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退職率100%。退職代行サービス「モームリ」の成長が止まらないワケ。

スタジオパーソル

「退職したいけど言い出せない」——。そんな悩みを抱える人々の間で、急速に注目を集めているのが「退職代行」サービスです。

その中でも高い人気を誇るのが、「退職代行モームリ」。創業からわずか2年半で、退職相談件数は2万件を突破し、退職成功率100%の実績で多くの人の駆け込み寺的な存在となっています。

今回は、代表の谷本慎二さんに、退職代行サービスの裏側や、日本で退職代行が流行った理由について教えてもらいました。

今注目を集める「退職代行」とは?ブームの背景にある日本の労働観

──「退職代行」とはどんなサービスなのでしょうか?

依頼者に代わって、退職の意思を会社へ伝えるサービスです。会社への連絡はもちろん、貸与物の返却方法の確認や私物の対応方法の伝達、退職後の必要書類の発行などのアフターサービスも行っています。

退職代行に依頼することで、依頼者は会社と一切やり取りをせずに退職することが可能です。

──退職代行モームリのホームページには、「100%退職ができる」と書かれていますが、本当なんですか?

本当です。退職代行モームリは労働環境改善組合と提携しており、組合員が団体交渉権を持って交渉を行うため、会社側は原則拒否することができないんです。

内容によっては依頼から1分程度で退職が確定する場合もあります。

──そうなんですね。実際にどのような方が退職代行を利用されているのですか?

年代は20代以下が全体の6割以上を占めており、男女の比率に偏りはありません。やはり、若い世代のほうが転職がしやすいため、退職代行を利用する割合も高いです。

業種や職種は本当に多岐にわたりますが、共通しているのは「もう限界」と感じていること。長時間労働や人間関係のストレス、キャリアの行き詰まりなど、理由はさまざまですが、自分の力だけでは状況を変えられないと感じている方が多いですね。

──今、退職代行が流行っている理由はなんだと思いますか?

「若者はすぐに会社を辞める」と言われてはいますが、昔に比べて日本の労働環境もかなり改善しているため、退職したい人が増えているというわけではないんです。

厚生労働省の「令和4年 雇用動向調査結果の概要」によると、日本の平均離職率は過去10年のデータを見ても大きな増減はなく、平均15%前後で推移しています。退職代行の認知度が上がって利用者が増えただけで、今も昔も常に退職したい人は存在しています。

ただ、おそらく退職代行が流行っているのは日本だけですね。

日本では会社への忠誠心や同僚との人間関係を重視するあまり、自分の意思を明確に伝えることを躊躇する傾向があります。その背景には、長年培われてきた「義理人情」や「空気を読む」という概念が根強く残っているのではないか、というのがぼくの考えです。

以前、海外のメディアに取材していただいた際、つらくても会社を辞めない日本人の姿を見て「クレイジー」だと言っていました。そもそも、退職代行の存在自体が海外では理解できないそうです。

実際に日本の平均転職回数が2〜3回なのに対し、アメリカの平均転職回数は12〜13回。海外では転職はキャリアアップの手段として捉えられていますが、日本ではまだ「逃げ」というネガティブな印象が強いため、辞めたくても辞められない人が多いのだと思います。

10年勤務した上場企業を脱サラして起業。きっかけは「過酷な労働環境」での経験

──谷本さんは起業される前、退職したいと思ったことはありましたか?

もちろんありました。東証一部上場企業のサービス業で10年間はたらいていたのですが、それがめちゃくちゃ大変だったんですよ。

新規店舗立ち上げの責任者を任されていたこともあり、電話は24時間体制で残業は当たり前、ひどいときは30時間ぶっ通しではたらいていたときもありました。

過酷な労働環境に耐えかねて周りがどんどん辞めていくのを見て、この仕事を定年まで続けるのは難しいと感じました。まさに、ぼく自身が「モームリ」になってしまったんですよね。

──そこから、なぜ起業したのですか?

会社を辞めてからしばらくはのんびりしようと、今後の生き方について考えていました。

そんなある日。一人でドライブをしていたとき、ふと頭の中に「退職代行モームリ」というサービス名が思い浮かんできて。

当時は退職代行サービスの存在を知っている程度でした。でも、ぼく自身もブラック労働に苦しんで退職しましたし、次にやることが決まっていたわけではなかったので、「とりあえず、やってみるか!」くらいの気持ちで起業することにしたんです(笑)。

──退職代行を「怪しい」と思う人も多い印象です。始めるのにハードルはありませんでしたか?

