『ウィキッド』上映中の盗撮・SNS拡散が相次ぐ事態に ─ 違法行為か、口コミ効果か?『デッドプール&ウルヴァリン』がきっかけとも
アメリカで大ヒット中の映画『ウィキッド ふたりの魔女』が、思わぬ議論を巻き起こしている。上映中の映画館におけるカメラ撮影と、著作権を無視した写真や映像のSNS拡散だ。
アリアナ・グランデ&シンシア・エリヴォ主演の本作は、既存のミュージカルファンだけでなく、若い世代の新たな観客を集めることに成功し、ブロードウェイ・ミュージカルの映画化作品として米国オープニング興行収入の歴代記録を更新。その一方、映画館のマナーとモラルを無視する観客も少なくないことが問題となっている。
発端は、とあるファンが『ウィキッド』上映中のスクリーンを撮影し、「みんなの『ウィキッド』写真を見せて」とXにこと。これをきっかけに、上映中の写真をシェアするユーザーが続々と現れるようになった。現在は写真だけでなく、本編の名シーンやクライマックスがさっそく動画で盗撮され、XやTikTokにアップロードされている。
これらの投稿は『ウィキッド』や出演者に対する支持と愛情を表明するものだが、明らかに重大な著作権侵害であり、観客の映画体験に有害な影響を与えるものでもある。一連の問題は、『ウィキッド』が米国で公開された11月22日からわずか数日の間に起こった。本国のファンはもちろん、2025年春まで映画を観られない日本のファンはとりわけ注意が必要だろう。SNSの仕様上、こうした写真や映像は意図せずとも目に入ってしまいかねない。
もちろん、アメリカの映画ファンもこの事態には憤っている。上映中の撮影とSNSでの拡散を受けて、SNSでは「こういう人たちを劇場から追い出すべきだ」との声が広がり、大手映画チェーンのAlamo Drafthouseも「(盗撮は)やめなさい」と警告の引用ポストを。
Alamo Drafthouseのマーケティング部門を統括するチャヤ・ローゼンタール氏は、米に対し、「上映中のスマートフォンの使用は固く禁止しています」と強調。「多くのインフルエンサーがSNSで自己表現をしたい、自分の体験をコミュニティに共有したいと考えていることは受け入れていますが、写真は上映前に撮影し、その体験はロビーで楽しんでほしい」と述べた。
ローゼンタール氏によると、映画スタジオは「上映中は携帯電話の使用を禁じる」という映画館の方針に基本的に同意しているとのこと。また米によれば、配給のユニバーサル・ピクチャーズは違法映像の削除に積極的に取り組んでいるようだ。しかし、大手スタジオの著作権侵害対策は主に全編の流出阻止を目的としており、断片的な映像が大量に投稿されることには対応しきれないともいわれる。
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同じくVarietyは、「コロナ禍を経て、映画館での行動は変わってしまった。(若い観客は)映画と別の関係をもっている。彼らにとってはすべてがコンテンツなのだ」と嘆く業界幹部の声を紹介している。今夏の大ヒット作『&ウルヴァリン』でも盗撮映像が大量に拡散されたが、主演のライアン・レイノルズとショーン・レヴィ監督がその行為を黙認するどころか、自ら拡散してファンと交流したことが分岐点になってしまったとも。
ひとつの問題は、映画業界の一部で、“たとえ違法であれ、映像や写真の投稿にはプロモーション効果がある”との考えが存在することだ。いかなる形にせよ、SNSの写真・映像や口コミを通じて映画館の動員が増えるのであればよい……という発想は、法的問題や創作者の考え方とは必ずしも相容れずとも、いまやビジネスとしては無視できない領域なのだろう(レイノルズ&レヴィの行動は、本人たちの意図にかかわらず後者に立っている)。
ちなみに『ウィキッド』では盗撮・拡散問題のほか、「上映中にファンが歌い出す」ことも物議を醸しており、大手映画館チェーンのAMC Theatresが「上映中は歌わないよう配慮を、全員の映画体験を守って」と呼びかける事態に発展した。ユニバーサル・ピクチャーズは“シング・アロング・バージョン”を12月25日から米国公開することを決定しており、それまでは上映中の歌唱を控えるよう求めている。
映画の公開前から、アリアナ・グランデも「(一緒に)歌いたいという気持ちは理解できるし、尊重するけれど、ポップコーンや携帯電話を投げつけられるようならばやめたほうがいい」と発言。なお、『モアナと伝説の海2』に出演しているドウェイン・ジョンソンは、この問題について「歌っていい。頑張って稼いだお金を払ってミュージカルを観るのだから、ぜひ歌って」とが、SNSでは「私たちは映画にお金を出しているのであって、観客の歌を聞くためにお金を出すのではない」「ミュージカル=歌っていいわけではない」といった激しい批判を受けている。
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