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私が顔出しでTENGA広報をする理由。新聞社から転職も「両親は絶句」

スタジオパーソル

ビビッドな赤色にシルバーのストライプが入ったデザイン、そして丸みを帯びた特徴的な形状。プレジャーアイテム®「TENGA」「iroha」をはじめとするセクシャルウェルネス商品の開発・製造・販売を手掛けるのが株式会社TENGAです。グループ全アイテムの累計出荷数は1億4,800万個を突破し、国内外から支持を集めています(2024年3月時点)。

今回お話を伺ったのは、同社の広報担当者として活動されている、本井はるさん。「“性”に対する既存の固定観念をポジティブなはたらきかけで覆していきたい」と志を語る本井さんは、早稲田大学院を卒業後、元新聞記者というキャリアを経てTENGAに入社されました。一見すると畑違いの業界にも思われますが、一体どのような想いでアダルトグッズメーカーへの入社を決意したのでしょうか?

※「プレジャーアイテム」は株式会社TENGAの登録商標です。

女子大・新聞社時代に直面した、“性”に対する多くの違和感

──現在のキャリアに至るまでに、どのような人生を歩まれてきたのでしょうか?

高校時代まで静岡県で生まれ育ち、お茶の水女子大学への進学を機に上京しました。大学卒業後は早稲田大学大学院でジャーナリズムを学び、院卒でブロック紙の新聞記者に。「世間に届きづらい、当事者の声を拾い上げる」という信念のもと、医療や教育、ジェンダーに関する記事を多く執筆していました。

新聞記者時代は、職場までバイク通勤

そのあとTENGAに入社したのですが、今思えば、大学時代から前職時代にかけて、女性の“性”やジェンダーに対し違和感を覚える瞬間に幾度も出会ってきていたなと。

──女性の“性”やジェンダーに対する違和感とは?

たとえば、大学の学園祭の準備で重いものを女学生が運ぶ姿を見て、「力仕事は男性が当たり前に担うもの」だと思い込んでいた自分にハッとしました。それまでの私はずっと男女共学で育ってきていて、「男性とはこうあるべき」「女性とはこうあるべき」と、知らず知らずのうちにジェンダーバイアスをかけてしまっていたんですね。

さらに衝撃が走ったのは、前職時代に長きに渡って男性記者が担当していたとある地方のお祭りの取材を、私が初めて担当した時のこと。お祭りで演舞を披露する方を訪ねると、「女性は“ケガレ”なので接触できません」と対面取材を断られてしまって……。

──なんと……。それは地域に伝わる伝統のようなものだったのでしょうか。

そうなんです。その土地ではお祭り期間の2週前くらいから、身を清めるためにあらゆる女性との接触を断つ風習があるようで。ご自身のお母さんですら、物の受け渡しを避けるそうです。

ただ、伝統だと分かっていても、“ケガレ”と言われたことには正直納得できませんでした。その伝統の由来や、なぜ現在も続いているのかなどを周りの方の話を聞きながらなんとか記事にしたものの、やはり地元の方には伝統を否定されたと受け取られたようで、批判の声が返ってきました。

この時、今まで女性として感じてきた違和感への対処法、世の中の認識を変えることに対して、自分が心から望むのはこのようなはたらきかけではないと感じたんです。つまり、否定的な目線で課題の原因を明らかにするより、もっとポジティブなアプローチを通して社会が変わっていくきっかけづくりをしたいと。

「性を表通りに」のビジョンに共感し、入社を決意。家族は沈黙……

──それから、どんなきっかけでTENGA社を志すようになったのでしょうか?

