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創業から変わらぬ「B2Bソフトウェア特化」の専門家集団 米Insight PartnersのMDに単独インタビュー

TECHBLITZ

米ニューヨーク拠点のInsight Partners(インサイト・パートナーズ、以下インサイト)は「B2Bソフトウエア」を専門に、約30年間投資を続けてきたVCだ。これまで800社以上への投資を手掛け、50社以上のIPOを実現させている。最大の強みは、潤沢な運用資産で実現する「多様な出口戦略構築」と、元経営者や元コンサルタントが実際に現場で行う「きめ細やかな支援」だ。インサイトのManaging Directorであるジョナサン・ローゼンバウム(Jonathan Rosenbaum)氏に単独インタビューを行い、業界特化型VCとしての強さの源を聞いた。

<font size=5>目次
創業から変わらぬソフトウエア特化の投資
支援の手厚さは「世界でもインサイトだけ」
創業者とVCは、最初から「正直」であるべき
B2Bソフトウエア投資もよりグローバルに

創業から変わらぬソフトウエア特化の投資

―インサイトは創業から30年が経ちますが、どのような投資哲学を持っているのでしょうか。

 私達の投資戦略を理解する上では、インサイトの成り立ちと独自性が重要になってきます。創業者のJeff Horingは1995年、B2Bソフトウエアのみに焦点を絞って投資する、という原則に基づいてインサイトを設立しました。

 創業当時、スタートアップに投資をしていたプライベートエクイティ(PE)やベンチャーキャピタル(VC)は、ほとんどが業界をまたぎ、多角的な投資を行う会社がメインだったのです。投資対象をソフトウエアに限定する企業はほとんどありませんでした。ソフトウエアに特化するインサイトの投資哲学は、現在まで脈々と受け継がれており、他のVCとは根本的に異なる点です。

Jonathan RosenbaumInsight PartnersManaging Directorペンシルベニア大学 Jerome Fisher M&T Programを卒業後、Johnson & Johnson、Boston Consulting Groupで勤務し、2014年にInsight Partnersに入社。主にソフトウエア企業に対する投資に従事し、投資契約成立後のポートフォリオ管理も担当する。現在は投資先企業のM&A実行や買収先の選定も手がける。これまでDocuSignやnCinoなどIPOした企業をはじめ、CloudCraze(Salesforceが買収)、Frontline Education(Thoma Bravoが買収)などにも投資した。現在は営業支援ツールの6Senseや、医療システム向けソフトのLeanTaasといったポートフォリオ企業の取締役も務める。

―業種を熟知しているからこそできる、ポートフォリオ企業への手厚い支援にも定評がありますね。

 はい、インサイトは「Insight Onsite」という140人以上の専門家集団を抱えています。彼らの仕事は、ポートフォリオ企業への支援ですが、ただ役員に名を連ねたり、経営のアドバイスをしたりするだけにとどまりません。実際に現場に赴き、各企業が直面する主要な課題解決を直接担っています。

 ほとんどのB2Bソフトウエア企業は、営業・マーケティング・人材・製品・テクノロジー・経営企画など、組織の各部門で類似した問題に直面しているものです。

 Insight Onsiteには、元経営者や元コンサルタントといった経営のプロから、ソフトウエア営業に精通した人間や数々のマーケティング成功実績を残した人間など、現場のプロフェッショナルまで所属しています。彼らが直接、現場のリーダーと共に仕事をすることで効率的な成長を実現させます。

「いくら同じB2Bソフトウエア企業といえど、現場で直面する課題はそれぞれ異なるのでは?」と思うかもしれません。これに関しては、インサイトは30年の実績を持つVCとして言えますが、スタートアップが現在ビジネスをしているステージにおいて直面する問題は非常に似ているのです。

 価格設定やアカウントベースのマーケティング、カスタマーサクセスや業務のワークフロー改善などは、現在の売上高や人員数などの企業規模によって、やるべきことは変わってきますが、解決策は非常に似通ったものです。スタートアップの側にしてみても、今悩んでいる問題に対して的確に外部からアドバイスをもらえることは、とても有益だと思います。

 また、インサイトは非常に規模の大きいVCであることも指摘しておきたいと思います。現在、12番目の主力ファンドを運用し、運用総額は約200億ドルです。大きな規模で投資できることから、投資スタイル・投資のステージも非常に多様で、IPOをゴールとした投資はもちろん、戦略的買収、プライベートエクイティ投資など、さまざまな出口戦略にも対応できます。当然、シリーズAからCまでの投資も行えますし、売上高1億ドルから5億ドルまで持っていくことも、100万ドルから1000万ドルまで支援することもお安いご用です。

支援の手厚さは「世界でもインサイトだけ」

―起業家の多様なニーズに応えているのですね。

 はい。後述するように、インサイトは起業家のニーズとVCのニーズを合致させることに、誰よりも心を砕いています。この理念を体現するためにも、起業家が必要なさまざまなサービスを打ち出しているのです。

 また、インサイトは「Sourcing Engine」というサービスを手掛けています。Sourcing Engineには、70人以上の専門家がおり、投資機会の発掘に重点的に取り組んでいます。他にも、彼らはポートフォリオ企業のM&Aも支援しています。Sourcing Engineに登録された興味深い企業とのM&Aが実現可能かどうかも、確認することができますし、実際にデューデリジェンスの支援や合併後の統合支援も実施しているのです。

