすのは人間で、それぞれ生活や人生がありますから、より広義にビジネスの世界をとらえています。先ほど生成AIの話が出ましたが、情報技術によって語学の価値は薄れるでしょう。ただ、文化や芸術、考え方や好みなど、英語を取り巻くあらゆる事象について知識を持ち、コミュニケーションする、ということの価値が薄れたりはしないでしょう。

鎌田 数字や成果を生み出すばかりがビジネスではなく、本当は極めて人間的なものであると。

杉田 おっしゃるとおりですね。ボストンで働いていた友人から聞いた話ですが、あるとき職場のフロアから人が消えたのだそうです。9.11のときのことで、「大都市の高層ビルにいる人は避難せよ」と指示が出ていたのです。でも、誰も声をかけてくれなかった。仕事で英語は使っていて職場の同僚とうまくいっていると思っていただけに、ショックだったと言っていました。

鎌田 なるほど、よくわかります。杉田先生もアメリカの会社で働いていた時期がおありですが、帰国された理由というのは?

杉田 日本という環境の中で英語を使って仕事をするほうが私にとっては価値がある、と思って帰ってきたんですね。

鎌田 そして同時に英語も教えていらっしゃる。

杉田 そもそも私は「教える」という意識はあまりないんですよ。好きに台本(ビニェット)を書いて、台本がお気に召したら英語学習に活用してください、ぐらいの感覚です。

鎌田 普通の英語の先生は英語を一生懸命教えようとしますが、杉田先生が教えているのは、英語で生きる、みたいな感じですね。人生の躍動感が詰まっています。

杉田 英語を学ぶだけじゃなくて、英語ができると世界が広がりますよ、いろんなことがわかってきますよ、ということでしょうかね。

(『杉田敏の 現代ビジネス英語 2025年 夏号』より一部抜粋。本誌では、富士山噴火の可能性、地球科学者から見たトランプ大統領、鎌田先生の「落ちこぼれ時代」などについても掲載しています。)

『杉田敏の 現代ビジネス英語 2025年 夏号』では、「Nostalgic Eating(ノスタルジアを誘う食事)」「The ‘Humanization’ of Pets(ペットの「人間化」)」など、ビジネスパーソン要注目のトピックをめぐる英会話をお届けしています。

◆撮影/海野惶世
◆取材・構成/髙橋和子

鎌田浩毅(かまた・ひろき)

1955年、東京都生まれ。筑波大学附属駒場高校卒業。東京大学理学部地学科卒業。通産省(現・経済産業省)を経て、1997年に京都大学大学院人間・環境学研究科教授に就任。理学博士(東京大学)。2021年より京都大学名誉教授、2023年より京都大学経営管理大学院客員教授。日本地質学会論文賞受賞。専門は火山学、地球科学。大学の講義では学生の関心を惹くためマグマを表す赤い服を着ていた。科学をわかりやすく解説する「科学の伝道師」。著書は『理系的 英語習得術』(ちくま新書)、『座右の古典』『新版 一生モノの勉強法』(共にちくま文庫)、『理科系の読書術』(中公新書)、『100年無敵の勉強法』(ちくまQブックス)、『理学博士の本棚』『揺れる大地を賢く生きる』(共に角川新書)、『火山噴火』『知っておきたい地球科学』(共に岩波新書)、『みんなの高校地学』(共著、講談社ブルーバックス)、『大人のための地学の教室』(ダイヤモンド社)など多数。

2021年3月の京都大学での最終講義はウェブサイトで視聴できる。
https://ocw.kyoto-u.ac.jp/course/971/

杉田敏(すぎた・さとし)

昭和女子大学客員教授。1944年東京・神田の生まれ。66年青山学院大学経済学部卒業後、「朝日イブニングニュース」記者を経て71年オハイオ州立大学に留学。「シンシナティ・ポスト」経済記者を経て、73年PR会社バーソン・マーステラのニューヨーク本社に入社。日本ゼネラル・エレクトリック取締役副社長(人事・広報担当)、バーソン・マーステラ(ジャパン)社長、電通バーソン・マーステラ取締役執行副社長、プラップジャパン代表取締役社長を歴任。NHKラジオ講座「やさしいビジネス英語」「実践ビジネス英語」などの講師を、2021年3月まで通算32年半務める。2020年度NHK放送文化賞受賞。著書に『アメリカ人の「ココロ」を理解するための 教養としての英語』(NHK出版)、『英語の新常識』『英語の極意』(集英社インターナショナル)ほか多数。

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. 【大阪・関西万博】超穴場! インドパビリオンの「ヨガ60分コース」が結果的に最高だった理由

    ロケットニュース24
  2. パラパラチャーハン目指しごはんを水洗いしたらこうなった【コンビニ商品だけでチャーハンを作ってみる第2回】ファミマ「やわらか穂先メンマ炒飯」

    ロケットニュース24
  3. 【悲報 】大阪のロッテリア限定『お好み焼きバーガー』があまりにお好み焼きすぎて「お好み焼き屋へ行けばいい説」が浮上してしまう

    ロケットニュース24
  4. 【2025年6月】マネるだけで垢抜けるよ。今どきコーラルピンクネイル

    4MEEE
  5. 【観てよかった】名探偵コナンの最新プラネタリウム作品「閃光の宇宙船」が想像以上の迫力で大人も満足できる内容だった

    ロケットニュース24
  6. 総合計画の目標人口「4万人以上」 中間見直し素案

    赤穂民報
  7. 14日に「福祉のつどい」 つつじ賞など表彰

    赤穂民報
  8. 連日満席「鉄板スパゲッティ」ナポリタン800円!「イレギュラーサイズもあります」

    SASARU
  9. 手元が確実に垢抜ける。不器用さん向け「水彩フラワーネイル」のやり方

    4MEEE
  10. 「顔の形が変わるほど殴られた」やなせたかし氏が軍の生活に順応できた理由とは

    草の実堂