TENGAを知ったのは、大学時代の友人からの紹介でした。私が感じている“性”やジェンダーに関する違和感について打ち明けたところ、「きっとTENGAがぴったりだと思う」とすすめられたんです。どんな会社なのか調べてみると、日本有数のアダルトグッズメーカーだと知り、正直最初は驚きました。

でも、ふと過去の性体験で抱いた違和感を思い出して。大学院時代にお付き合いしていた男性との会話の中で、スキンシップの際に「どこが気持ちいいの?」と聞かれたのですが、「確かに、どこがいいんだろう?」と考え込んでしまったんです。自分の身体のことなのに何一つ理解できていないし、知ろうとすることが恥ずかしいとすら感じる。そんなのおかしい、と。

個人の経験も相まって、会社について深く調べていくうちに、TENGAの掲げる「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」というビジョンは、まさに私の違和感に対する答えだと、強く共感しました。

──TENGAでなら前職時代に抱いた、「ポジティブな気持ちで社会が変わるきっかけづくり」ができそうだと感じられた?

まさに。TENGAは世間的に「男性向けアダルトグッズメーカー」というイメージが強いかもしれませんが、女性やカップル、LGBTQ当事者、障害を持った方など、老若男女問わずすべての人が“性”を楽しみ、生きるよろこびを感じられる世の中の創造を目指しているんです。

「女性は慎みを持つべき」「“性”に関心を持つのはいやらしい」そんな固定観念をポジティブに変革したいなら、TENGAしかない。そんな想いで、マスコミ業界から異業種の転職を決意し、晴れて2019年1月に入社しました。

──アダルトグッズメーカーに入社することに対して、ご家族や周囲からはどんな反応がありましたか?

友人からは概ね良い反応をもらえたので、両親に対しても同じように軽いノリで伝えてみました。前々から転職活動をしていたことは話していたので、「そういえば転職先決まったよ」と。アダルトグッズの会社だと伝えた瞬間、食卓がシーンとお通夜のような雰囲気に包まれましたね(笑)。

──ご両親の衝撃が伝わってきます。その後、どのように理解を得ましたか?

自分がTENGAで何をしたいのか、どこに惹かれたのかをていねいに伝え続けていきました。TENGAはアダルトグッズだけでなく、ヘルスケアや性教育にも力を入れています。“性”にまつわるあらゆる悩みを抱えた方々が楽しく人生を送るサポートをする「TENGAヘルスケア」など、TENGAの事業が社会にどんなインパクトをもたらすのか、力説したんです。

入社してからも、テレビ番組やメディアで当社を取り上げてもらった際にはリンクを送ったり、社員インタビューの記事を読んでもらったりしました。「娘が性産業に……」と、最初はショックが大きかったようですが、今では両親ともに応援してくれています。

実名・顔出しでの広報活動は、“性”に対するハードルを下げるため

──現在本井さんは、どのような業務に従事されているのですか?

主に女性向けのプレジャーアイテム®やデリケートゾーンのケアアイテムなどを展開するブランド「iroha」や「iroha INTIMATE CARE(インティメイト ケア)」、“性”の健康をサポートする「TENGAヘルスケア」の広報担当として活動しています。また広報活動以外にも、“性”の興味から悩みの解決まで幅広く取り扱うオウンドメディア「おとなセイシル」の立ち上げを行い、現在は副編集長としてメディア運営に携わっています。

──本井さんは顔出しで広報活動をされていますよね。それには理由があるのでしょうか?

お客様が安心感を持って商品を手にしていただけるように、広報担当者は顔出しで活動しています。世の中の認識が変わりつつあるとはいえ、特に女性が“性”の話をするのはまだまだタブー視されることも多く、プレジャーアイテム®を手に取る心理的ハードルも高いのが現状です。だから情報発信者の顔を出して、「irohaを世に出している人はこんな女性たちなのか」と認識してもらうことで、お客さまに安心感を抱いていただきたいと考えています。

商品プロモーションの際にも、お客さまがどのようなはたらきかけを求めていらっしゃるかをしっかりとイメージして企画立てしています。初めてセルフプレジャーを試そうとしている方がいたら、安心して性的な欲求に向き合えるように同じような初体験の事例を発信してみたり、お悩みを抱えている方がいたら、その方自身が自分を肯定できるようなやさしいコンテンツをつくり上げたり。

ほかには、 TENGAはお客さまが “性”に関することで安心して頼れる存在でありたいため、医療機関や教育機関との連携を強固にし、信頼性の高い情報を常に発信するように心がけています。

新たな価値観をつくる会社。好奇心旺盛な仲間と、新たな社会を築いていく

──本井さんをはじめ、TENGAではたらく社員に共通することは?

