社会問題のつくり方~困った世界を直すには?~
荻上チキさんの新刊『社会問題の作り方~困った世界を直すには?』が、翔泳社から発売されました。
世の中に存在する、さまざまな不公正で理不尽なシステムやルールたち。「おかしいな」「いやだな」と思って口に出しても、「それはお前のわがままだ」と怒られる。でも、それって本当に「わがまま」なんだろうか……?
さまざまな社会理論紹介から、組織づくりや広報活動、ロビイングのHOW TOまで、個人の「困りごと」を「社会問題」として捉えなおし、世の中を動かすための方法を物語形式で紹介している一冊です。
今夜は、なぜ、いまこの本を書いたのか、著者のチキさんへのインタビューです。音声と文字起こしでお楽しみください。
南部:ここからは今日限定のコーナーです。バリューブックスpresents「荻上チキの社会問題のつくり方」。
今月チキさんの新刊『社会問題のつくり方 困った世界を直すには?』が翔泳社から発売されました。世の中に存在する様々な不公正で理不尽なシステムやルールたち。「おかしいなぁ」とか、「嫌だなぁ」と思って口に出しても、「それはお前のわがままだ」と怒られる。でもそれって本当に「わがまま」なんだろうか?
様々な社会理論紹介から、組織作りや広報活動、ロビイングのHow toまで、個人の困りごとを社会問題として捉え直し、世の中を動かすための方法を物語形式で紹介している1冊です。今日は、どうして今この本を書いたのか、著者の荻上チキさんにうかがっていきます。
荻上:はい、私が荻上チキですお願いします。
南部:インタビューです、はい。チキさんといえばこのSessionのみならず、社会調査支援機構チキラボで、いろいろと社会問題を、データをもとに明らかにしてきていますが、そういったノウハウもこの本には詰め込まれているんでしょうか?
荻上:そうですね。この書籍がなぜつくられたのかの背景なんですけれども、私以前、PHP新書というところからですね、『いじめ生む教室』という本を出したんですね。あの本というのは、自分が「ストップいじめ!ナビ」という団体をしていて、そこで発信している活動内容というものを書籍にして、その過程の中でいじめ研究の実際というものはどうなっているのか、いじめはどうやったら減らすことができるのか、それをまとめた本なんですよ。
今回の本は、実は同じ担当編集者で、PHPから翔泳社というところに編集者の方が転職されて、そこでも「やっぱチキさんの本を出したいです」ってなったときに、私が社会調査支援機構チキラボという活動をしていて、そこの活動内容というのをフォローしてくださっていて、この活動であるような、「社会を動かす」というのはどういったことなのか、そのノウハウっていうのが意外と世の中に本として広がっていないと。
たとえば具体的に法律を変えたりとか、記者会見をしたりとか。テレビを見たら、「法律が変わりました」とか、「記者会見がされました」とか、「当事者が訴えてます」っていうニュースは入ってくるんだけど、そのニュースをつくってる人、あるいはそのニュースの当事者となる人が、どういうアクションをして、その報道にまでたどり着いたのか、法改正にたどり着いたのか。そこがなかなか透明化されてない、伝わっていない。
南部:たしかに。特別な人しかできないって、やっぱり報道を通して見ると思っちゃいますもんね。
荻上:そうすると、どうしても他人事になってしまったり、あるいはジャッジするだけの側になって、「自分は遠くから見てるだけの側だ」と思い込んだりしまうんだけれども、「実はできるよ」ってことを伝えるために、今回一冊の本にまとめたということです。
南部:タイトルにもなっている、この「社会問題をつくる」っていうのは、どういうふうに捉えたらいいですか?
荻上:世の中には、ずっといろんな社会問題があるんだけれども、これは明確に社会で「つくる」っていうことをしなければ、人々がその問題に気づくこともなければ、解決されることもないんですね。
南部:あー、たしかに。
荻上:たとえば社会科学の分野では、「社会問題が社会構築される」っていう、少し難しい言い方をするんですけど、これはどういうことかというと、問題がそこにあったとしても、それを問題だというふうに社会で認識して、問題だというふうにわからなければ対応できない。
南部:そうか、広く共有することも大事なんだ。
荻上:たとえば今日のニュースにあったヤングケアラー。「ヤングケアラー」という言葉がつけられて、なおかつ、そこの当事者たちの声も伝えられて、一方で今の法律の抜け道というか、穴のようなものが指摘されて、「これはちゃんと対処されなきゃいけない社会問題だ」ってなったから対処されるようになったわけですね。
南部:そうか、セッション始まった当初でしたもんね。本が出て著者の方に来ていただいて、ヤングケアラーを特集して。「そっか、”名づけ”があるんだ」って、私そのときすごくびっくりしたのを覚えてます。
荻上:そこで名付けて、なおかつメディアで報じたりして、なおかつ政治などの世界でも共有する。このことによって、ようやく「社会問題」としてつくられるんですね。社会問題にしなければ、個人問題ということにされてしまうんですよ。
南部:「自分だけかな」って思っちゃいますもんね。でも、(社会問題としてつくられれば)「みんなそうなんだ」「この感覚、みんな共有していることなんだ」「体験者はこんなにもいたんだ」っていうのが可視化されますもんね。
荻上:そうですね。「個人問題の社会問題化」というふうにも言ったりするんですけど、実は1人ひとりの問題だと思っていたら、結構共通で同じような問題があり、なおかつ、その問題があることによって、社会がより脆弱になったりとか、社会がより不安定になったりすることがある。それは「誰にとってもプラスじゃないよね」っていうことが確認された状況になって、世界が動き始めていくっていうところがある。なので、その状況をどうやってつくるのかってことをまとめています。
南部:出版のタイミングって、いろいろとね、本を出すにあたって、準備とか人の繋がりとかあると思うんですけど、ここでつくろうって思ったのは何か理由があったんですか?
