わずか半年ほどで去年の感染者数を上回ってしまった・・・「劇症型溶連菌感染症」とは?
ゲストは、医療ジャーナリストで医師の森田豊さんです!
「劇症型溶連菌感染症について」
最近は’人食いバクテリア’とも呼ばれていますよね。
国立感染症研究所が6月16日に発表したんですが、今年の感染者数が1060人(2023年の感染者数は941人)実はこの数、統計のある1999年以降で過去最多なんです。わずか半年で、去年の過去最多を超えてしまったということになります。
また、この感染症は症状が急激に悪化して、致死率が30%にものぼるともいわれています。今回はこの劇症型溶連菌感染症の予防法や、どんな症状が危険なのか、どのように病院にかかるべきか、などを知っていただければと思います。
溶連菌がなぜ重症化するかは、まだわかっていない!
そもそも「溶連菌」という感染症、子供がかかることが多い感染症として知っている方も多いかと思います。一般的には、小学生・中学生くらいまでの子供が感染することが多いとされています。この溶連菌に大人が感染し、劇症化することを「劇症型溶連菌感染症」と呼んでいます。
劇症化するのは、30歳以上の大人がほとんど。従来は60代~70代の高齢者が多かったんですが、去年の報告だと50代や、それよりも若い方にもみられています。10歳以下の子供がかかったという例も報告されていますので、全ての年代でかかる可能性があると思っておいた方がいいかと思います。
溶連菌の細菌が、筋肉、血液、肺など、通常は細菌が存在しえない体の場所に侵入すると、急激に症状が進行する重篤な状態になるんです。国立感染研究所や、アメリカの疾病対策予防センターの資料を見ると、「溶連菌がなぜ劇症化するのか」というのはまだ正確にわかっていない、とされているのが現状です。
今年増えてきているのは‘新型コロナ’があったから!?
今年の流行について、理由はいくつかありますが、第一に新型コロナが関係しています。新型コロナが比較的落ち着き、第5類に移行されたことによって、‘感染症対策を徹底する人が減ってきている’からです。そしてもう一つは、溶連菌の細菌に変異株が生まれたこと。この変異株は「M1UK」というもので、海外から日本に入ってきました。毒素の量が従来の細菌の9倍も多く、感染力も強いとされています。
今年は既に溶連菌の40%がこの変異株に置き換わっているとされています。そして、劇症化しやすいのも、この変異株だといわれています。
感染経路のおよそ半数が、実は‘不明’とされています。しかし感染経路がわかるものは、傷口などにあった溶連菌が、他の人に接触感染によってうつってしまうものが多いです。特に水虫、あかぎれ、靴ずれ、床ずれ、深爪、ささいな傷がある人は、感染者が持っている細菌を、体の中に入れやすい状態なので、注意が必要です。また東京都では、4月に「医療従事者向けのマニュアル」を改訂したんですが、飛沫感染も感染経路に追加されているので、マスクの着用も有効と考えられています。
<気をつけること>
▼プールや入浴施設などの共有部分。触れること自体は過度に恐れなくてもいいですが、シャワーで流してから利用したり、傷があるときは利用を避けた方がいいでしょう。
▼以前、医療機関で溶連菌感染だと診断されて治っていても、劇症型溶連菌感染症に対する免疫があるかどうかは別問題です。
▼現在流行しているものは、先ほど紹介した海外からの変異株になるので、別物と考えていただいた方がいいかもしれません。
<予防法>
傷口がある人は、きちんと洗浄し、消毒し、治療してください。そして、傷口を素手で触らないようにしましょう。また、傷口がない人でもこまめに手や指を洗ったり、消毒をしましょう。水虫、あかぎれ、靴ずれ、床ずれは、できるだけ早く治療してください。深爪や、ささいな傷を作らないように気をつけたり、皮膚の保湿をこまめに行うことも予防につながります。予防ももちろん大切ですが、早期発見・早期治療が特に重要だと私は思います。
進行する症状を感じたら、一刻も早く病院に!
<そもそも症状は?>
まず初期症状は、発熱、悪寒、喉の痛みなどです。吐き気や下痢などを伴うこともあります。ここまでは一般的な風邪でよくある症状ですよね。その後、手足の激しい痛み、腫れなどの兆候が見られます。そして最も特徴的なのは、発病から病気の症状の進行が非常に急激であること。発病後、数十時間以内には筋肉の周りの細胞や組織の壊死を起こしたり、場合によっては、血圧低下やショック状態に陥り、死に至ることも少なくないです。48時間以内に死亡する例もあり、発病した時の致死率は、およそ30%とされています。
一番気をつけていただきたいことは、「進行する症状が出ている場合」です。その場合は、複数の診療科のある病院や、集中治療室のある病院をすぐに受診してください。
内科よりは、皮膚科、外科、救急などの受診が推奨されています。仮に診療所に受診しても、この病気が疑われたら大きな病院に移動することが多いと思います。先ほどもお話ししましたが、発熱などの症状と、手足の激しい痛み、腫れなどの症状が数時間ごとに悪化しつつある場合は、救急隊の要請も検討しましょう。この症状に加えて、意識が朦朧としたり、受け答えがおかしいと感じたら、即座に救急隊を要請しましょう。病院に行く前にできることもあります。時間単位での腫れの広がりを客観的に見るために、痛い部分の周りをペンで囲むとわかりやすいとされています。急速に腫れが広がっていくことがよくわかるので、ペンで囲んで「患部に丸をつけて、○○時間経過しました」と医師に告げることは、とても具体的で医師にも伝わりやすいです。
<治療は?>
集中管理のもと、抗菌剤による治療や、壊死を起こしている部分を切除し、感染の拡大を防ぎます。壊死を起こした範囲が広い場合は、手足の一部を切断しなければならないことも多いです。とにかく、重症化のリスクを下げるためにも、早期の治療開始が重要です。
異変を感じたらすぐに医療機関を受診してください!