「美樹本晴彦画集『MACROSS』展 〜 重唱 〜」トークイベントレポート&インタビュー|ファンからの鋭い質問も!? NGなしで何でも答える
美樹本晴彦さんのマクロス関連のイラストを集めた、初の「マクロス」シリーズ画集『美樹本晴彦画集「MACROSS」』が3月31日に発売。そこで掲載されたイラストを使用した展示会「美樹本晴彦画集『MACROSS』展〜重唱〜」が、横浜 サブウェイギャラリーMにて、2025年7月22日(火)〜7月27日(日)まで開催されました。
独自技術とクリエイティビティを駆使し、2次元であるデジタルアートと3次元のフィジカルアートを横断し、新たな体験価値を創造するアートブランドGAAATによる表現技法で新たに生まれ変わったイラストの数々。展示されたイラストには、美樹本さん自身が加筆を行っていたのだという。その展示期間中の25日に行われた美樹本さんによるトークイベントの模様をレポートします。
なお、展示会「美樹本晴彦画集『MACROSS』展〜合唱〜」が、2025年8月13日(水)から9月9日(火)まで、大阪のなんばマルイ2F/3F特設会場で開催されます。
美樹本晴彦さんは、『超時空要塞マクロス』のキャラクターデザインを手掛け、リン・ミンメイというアイドルを世に放ったクリエイターです。その後、『超時空要塞マクロスII -LOVERS AGAIN-』(キャラクターデザイン)、『マクロス7』(キャラクター原案)でも多くの人気キャラクターを生み出しました。マクロス以外でも『メガゾーン23』『トップをねらえ!』『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』『甲鉄城のカバネリ』などのキャラクターデザインや原案を務めています。
そんな美樹本さんが、企画段階から関わっていた『超時空要塞マクロス』から、これまで描いてきたマクロス関連のイラストを集めた、初のマクロスシリーズ画集『美樹本晴彦画集「MACROSS」』が3月31日に発売されました。
本稿では、展示会と合わせて実施されたトークイベントをレポート。また、イベント終了後に美樹本さんに行ったインタビューもお届けします。
【写真】「美樹本晴彦画集『MACROSS』展 〜 重唱 〜」イベントレポート&インタビュー
ファンからの鋭い質問も!? NGなしで何でも答える、トークイベント
展示会「美樹本晴彦画集『MACROSS』展〜重唱〜」のトークイベントでは、まず画集についてのエピソードが語られました。かなり前から画集の企画は動いていたのだそうですが、いろいろなトラブルも重なり、マクロスの35周年に間に合わず、40周年も過ぎてしまったとのこと。また、元の原稿が見つからずに紛失してしまった絵は、古い印刷物から起こしており、その際、AIでモアレ(網点と呼ばれる細かい点の集合で色を表現する際に発生してしまう縞模様のこと)を解消させるなど、最新の技術も取り入れながら、かなりこだわって作業をしていったことが語られます。そのほかにも、美樹本さん自身のこだわりを詰め込んだ画集の制作期間は足掛け8年。「最初から、この画集に関わっている人は、僕と版元の担当の方だけでした」と笑っていました。
そして、今回の「美樹本晴彦画集『MACROSS』展」に展示されているイラストに関して、当時の絵柄をなるべく活かした画集とは異なり、美樹本さん自身が、元の絵を活かす形で多少手を入れたもので、画集とは違うバージョンになっている絵も多いとのこと。
GAAATが提案する新しいアート体験として、専門の職人が一つひとつ丁寧に手作りで仕上げるメタルキャンバスアート。これは、金属製のキャンバスをベースに、UV塗料を塗り重ねることで、金属ならではの光沢感、立体的な描写、優れた耐久性を実現したもので、今回展示されていたイラストも、実際に見ると、紙に印刷されたものとは全く異なる質感でした。特にバルキリーなどの表現は、このメタリックなキャンバスにかなり合っていたように思います。また、美樹本さんの初期のイラストの特徴である、アナログの色使いはそのまま活かされていて、ここぞという部分を立体的に見せているような印象でした。
トークショーでは、展示されていたいくつかのイラストを例に、そのエピソードを語っていきます。ミンメイの横顔を描いた「横顔」については、「一時期、挿絵などを鉛筆で描いている時期があったので、その頃に描いた絵なのではないかと推察していて、「個人的に気に入っている絵なんです」と語ります。