たしかに、ぼくがサービスを始めようとしたときの退職代行業界は、会社の情報が開示されていなかったり、依頼者数やサービス内容などが曖昧だったりと、うさんくさい業者が多かったですね。

だからこそ、それを逆手にとって徹底的にクリーンなサービスをつくれば、きちんと認知されるはずだと思ったんです。

そこで、モームリでは安心して利用できることにこだわり、情報が開示された株式会社を運営元にして、労働組合と提携、弁護士に監修に入ってもらうなど、工夫を重ねました。

──退職代行モームリといえば、赤裸々なSNSでの発信も話題ですよね。

退職代行モームリのSNS

「本日の退職代行実績」と題してリアルな退職者数を開示したり、退職代行が多い業種や実際にあったエピソードなどを発信しています。

大事にしているのは、「絶対に嘘をつかない」こと。退職代行の怪しいイメージを払拭するためにも、多くの人が食いつくセンセーショナルな情報ではなく、あるがままの実態をオープンにするようにしています。

企業から猛クレームも!?退職代行のリアルな舞台裏

──業務上、トラブルになることはありませんか?

依頼者と企業の主張が食い違うケースは少なくありませんね。たとえば、パワハラを訴える依頼者に対して、会社側が「指導の範囲内だ」と主張するような。

また、退職理由の中には本当に深刻なものもあります。「上司の機嫌を損ねると仕事中に平手打ちをされた」「生命保険をかけて自殺しろと言われた」など、セクハラやパワハラに該当する法的な問題に発展しかねないケースもあります。

我々も依頼者の代わりに退職の意思を伝えた際、「ふざけんじゃねぇよ」「あいつが仕事できねぇからだろ」といった攻撃的な言葉を投げかけられることもよくありますね。

──そういったトラブルにどう対応しているのですか?

あくまでも法律に基づいて冷静に判断し、退職に向けた手続きを進めます。我々は第三者として介入するため、依頼者と企業のどちらの側にもつかず、中立的な立場で対処することが求められているんです。

中には企業だけでなく、依頼者側に問題があるケースもあるので、依頼者の気持ちに寄り添ったサービスは提供しつつも、冷静な判断をするように従業員にも徹底してもらっています。

──従業員の皆さんの意識が重要なんですね。

そうなんです。だからこそ、当社では従業員一人ひとりを「退職のプロ」として育成することに力を入れてきました。

弁護士と一緒に作り上げてきたマニュアルやノウハウがあるので、それに基づいて業務を行ってもらっています。

また、この仕事には、労働法や会社法などの法律知識が不可欠です。日々勉強を重ね、顧問弁護士とも連携しながら、最新の法律情報を収集して、さまざまなトラブルに対処できるよう努力しています。

──とはいえ、攻撃的な言葉に従業員がダメージを受けることもあるのでは?

つらい場面はあると思います。ただ、周りの社員も同じことをしているので、共有して笑い話にできるよう、楽しい職場環境を作るよう意識していますね。退職代行を提供しているからこそ、自社も「退職されない会社」を目指しています。

最近ではメディアで当社を知って、大変な一面があることを前提に応募してくれる方も増えました。直近数カ月で250人以上の方が応募してくれたんですよ。この人材不足の時代に。

「自分自身が仕事で大変な思いをしたから、同じように苦しんでいる人を救いたい」という方も多く、心強いですね。

会社のエントランスには、こんなインターフォンも。

退職代行の最終目標は、「退職代行」をなくすこと

──最後に、退職代行の未来について教えてください。

我々は、そもそも辞めたいと思われないような企業を作ることが最も重要だと考えています。そこで、現在弊社が蓄積してきた「退職データ」を企業に向けて開示するサービスを提供するために準備しています。退職理由を始め、性別・年代、勤続年数、職種別の利用者数、新卒社員の利用状況など、2万名を超える利用者の生の声が反映されたものです。

このデータをもとに、企業や業種ごとの「退職される要因」を提供することで、労働者にとってより良い労働環境をつくるべく企業が変革していくと考えているんです。

──そうすると、退職代行の仕事がなくなってしまいませんか?

それでいいんです。我々の最終目標は「退職代行」をなくすことなんですよ。はたらく人々にとって、それが一番幸せなことじゃないですか。

最近では、当社でセルフ退職サポートサービスも展開しており、我々が直接加入しなくても、自分で退職できる力を身につけてもらうことを目指しています。

とはいえ、自社が退職代行だけで利益を出していると、退職代行をなくすという目標も達成できないので、コインランドリーや飲食店など、まったく異なる領域での新規事業も立ち上げているところです。売上の安定化を図りつつ、将来的には上場も視野に入れています。

誰もが自分らしくはたらける社会と、従業員が面白おかしくはたらける企業を実現するために、これからも努力を続けていきたいですね。

(文・写真:目次ほたる 編集:いしかわゆき)

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