大型壁画、堆肥絵の具で 食品廃棄物リサイクル 伊賀・島ヶ原の工場
株式会社エム・シー・エス(上田龍雄代表取締役)の島ヶ原支店(三重県伊賀市島ヶ原)工場内に今年7月にお目見えした、縦2メートル、横10メートルもある大型壁画。コンクリートの上に塗られた絵の具は、同工場で食品廃棄物をリサイクルして製造した堆肥(たいひ)だ。制作者は同工場の従業員8人と、地元を拠点に活動する画家の岩名泰岳さん(38)。このユニークな壁画はどのように生まれたか? 制作者たちの熱い思いを取材した。
「芸術の世界でも今、環境問題が大きなテーマになっているが、多くの関係者はその現場の実態を見たことがない。食品のリサイクル事業を展開している身近な工場の現場に、私自身も身を置きたかった」。こうした動機から、岩名さんは昨年10月、同工場のアルバイト募集に応募した。
ある日、工場内の壁に付いた堆肥を指先でなぞりながら“落書き”した。それが工場内でも話題になり、感化された従業員たちも休憩時間に自由に書き始めたという。
岩名さんは「堆肥を使って世間にアピールできるアート作品ができれば面白い」と思い付き、会社に提案した結果、今年3月に「堆肥壁画プロジェクト」が発足した。
同社取締役で工場責任者の林貴寛さん(50)は「堆肥で絵を描くとは思いもつかなかったし、当初は半信半疑だった」と笑う。岩名さんは早速、水に溶けやすく、かつ付着しやすくする実験を重ねた。従業員たちは、堆肥の絵の具が塗りやすくなるよう、コンクリートの表面を加工した。
絵のモチーフは、従業員が日々の仕事の中で環境問題や堆肥化事業に対し思っていることをそれぞれの感性で考えた。結果、ビニール袋を破って野菜のくずが飛び出した絵柄など、個性的な絵が壁一面に描き上がった。最後は岩名さんが監修し、堆肥化に欠かせない土壌微生物と星々を連想させるダイナミックな壁画に仕上げた。
資源循環を表現
堆肥絵の具は、雨風や紫外線で風化し剥がれるため、壁画の下部に花壇を設置。「花壇に落ちた堆肥が養分となって植物を育てる、まさに食品資源の分解と生育という循環を表現するものになった」と説明する林さん。
2006年に操業を開始した島ヶ原工場は、スーパーや食品工場などから排出される食品残渣(ざんさ)を集荷し、工場内で微生物による発酵と分解を促進させて堆肥化し、有機肥料として農産物生産者へ販売している。同工場へ空袋を持参し自ら詰めれば、何袋でも無料で提供している。
林さんは「生ごみなどは焼却処理されているケースが多く、温室効果ガス排出につながっている。当社の計算では、リサイクルして堆肥化することでCO2排出量を約75%抑制できる」と話す。
環境教育に力を
更に「資源リサイクルの仕事は、地域のインフラとして必要不可欠なもの。当社はこの仕事に誇りを持って取り組んでいる。今後、地域の小中学校への出前授業など、環境教育にも力を入れていきたい」と強調した。
壁画は、平日午前9時から正午、午後2時から同5時の間で自由に見学できる。また、同社のインスタグラム(@mcs.organic.compost)にも公開している。
問い合わせは同工場(0595・59・9200)まで。