幅広いバックグラウンドの社員が集まっていますが、既存の価値観に囚われない、柔軟な考え方ができる人が多いと感じます。それに、やはり一般の方と比べて“性”に対して好奇心旺盛なタイプが多いかもしれません。

TENGAヘルスケアでは、社員で有志を募って“性”にまつわるさまざまなテーマで対談し、コンテンツとして発信することもあります。単なる性的な話ではなく、自分個人の経験を発信することで世の中の“性”のお悩みに寄り添えるよう、真摯にディスカッションを重ねています。

昨年には、noteで『セックスガイド』を作成しました。医療関係者やセクシー男優の方など、セックスに精通するプロフェッショナルに監修いただき、安心して参考にできるセックスの指南書として、多数の反響を得ています。作成にあたっては「ピストンってどのくらいのテンポがベストなの?」という疑問をテーマに、アダルトビデオを会議室で流してピストンリズムのテンポを大真面目に測ってみたり(笑)。

自社の事業やプロダクトに強い誇りとこだわりを持っているからこそ、TENGAでは試作品も社員自らがモニターとなり、詳細なアンケートに答えながら使用感を評価しています。

──社内で試作品を試したり、自分自身の“性”について語ったりすることに、抵抗感を抱くメンバーもいるのではないでしょうか?

もちろん個人差はあると思いますが、それ以上にみんな良いものをつくりたいという気持ちが勝るのだと思います。TENGAでは、セルフプレジャーは洗顔やスキンケアと同じくらい、女性のセルフケアとして大切で当たり前にあるべきものと考えているんです。

まだ世の中で“性”に対して抵抗感や恥ずかしさを抱く人が多いのは、“性”に対する知識があまりに少なすぎるからだと思うんです。少し前までだって、ピルを服用する女性へのあらぬ偏見がはびこっていましたが、今では女性の健康維持のために必要なものであるとの理解が広まりました。

“性”を楽しむのは、決して恥ずかしいことじゃない。“性”に関する正しい知識を持ち、自分の身体を知ることで、きっと人生がより豊かになる。プロダクトのデザイン1つを通しても、お客さまにそうした私たちのメッセージを受け取っていただけたらと願っています。

有名女性タレントとの共同開発商品も発売

──今後どのような目標を達成していきたいですか?

個人的に力を入れていきたいのは、性教育の分野です。先日とある教育機関で、当社社員が講演会を行った際、先生方から性指導への向き合い方や伝え方について、相談をいただきました。カリキュラムとしての要項はあっても、実際に教育現場で施されている教育が適切なのかどうか、不安視される先生方も少なくありません。子どもたちの健やかな成長を、性教育の側面から支えていきたいと考えています。

——最後に、これまでの経験を経て、自分らしくはたらくために本井さんが大切だと思うことを教えてください。

叶えたい想いや実現したい理想があるなら、たとえ世間の当たり前とされる風潮や先入観、偏見があっても、自分の気持ちを信じて決断を下すことが大事だと感じています。

自分が抱いた違和感に正直でいられるTENGAで、私はこれからも既存の固定観念をポジティブなはたらきかけで覆していく瞬間を、どんどん仕掛けていきたいです。コロナ禍によりステイホーム期間や、ご自愛カルチャーが追い風になり、少しずつセルフプレジャーの重要性が認知されるようになりましたが、まだまだ“性”に関しての心のハードルは高いまま。

「TENGAがつくっているのはアダルトグッズじゃない、まったく新しい価値観だ」と、社長がよく話しています。当社の理念や活動がもっと世の中に浸透して、いつかTENGAの商品が地上波のテレビCMで普通に流れるようになったら最高です!

(文・写真:神田佳恵 編集:おのまり 写真提供:本井はる)

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