共生と発展目指す 本村市長インタビュー
年頭にあたりタウンニュースは本村賢太郎相模原市長にインタビューを行った。本村市長は人権条例、A&A事業、今後のまちづくりなどについて語った(2024年12月5日取材)。
――2024年の市政において最も大きな成果は何だったとお考えですか?
「相模原市は2024年、市制施行70周年を迎え、11月20日の市制記念日に記念式典とさがみはら未来会議を開催しました。昭和29(1954)年の市制施行から始まり、合併を経て政令指定都市へと発展する歴史を振り返ると、戦後生まれの自治体として唯一の政令指定都市となったことは大きな節目だったと思います。政令指定都市になり行政権限が強化され、財源の増強などがあり、今の相模原市があります。周年を迎えたことで、より深く過去を顧みることができ、多くの市民とその点を共有できたことは大きな成果です」
――一方、24年に直面した最も大きな課題と、その対応策について教えてください
「人権条例の制定が最も大きな課題だったと感じます。審議会で約3年半にわたり慎重に審議いただいた後、議会の皆様のご審議を経て、最終的には修正なく可決されました。条例案の提案に至るまでには、本市の実情に即した形を目指し、多くのご意見を受けながら進めてきました。これを機に、共生社会の実現に向けてさらなる取り組みが必要だと考えています」※相模原市人権尊重のまちづくり条例は、一人ひとりがかけがえのない個人として尊重され、互いの人権を認め合う共生社会を実現することを目的に制定。令和6(2024)年4月1日以後、順次施行
「10月には人権侵害を受けて悩んでいる人に対して相談窓口を開設するとともに、不当な差別的言動の解消を図るため、インターネットパトロールを開始しました。今後は、不当な差別的言動が行われるおそれがある場合の公共施設の利用制限や、不当な差別的取扱いを受けた市民等の救済制度の運用を含め、4月までに必要な対応を進める予定です。また、啓発用のパンフレットを作成し、市民の皆様に広く人権意識を深めていただけるよう努めてまいります」
――教育や子育て支援の分野についてはどのように力を入れましたか?
「子ども医療費助成の対象を中学生から高校生世代まで拡大し、中学生までの所得制限も撤廃しました。さらに、『休日一時保育』を新設し、理由を問わず一時的に子どもを預かる体制を導入しました。これにより、首都圏では先駆的な支援体制が整備されました。現在は緑区で実施しており、今後は南区での実施も予定しています。また、児童の安全を守るため、スクールガードリーダーの配置も始めました。今後、市内各警察署の管轄区域へ配置を拡大予定です」
「不登校対策としては、スクールソーシャルワーカーを増員し、子どもたちの居場所づくりにも注力しています。ただ、不登校の子どもは令和4年度の約1800人から今年度は2000人を超え、増加傾向にあります。市内には通信制高校やフリースクールが増えていますが、市が把握できている通学者はわずか80人程度にとどまっています。フリースクールは私立のため月4〜5万円の費用がかかり、経済的な負担が課題です。市としては、教育支援の把握強化とフリースクールへの支援拡充を検討し、誰一人取り残さない教育環境を目指していきます」
――市の都市計画事業「麻溝台・新磯野第一整備地区土地区画整理事業/A&A事業」についての動きはいかがですか?
「新たな産業拠点の整備に向け、来年度からの本格的な工事開始の準備が進行中です。北部及び南部地区を含む麻溝台・新磯野地区全体として、進出予定の企業群による経済効果への期待は大きく、特に税収増による市民サービスの向上が見込まれています。参考事例として挙がるのは、千葉県印西市のデータセンター事業です。同市は、データセンターの誘致によって税収増を実現し、子育て支援施策の充実や教育環境の整備に大きく貢献しました。相模原市も同様の成功モデルを目指し、税収増による市民生活の向上を図りたいと考えています」
多くの人に選ばれるまちに育てる
――2025年以降に市政が取り組むべき優先課題について、どのように考えていますか?
「行財政改革の終盤を迎えるにあたり、積極的な施策の推進が不可欠と考えています。特に、投資的経費(道路・橋りょう、公園、学校、公営住宅の建設等社会資本の整備に要する経費)の確保と効果的な活用が重要です。令和6年度予算では一般会計のうち投資的経費の占める割合は7・4%ですが、適切な予算の組み換え等によって新たな財源を確保し、将来的には10%程度まで投資を増やしていきたいと考えています。老朽化が進む道路や下水道などのライフライン整備をはじめ、必要な大型事業への投資を着実に進める必要があります」
「同時に、『子育てするなら相模原』というビジョンを掲げる以上、子育て支援施策も充実させなければなりません。東京都では0〜18歳への年額6万円給付や保育料の一部無料化、学校給食費の無償化など積極的な政策が進められています。相模原市としても隣接する自治体の動向を意識し、競争力のある政策を展開することが急務です」
――市長になられて6年目をむかえます。改めて本村市長の基本姿勢はどのようなものでしょうか?
「市長としての基本姿勢は、『事実を伝えること』と『率直な意見を受け入れること』です。行政運営においては、現状を正確に伝えることで、市民や議会、職員が課題を共有し、共に解決策を見出すことが重要だと考えています。夢や理想ばかりを語るのではなく、現実的な課題に向き合い、市民と行政が力を合わせて乗り越える体制を築くことが不可欠です」
「ただし、経済人や市内中小企業の声が行政に届きにくい現状も認識しています。『行政に何か言うと仕事に影響してしまうかもしれない』と懸念し、意見表明をためらう方もいるかもしれません。そのような声を拾い上げるためにも、もっと意見交換の場を設け、話しやすい環境を整える必要があると感じています」
「職員に対しても、『都合の良い話だけを報告するのではなく、厳しい意見や批判も必ず上げるように』と指示を徹底しています。現場の声が届かなければ、リーダーは『裸の王様』になってしまうため、常に率直なフィードバックを受け入れ、改善策を講じることが重要だと考えています」
――最後に今後10年間で、相模原をどのようなまちにしたいと考えていますか?
「これからの10年間で、相模原市を『子育てするなら相模原』『教育を受けるなら相模原』『起業するなら相模原』と多くの人に選ばれるまちに育てていきたいと考えています。そのためには持続可能な社会基盤を確立し、思い切った政策を積極的に打ち出していく必要があります。まちづくりの中心には、やはり市民の皆さんとの対話があります。市民の声を聞き、一緒に未来を描きながら、選ばれるまちを目指して前進していきたいと思います」