荻上:経緯は先ほど言ったように編集者の方に声をかけられたからというのもあるんですが、この間、たとえばインターネット上などでハッシュタグアクティビズム、ネット上でデモをするとか、あるいは実際に街でデモをするとか、いろんな仕方での社会行動というのはあったと思うんですよ。署名活動とか、寄付とかね。ロビイングとか陳情とか。
いろんな仕方があるんですけれども、それらを自分より下の世代、先ほど来ていただいた能條さんも含めて、本当にアクションとして日々取り組んでいらっしゃる。そうしたような活動を一通り自分も見てきたし、関わってきた立場から、「こうやるんだよ」っていうところが、意外と市民に伝わっていないようなところもあるので、それを伝えようと。
荻上:で、この『社会問題のつくり方』って本、造りが絵本みたいになってるんですよね。
南部:そう、とても読みやすくて。私、友達のお子さんたちにこれ読み聞かせしたんですよ。そしたら、「おー!」って。「ニュースで見てるのって、そういうことなのね」っていう感動が小学生たちからありました。
荻上:この本、複数のキャラクターをつくって、そのキャラクターたちが自分の置かれている理不尽に気づき、その理不尽というのは耐えなきゃいけないものじゃなくて、「変えていいものなんだ」って気づくというところから物語がスタートするんですね。
荻上:架空の少数者というものをこの作品の中ではつくっていて、それが「ツノつき」と呼ばれるツノが生えているキャラクターと、「トゲつき」っていって、恐竜のように背中からトゲが生えているキャラクター。そうしたキャラクターが、この社会においては差別されても構わないという法律が、なぜかつくられている。
たとえば「ツノやトゲがある人は、賃金がそれ以外の人より3割安くてもいい」とかですね。そういった、いろいろな理不尽がある。そういったツノは外に出るときは隠さなくてはいけないとか、仕事をする際にはそのことをまずは開示しなきゃいけないとか。あるいは通学するときはそれを削らなくちゃいけないとか。
でもこれって現実社会にある理不尽なルールの、ある種比喩でもあって、そうしたものを「おかしいな」と思っている人たちが、そのおかしさを口に出して変えていくプロセスというものを、物語にしたんです。
南部:そう、まさに小学生たち「言っていいんだ!?」「我慢しなくていいんだ!?」っていう感想を口に出していました。
荻上:やっぱり、「自分が何をしたいのか」っていうことを考えるためには、「自分は何が嫌なのか」っていうことを知るっていうことがとても重要で、でも「嫌だ」って言えないことによって自分の欲求とか、いろんな考えが狭められてしまうということがあったりしますよね。
なので、これは子ども向けにも大人向けにも書いたんですけれども、子どもは、たとえば学校校則とか、家の中の理不尽なルールとか、あるいは日常の中で大人から強いられたり、周りのいじめとかから与えられる同調圧力に対して、「それ、やだな」っていうふうに言えるような、そんな道具にできたらなと思いましたし、大人になって、たとえば大学生とか高校生とか、あるいは専門学校とか社会人とか、いろんな立場にいる方が、「何かを訴えるって、どうすればいいんだろう」っていうふうに、問題に直面したときに、この本が一つのガイドになってくれればなということで書きましたね。
南部:私、今50代、「我慢しなさい」っていう時代をずっと生きてきたので、このチキさんの『社会問題のつくり方』を読んで、「もう我慢しなくて、嫌なことは嫌って、言っていい社会になっているんだな」って再確認しました。
荻上:なおかつ、この本では「繋がる」っていうことを訴えていて。1人で目の前の人に「NO!」って言うのって、結構難しい。言い返されたり、やり返されたり、よりひどい目に遭うかもしれない。でも同じような人たちとともに、「このような状況を改善していこう」というふうに訴える。そのためには、やはり同じような当事者たちが繋がっていきながら、それを政治の枠組みにどう伝えていくのか。この本は、そうしたメディアの使い方とか、あるいは民主主義社会での議会の特徴とか、役割とか、そうしたことも説明しながら、社会問題をつくっていく方法をまとめています。
ちなみに絵本テイストであると同時に、これを本にする際に、グラフィックノベルとかバンドデシネとか、そうした本にしたいっていうことで、編集者の方と相談したんですけど。イラストレーターの方がKOPAKUさんという方で。
このKOPAKUさんという方が、インスタグラムなどを初めとして、いろんな媒体で独特のテイストで絵を描き続けてる方なんですね。そのテイストは、たとえば植物とか、あるいはツノとか、あるいは、ある種のダークさを持ったテイストのイラストというものが特徴的な方なんですけれども、今回はより子どもにも見せられるようにということで、ポップなキャラクターをつくっていただいたと。
南部:「バンドデシネっぽく」っていうのはチキさんの希望だったんですか?
荻上:僕の希望です。バンドデシネというのはフランスの漫画なんですけれども、そういったテイストにしたいっていうことで完成したのがこの一冊ということになりますね。
南部:ぜひ多くの方に読んでいただきたい。
荻上:読んで欲しいんですよ!