長野県小諸に広がるヴィンヤード。実りの丘に造り手集う“千曲川ワインバレー”
川沿いにワイナリーやヴィンヤード(ワイン用のブドウ畑)が点在し、近年話題の“千曲川(ちくまがわ)ワインバレー”。その主要地の一つ、計十数軒が集まる小諸(こもろ)で里山のテロワールを感じる旅へ。里山だけでなく町なかにも楽しい変化が!
朝霧包む丘から聴こえるブドウ賛歌
高台のウッドデッキから南西の斜面を見渡す。ブドウの木が整然と並ぶ畑の奥に北アルプスが見えた。
「快晴時は富士山も見えます」とは、10年前に千曲川右岸の糠地(ぬかじ)地区でブドウ作りを始めた『テールドシエル』の池田岳雄さん。第二の人生を考え、還暦から全財産をつぎ込み、放置された桑畑を開墾した。
「風通しがよくて日照時間も長いから、ブドウが病気になりにくい。朝霧が出てブドウを冷やしてくれるので、いい酸も残る。ブドウ作りには最高の場所ですよ」
2015年、隣の東御(とうみ)市でワイナリーを営む画家の玉村豊男さんが千曲川ワインアカデミーを開校した。池田さんはそこの卒業生だ。
同年に小諸など8市町村がワイン特区の認定を受け、酒税法で定められた最低製造量が6000ℓから2000ℓに緩和。小さな醸造所から始めやすくなった。
「2020年に僕らも醸造場を開設しました」と、池田さんの次女の夫で醸造長の桒原(くわばら)一斗さん。桒原さんは“ブドウの気持ちになって考える”ことを大切にする。
「雨対策で袋やビニールをかけないのは、自分だったら暑い日にカッパを着たくないなという感覚。極力ブドウに寄り添いたくて」
千曲川ワインアカデミーの第一期生で、『ミリ・ボーテ』を営む中根靖さんも、ブドウ畑へのまなざしはやさしい。
「少しの変化でも見逃さず、適した時期を予見し、適した作業をする。10年やって、やっとブドウのことがわかってきました」
千曲川左岸、空にせり出す御牧ヶ原(みまきがはら)でワインを造る『ジオヒルズワイナリー』の富岡隼人さんもアカデミーの一期生。父親の始めたブドウ畑を継承し、2018年には自社ワイナリーを設立した。
「右岸に比べ、左岸はより強い粘土質。その分、根を張る速度はゆっくりですが、年数が経つほど力強いブドウの樹が育つんです」
町なかにも新たな芽吹きが。レトロでコンパクトな小諸の町を、移住組と地元民が新たな魅力として発信。その中心的存在、『NOVELS(ノベルズ)』の岡山千紗さんはこう語る。
「商都で外からいいものを取り入れてきた小諸の方々は、移住組の私たちを快く応援してくれた。『NOVELS』が、暮らしと観光が交わる、町の差し色になるような場所になってくれたらうれしいです」
『ジオヒルズワイナリー』風吹き抜ける丘でブドウを栽培
「ここはテーブル状の台地の上。風は通るし、富士山や北アルプスも遠望できます」と富岡さん。毎年、品種ごとに細かく栽培方法を変え、理想のワイン造りを模索している。ワイナリー2階のカフェではベトナム料理を提供!
☎0267-48-6422
10:00~16:00(ランチは11:30~14:00)、月~金休(祝の場合は営業)
長野県小諸市山浦富士見平5656
JR小海線・しなの鉄道小諸駅から車12分
『ミリ・ボーテ』元教員が営む美しきヴィンヤード
標高約820mの高台にあった荒れ地を開墾し、ブドウ畑に。「自分のブドウ畑が美しい丘陵風景の一部となれて、うれしい」と中根さん。消毒は必要最小限で育てたブドウを使ったワインは、ミディアム~ライトな味わいで香り華やか。
☎090-6488-4117
直売所訪門は要予約
長野県小諸市菱平1072-2
JR小海線・しなの鉄道小諸駅から車10分
『テールドシエル』瓶に詰めたのは糠地の風と土の薫り
糠地地区で10種のブドウを栽培。野生酵母で発酵し、無濾過(ろか)・無清澄(せいちょう)にこだわるのは「心に残るテロワールをワインで表現したいから」と桒原さん。垂直式プレス機を用い、36時間もかけてブドウを搾ることで雑味のないクリアな味わいに。
☎090-7268-2583
『NUKAJI WINE HOUSE』の直売所訪門は要予約。
宿泊は1泊素泊まり6000円~(一日1組・20歳以上限定。10名まで)、12~3月休
長野県小諸市滋野甲4162-512
JR小海線・しなの鉄道小諸駅から車11分
『そば蔵 丁子庵(ちょうじあん)』街道の老舗で手繰る霧下そば
寒暖差があり、標高1000mほどの朝霧の出る場所で育つ小諸のそばは、風味が抜群。「そのそばを小諸の硬水で打つと、喉ごしよく仕上がるんです」と10代目。小諸発祥のくるみそばなどで、新そばの香りを堪能したい。
☎0267-23-0820
11:00~18:30LO、無休(12~3月は火・水休)
長野県小諸市本町2-1-3
JR小海線・しなの鉄道小諸駅から徒歩5分
『CLOVE CAFÉ(クローブ カフェ)』小諸城の大手門横にそばスイーツの新店
築約100年の古民家を改修し、昨年開業。ここを拠点に町を散策してほしいとの思いから、そばクレープやそばガレット各800円~など、ワンハンドグルメがそろう。店長の夫が果樹農家のため、秋のリンゴなど季節の果実のパフェも。
☎0267-46-9900
11:00~18:00、木と12~3月休
長野県小諸市大手1-5-22
JR小海線・しなの鉄道小諸駅から徒歩2分
『NOVELS(ノベルズ)』旅と暮らしが混ざり合うパレット
ゲストハウス、カフェバー、古書店が一体となり、旅人も地元の人も憩える場所に。カフェバーでは地元のクラフトビールや世界のナチュールワイン、サイフォンで淹れるコーヒーなどを味わえる。店内の古書は自由に閲覧OK!
☎0267-46-9867
8:30~21:00LO、火・水休
1泊素泊まり4900円~。ドミトリー2室・個室1室
長野県小諸市相生町2-1-3
JR小海線・しなの鉄道小諸駅から徒歩3分
取材・文・撮影=鈴木健太
『旅の手帖』2025年10月号より