中2まで受験がイメージできなかった自閉症息子。親の「勉強しなさい」より効果的だったのは?
監修:初川久美子
臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
自閉症中2息子、将来なりたいものはある?
ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)の息子リュウ太は小さい時から電車と車が大好きで、その話ばかりしているような子どもでした。
中学2年生の秋に「来年度は進路を決めることになるけど、何かやりたいことあるの?」と聞いてみると「将来は、鉄道関係か車業界の仕事がしたいかな~」と言いました。ちょうどオープンスクールの時期だったこともあり、見学を兼ねて行ってみることにしました。
向かったのは、自宅から電車で40分、都心にある私立の高校です。見学した当時、普通科と鉄道の運輸科、自動車の整備を学ぶ機械科の3つの科がありました。
その高校のオープンスクールでは、学生が作るお好み焼きや焼きそばやなどの屋台があって、老若男女さまざまな人が集い、楽しい雰囲気でした。
運輸科では鉄道サービスを学ぶカリキュラムについて、機械科では自動車の仕組みをじっくり学んでいくカリキュラムについてなど、生徒の方々が丁寧に説明してくれました。実際に授業で使っている機械や道具、教室も見ることができました。
「もうすぐ受験なんだから」「勉強しないと!」と言われてもピンと来ていなかった
オープンスクールがきっかけとなりリュウ太は進路を真剣に考えるようになったのですが、数年後にこの時どう思っていたのか本人に聞いてみました。
リュウ太は「オープンスクールスクールに行く前は『もうすぐ高校受験なんだから進路を決めないと』『将来やりたいことはなに?』『受験に向けて本腰入れて勉強しないと!』とか親に言われても全くピンときてなかった。『受験』そのものがイメージできなくて、その時期が来たら流されるままになんとかするんだろうな、くらいにしか考えていなくて。まず受験って何をするのか、どんなことが待っているのかも分からないのに親が勝手に騒ぎすぎ!受験なんて経験していないから本当にリアルに感じられなかった」と話してくれました。
そして「オープンスクールに行って学校見学をして『自分も進学したらこんな風になるのかな』とビジョンが見えたよ。興味がある学科とか学校を体感することで高校で何をやりたいか考えることができたかもしれない」と教えてくれました。
そうなんだ、体験していないことを親が先回りして受験だからとアレコレ勉強しろと伝えても子どもって何も分からなかったし、感じてなかったのか!とこのとき初めて分かりました。そして、言葉よりも経験が必要だったのねとも思いました。
中学2年生でオープンスクールで学校を見に行ったのは思いつきからの行動でしたが、もっと早くからほかにも学校見学をしていたら意識が変わって、何か違う道も開いたかもしれませんね。
リュウ太は、オープンスクールで見学した高校に進学したいと決めますが、成績や提出物などの問題で内申書的に難しく、担任の先生の判断でその学校を受験することを断念。代わりに自動車整備士を目指すための専修学校を目指すことにしました。
オープンスクールで行った高校に入学することは叶いませんでしたが、このことがきっかけとなりリュウ太は好きなことを職業にしたいと専修学校に進み、その後その分野で就職もしたので、結果として良かったのかもしれません。
オープンスクールでの学校見学は、リュウ太の人生のターニングポイントになっていたのかな?と思う母でした。
執筆/かなしろにゃんこ。
(監修:初川先生より)
リュウ太くんの進路選択における学校見学のエピソードをありがとうございます。大人になったリュウ太くんが言っていましたが、子ども本人にとって、「高校」「受験」「進路」「そのための勉強」など、あまりピンとこないものです。場合によっては、必要以上に恐ろしいものと受け止めてしまう場合もあります。
まずは、高校というものがイメージできない場合もありますので、まさに百聞は一見に如かず、実際に高校へ行ってみたことが良かったと思います。また、本人の興味関心のある学科・コースがあったり、入りたい部活があったりするところから行ってみたのもすばらしいですね。遠出が苦手なお子さんは近くの(頑張ったら入れそうな)高校から見に行くのでもいいと思います(興味もそんなにないのに遠くの学校に行ってしまうと、緊張と疲れで“高校”全てについていい印象から遠ざかってしまう可能性もあります)。
実際には、はじめに見学に行った高校には進学しなかったようですが、そういう場合もあると思います。「ここにする!」と決めきらずに、要素として見ていく(好きな学科がある、近い、入りたい部活がある、制服が素敵など)中で、次なる候補も複数見ておけると良さそうです。秋は文化祭や体育祭など、公開される行事も多い時期。ぜひ親子で見に行ってみてください。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。