ストレス性の腹痛、もしかして過敏性腸症候群?発達障害との関連はある?【医師監修】
監修:藤井明子
小児科専門医 /小児神経専門医/てんかん専門医/どんぐり発達クリニック院長
子どもの腹痛のさまざまな原因。ストレスが原因の場合もある?
子どもが「お腹が痛い」と訴えてきたときに、詳しい症状や原因が分からず困ったという方も多いと思います。
子どもの腹痛にはさまざまな原因があり、それぞれに対処法も異なってきます。原因として多いものは便秘、食べ物による食あたりや消化不良、胃腸炎、風邪、急性虫垂炎、ストレスなどがあります。
今回はその中でもストレスや緊張、不安感がきっかけとなる過敏性腸症候群について解説していきます。
「子どものお腹の悩み」アンケート 結果は?
発達ナビでは「子どものお腹の悩み」のアンケートを実施しました。「子どもがストレスや緊張などの理由からお腹を下したことがある」を選んだ方が54%と、半数以上の方が子どものストレス性の腹痛を経験している結果となりました。
寄せられたコメントも紹介します。
当事者です。
私はもちろん緊張でお腹下すこともありました。
(校外学習前後は特に酷かった。見学場所によっては現地でお手洗い借りて5分ほど籠るなんてザラ。5年になってピタッと止んだ)(Zeroさん)https://h-navi.jp/selective_surveys/249
心因性の腹痛の症状、対処方法は?もしかして過敏性腸症候群?
何らかの原因でストレスが強くなると、ホルモンや自律神経、免疫などに影響が生じ、そのことで身体にもさまざまな症状が表れてきます。その中でも腹痛に関連する疾患として、過敏性腸症候群があります。
過敏性腸症候群とは腹痛とともに下痢や便秘、ガスがたまるなどの症状が表れる消化器官の疾患のことです。英語では「Irritable bowel syndrome」と記載し、略して「IBS」と呼ばれることもあります。過敏性腸症候群は身体的な要因と精神的な要因が関係して、消化管が刺激に対して敏感になっている状態と考えられていますが、原因はまだはっきりとは分かっていません。
過敏性腸症候群の有病率は中学生で2~5%、高校生で5~9%と言われており、児童・思春期の代表的な消化管疾患として知られています。
下痢などの身体症状により行動に制限が生じるとともに、頻繁にトイレに行くことに引け目を感じるなどの精神的な負担も生じ、学生の場合は不登校につながる可能性もあります。また、ストレスや緊張などで症状が悪化することもあり、そのためにさらに外出がしづらくなる場合もあります。
厚生労働省のWebサイトでは以下のように記載されています。
過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome:IBS)は、大腸の正常な機能を妨げる慢性疾患です。症状としては、腹痛、腹部疝痛(痙攣)、腹部膨満感、便秘、下痢などがあります。IBS患者の多くは、症状を軽減するために補完療法に頼ることがあり、そして、これらのアプローチの中には、いくらか有用である可能性を示す新たなエビデンス(科学的根拠)も出てきています。
引用:過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome:IBS)と補完療法について知っておくべき7つのこと|厚生労働省 eJIM
https://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/communication/c03/11.html
また、過敏性腸症候群は次のように診断基準が定められています。
過敏性腸症候群の診断は、ローマ基準に従って、過去3カ月間に少なくとも週1回の頻度で腹痛がみられ、かつ以下の基準の2つ以上に該当する場合に下されます。
・排便に関連した痛みがある。
・痛みが排便回数の変化(便秘または下痢)に連動している。
・痛みが便の硬さの変化に連動している。引用:過敏性腸症候群(IBS)|MSDマニュアル家庭版
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/03-%E6%B6%88%E5%8C%96%E5%99%A8%E7%B3%BB%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E9%81%8E%E6%95%8F%E6%80%A7%E8%85%B8%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4%EF%BC%88ibs%EF%BC%89/%E9%81%8E%E6%95%8F%E6%80%A7%E8%85%B8%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4%EF%BC%88ibs%EF%BC%89#%E7%97%87%E7%8A%B6_v756682_ja
過敏性腸症候群に似た症状の疾患は複数あるため、子どもが上記の基準に当てはまっても、自己判断せずに消化器内科や小児科などで医師の診察を受けることが大切です。
過敏性腸症候群の治療では薬物療法のほかに、食生活の改善、精神療法などが行われます。
薬物療法では腹痛緩和のために抗コリン薬が用いられることが多く、ほかにも下痢や便秘など過敏性腸症候群の症状に応じて適した薬が処方されます。また、痛みや精神的な症状の緩和のために抗うつ薬が用いられ、薬物療法の効果が低い場合には認知行動療法、催眠療法などを行う場合もあります。
食生活の改善も症状やその人の体質に応じて適した対応を行います。一回の食事の量を減らして食べる回数を増やし、ゆっくりと食事をするようにすると改善する人が多い傾向にあります。
また、負担となる食べ物を減らす方法もあります。乳糖不耐性の人は乳製品を避けたり、ガスがたまりやすい人は豆やキャベツなど消化しにくいものを避けたりするなど、症状や体質を考慮して食生活を改善を行います。
発達障害と心因性の腹痛・過敏性腸症候群は関係あるの?自家中毒についても
ASD(自閉スペクトラム症)の子どもは過敏性腸症候群などの消化器症状を併発することが多いと言われています。必ず併発するわけではありませんが、「もともとの身体過敏性」「不適応からくる身体化症状」「こだわりによる身体症状への固着」などの特性から身体症状が長引く可能性が高いことも原因だと考えられています。
また、ストレスから腹痛が生じる疾患として自家中毒も考えられます。自家中毒とは現在では周期性嘔吐症などと呼ばれていて、1歳半から8歳くらいまでの子どもに、嘔吐や腹痛、頭痛などの症状が表れる疾患のことです。行事や習い事の発表会などでの不安や緊張によるストレスがきっかけで発症することもあると言われています。
過過敏性腸症候群・自家中毒のどちらもストレスがきっかけとなり発症することがある疾患で、日常生活や集団活動に影響が出るため、医療機関を受診するとともに子どもの特性や困り事に合わせた発達支援や環境調整などの対策をしていくことが重要です。
発達障害のある子どもの過敏性腸症候群はストレスを軽減するために環境調整や発達支援などを行いましょう
子どもの慢性的な腹痛として過敏性腸症候群があります。不安や緊張などストレスを感じると症状が悪化することもあり、不登校など学校生活に影響が出ることも考えられます。
過敏性腸症候群の治療法として薬物療法や食生活の改善とともに、カウンセリングなどの精神療法が用いられることがあります。
発達障害のある子どもはストレスを感じやすい場合が多く、そのことが過敏性腸症候群につながる可能性もあります。ストレスによる心身の不調は過敏性腸症候群以外にもあるため、医療機関の治療とともに、ストレスを軽減するために発達支援や環境調整などを行っていくと良いでしょう。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。