 このように手厚い支援を行っているVCは、世界広しと言っても、インサイトだけではないでしょうか。スタートアップが直面するありとあらゆる課題を、専門家が解決できるのが当社の強みなのです。インサイトのお膝元であるニューヨークはもちろん、ベイエリア(サンフランシスコ)やロンドン、テルアビブにもオフィスがありますし、今後は日本を含め、グローバルに投資機会を広げていきます。

―インサイトが近年手掛けた投資の中で、最も成功したものはなんですか。

 Onsiteチームの仕事ぶりを分かってもらうために、大規模なプロジェクト管理ソフトウエアを手がける、テルアビブ発のmonday.comの例を挙げましょう。

 monday.comへの投資を決めたのは、彼らが徹底的に製品にこだわっていたからです。労働者がプロジェクトを管理しやすくし、チームでの働き方がよりラクになるプロダクトを手がける彼らは、SaaSアプリが増えていく中で、市場をリードする存在だと確信したのです。

 同社は2021年にIPOしていますが、インサイトはシリーズBに投資を行い、その後IPOまで複数回支援をしてきました。シリーズBからIPOまではOnsiteチームが取締役から現場まで、さまざまなサポートをした実績があります。

 実は、同社は我々が投資した当初は「dapulse」という社名でした。Onsiteチームは、ブランド力の向上を考え、monday.comという社名に変更したのです。他にも、チャネルパートナーシップの構築やIPOに向けた支援、人材採用、マーケティングなど、ありとあらゆる支援を行いました。

 ソフトウエア専任で投資を手掛けてきた実績からくる成長企業の確かな見極めと、現場へのきめ細やかな支援、これがインサイトの強みだと分かっていただけたのではないでしょうか。

TECHBLITZ編集部作成

創業者とVCは、最初から「正直」であるべき

―近年のB2Bソフトウエアの市場動向をどのように振り返っていますか。

 コロナ禍の2020〜22年にかけてB2Bソフトウエア市場は急成長し、23年には少し萎みましたが、24年においては回復傾向にあります。

 根本的に、大企業はどの会社も業務効率化を実現しようとしています。業務効率化には自動化が不可欠であり、それを実現できる唯一の方法は優れたソフトウエアの導入なのです。また、B2BソフトウエアにはAIが次々と搭載されてきています。今後は、B2Bソフトウエア企業にとって、AIを導入することで、どのように付加価値をつけていくかが勝負の分かれ目となるでしょう。

―Rosenbaumさんがこれまでのキャリアで学んだ最も重要な教訓は?

 投資先の創業者と、VCの目標を完全に一致させることです。ここがずれてしまうと、事業の意思決定もブレてしまい、よいパートナシップを構築することなどできません。確かに、創業者たちが、もし本音では「事業を早期に売却したい」と考えていたとしたら、VCにとってはビジネス・チャンスを逃すことにもなりますから、残念だと言えるでしょう。

 ただ、考えるべきは、事業をドライブするのは最終的には創業者なのです。彼らの本音と私たちの本音が合わない場合、関係を結ぶべきではありません。どちらかが正直でないと、後々大きな痛みを伴う決断をする必要が出てきます。

 ですから、私は創業者と、かなり早い段階で正直な話し合いをするように心がけています。特に、「成功までの時間軸」と「成功の定義」については、徹底的に議論すべきでしょう。

 創業者の多くは、自分が思う通りのプロダクト・サービスをつくるためには、非効率な成長も致し方なし、と考えている節があります。我々の方でもレバレッジをかけるべく、コストの最適化や合理的な成長戦略など、彼らにとって時に耳の痛いことも、早期に話し合わなければいけません。逆に、お互いの目的が合致した場合、これ以上ない「ウィンウィン」な関係性を築けるとも言えます。

―起業家とVCの目的が合致することは、非常に珍しいことなのではないでしょうか。

 ただ、お互いが「探り合い」のような状況になってしまうと、最終的に「こんなはずじゃなかった」と双方思ってしまうリスクがあるのです。VCコミュニティを総意してお話はできませんが、少なくとも私は必ず正直なコミュニケーションを心がけるようにしています。

 創業者は「資金調達のために、VCを納得させる綺麗なストーリーを描かなければ」というプレッシャーを感じていることが非常に多い。さらに、VC側も資金に関する難しい話も、最初はオブラートに包んでしまいがちです。

 まず、VC側が投資先に投資する目的や目標を明確に伝える。そうすると創業者も胸襟を開いてくれます。

B2Bソフトウエア投資もよりグローバルに

―VC業界では、今後どのような変化が訪れると考えていますか。

 今日すでにその兆候が見られますが、将来は世界のどこでも企業を設立できるようになるでしょう。世界のマイナーな場所で国際的なスタートアップが生まれる機会も増えてくると思います。

 VCにとっては、日本を含め、アメリカ以外の場所に出向いていかなければいけないと思います。

 ただ、起業エコシステムがよりグローバルなものになっても、VCの勝利の方程式は変わりません。インサイトのように、スタートアップが規模を拡大していく段階において、着実に支援できるVCが長期的には求められると思いますし、無節操な投資は身を滅ぼすだけです。

 日本市場は、アメリカ市場と比較するとベンチャー・コミュニティの発展が遅れましたが、今はそれを築いていく段階にあります。実際、海外の顧客を想定した日本のスタートアップも増えている印象があります。

 インサイトは、時代が変わり、国境を跨いで投資することが増えたとしても、これまでと同様にきめ細やかな支援をしていきます。

従業員数なし

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