まるでルアーフィッシング? 寄生虫<サヨリヤドリムシ>はクロダイ稚魚の摂食行動を利用すると判明
魚類寄生虫として知られるウオノエ類は、魚の様々な部位に寄生することが知られる等脚目の生物です。
ウオノエ類についてはまだわかっていないことが多く、ウオノエ類がどのように宿主を見つけ出し、寄生するのかは謎に包まれています。
そこで、京都大学日本学術振興会特別研究員・藤田大樹氏らの研究グループはウオノエ科のサヨリヤドリムシとクロダイの稚魚を用いた実験を行い、サヨリヤドリムシが寄生する際に宿主の摂餌行動を利用していることを明らかにしました。
サヨリの鰓腔に寄生するウオノエ
360種以上が含まれているウオノエ科は世界中に分布する等脚目の1グループであり、淡水、汽水、海水、様々な魚に寄生します。
また、ウオノエ類は鰓腔(さいこう)、口腔、腹腔、体表に寄生するタイプに分けられ、寄生する部位は属や種によって特異的です。
日本で最も見られるウオノエ類の1つ「サヨリヤドリムシ」は、名前の通りサヨリを宿主とするウオノエ類で、サヨリの鰓腔に寄生すること知られています。
サヨリヤドリムシはクロダイ稚魚にも寄生する
サヨリヤドリムは名前にもある通り、サヨリに寄生するというイメージが持たれますが、サヨリは終宿主であり、中間宿主としてクロダイの稚魚を利用することも分かっています。
実際、広島湾におけるクロダイ稚魚は個体密度(一定の面積や体積に存在する個体数)が高いにもかかわらず、サヨリヤドリムシのクロダイ稚魚への寄生率は最大79.5%と非常に高いことが分かっているようです。
一方、ウオノエ類の寄生では、雌の成体がマンカ幼体(子ども)を海水中に放出し、マンカが自由遊泳して宿主を探すとされていましたが、サヨリヤドリムシを含むウオノエ類がどのようにして宿主を探し寄生するのかは分かっていませんでした。
藤田氏らの研究グループは、サヨリヤドリムシのマンカがクロダイ稚魚の摂食行動を利用しているという仮説を立て実験を実施。サヨリヤドリムシのマンカがクロダイ稚魚に寄生する仕組みを明らかにしました。
クロダイ稚魚とマンカを用意して実験
この仮説においては、餌生物が大量に存在する条件下ではクロダイ稚魚がサヨリヤドリムシを食べようとする頻度は低下し、サヨリヤドリムシの寄生成功率が下がると予想されました。
それらの仮説を立証するため、クロダイ稚魚を餌生物となるアルテミアの幼生(ノープリウス幼生)がいる条件といない条件で、サヨリヤドリムシの寄生成功率を調査しています。
実験では合計100個体の非寄生のクロダイ稚魚を1個体ずつ水槽に入れ、サヨリヤドリムシのマンカを1個体を海水と共に滴下。アルテミア幼生を添加する水槽では1水槽あたり3000個体のアルテミア幼生を加え、マンカ滴下後、10時間にわたって動画撮影が行われました。
クロダイ稚魚の摂食行動を利用
実験の結果、クロダイ稚魚がマンカを餌として食べようとした際、クロダイ稚魚の顔に張り付き、その後、少しずつ移動し鰓に寄生することが判明。この研究では、寄生方法がまるでルアーフィッシングのようだと表現されています。
また、アルテミア幼生が存在する条件下では寄生成功率が32%であったのに対して、アルテミア幼生が存在しない条件下では60%と仮説通りの結果に。さらには、寄生成立までの平均時間においても、アルテミア幼生ありの場合は3時間11分50秒だったのに対し、アルテミア幼生なしの場合は1時間2分12秒とアルテミア幼生の有無で有意差があることが示されました。
また、偶然の接触による寄生は寄生されたクロダイ稚魚46固体中10個体であり、自然環境では偶然の接触は起こりにくいと考えられることから、サヨリヤドリムシは寄生する際、クロダイ稚魚の摂食行動を利用し、効率を高めていると考えられています。
ウオノエ類の寄生方法は引き続き検証が必要
今回のサヨリヤドリムシとクロダイ稚魚を用いた実験は飼育下で行われたため、自然界では実際どのように寄生しているのか検証する必要があると述べられています。
今後の研究で、ウオノエ類の寄生方法がまた解き明かされていくのが楽しみですね。
(サカナト編集部)