熱気バサラとミレーヌが描かれた「ツイン・ボーカル」については、ミレーヌと横並びにしたときに、熱気バサラの髪型によって、ミレーヌとのバランスが取れずに苦労したそうで、この時ばかりは「邪魔くさかった」と言って笑わせていました。また、『マクロス7』はキャラクター原案での参加で、アニメのデザインとも少し違っていたことから、アニメ放送中は上手く描けない時期があり、苦しんでいたことなども話していました。
横浜での限定展示となった、リン・ミンメイのイラスト「看板娘!」は、今回のメタルキャンバスアートの作業をした職人に対し、下のタイルのピンクの色みを少し明るくしてほしいと、何度か指示をして、ギリギリまで調整し完成させていったのだといいます。元データのまま忠実にということではないお願いなので、作業をしてくださっている方の感覚が大事なんです。このように、どの展示イラストも、細部に至るまで、美樹本さんの深いこだわりが込められていることが感じられました。
その後は、美樹本さんの希望で、長い時間が設けられたイベント参加者からの質疑応答へと移っていきます。ここでは、『超時空要塞マクロス』からファンの方や、比較的若い方までが、緊張しながらも自分の聞きたいことを質問していくことに。
「美樹本晴彦先生の1日のスケジュールは?」という質問では、朝早く動いたほうが調子がいいということで、朝5〜6時には起きていると話し、背景の資料撮影が必要なときは、夜中に出かけて明け方から撮影をしたりしていると答えていました。
また、デジタルでの作業について質問する方も多かった印象。線画を取り込んで、CGで仕上げていくスタイルの美樹本さんは、何度でも修正ができるという点で、CGで色を付けていくことが、もはや必須になっているのだそうです。ただ、その中でも、アナログ的な発想で、手描きっぽく仕上げられないかをいつも考えていると話していました。
「先生はリン・ミンメイ派か、早瀬未沙派か?」という禁断(?)の質問に対しては、「それは難しいですね。どちらとは言えないけど、ミンメイみたいな子がいたら振り回されるほうでしょうね。未沙はちょっと怖いかなと思うので、最終的にどちらでもないです。ちなみにどっち派なんですか? (“未沙”という答えに)じゃあ掃除に来て、ポスターを逆さまにされたりしたいんですね(笑)」と答え、笑わせていました。
『超時空要塞マクロス』のキャラクターデザインに関して、TVシリーズで、髪型や衣装を変えることはご法度とされていた時代、それを主張し、受け入れられたことは大きかったと語ります。また、クローディアは黒人の女性としてスケッチを描いていたものを、スタジオぬえの方に気に入ってもらい採用されたというエピソードから、「映画やドラマで、俳優さんが今までと違うイメージで使われているときは、結構いい作品になっていることが多いと感じているんです。なのでキャラクターデザインも、ミスマッチというか、変化球的なもので面白いものを引き出せるような手伝いになれたらいいなと思うことはあります」と話していました。確かに、マクロスの艦橋においてクローディアの存在は、物語にも、かなり大きな影響を及ぼしていたように思います。
また、思い入れのあるキャラクターとしては、迷いなくリン・ミンメイを挙げました。スケッチブックに描いたチャイナ服の女の子が、その原型になったというのは有名な話で、まだアニメーターとして実績のないイラストレーターが、TVアニメのキャラクターデザインに抜擢されたのですから、美樹本さん自身の人生を大きく変えたのは事実でしょう。「ミンメイは、存在として自分とは切り離せないです」という言葉は、短くも、とても重みのある言葉でした。
トークコーナー後のインタビュー|美樹本さんが描きたい理想の絵は?
──トークイベントは、ファンの方からの質問を多く受け付けていましたが、皆さん、美樹本さんのイラストへの想いを語ってから質問されていましたが、それを聞いていかがでしたか?
美樹本:まず、こんなに暑い中、来ていただけるだけでありがたいことです。今は『マクロス』シリーズ本編には関わっていないわけですけど、画集を出させていただき、こうやって展示会に来て、質問をいただけるのは、とてもありがたいことでした。ただ、皆さんからの想いというのは、私の絵というより、『マクロス』シリーズという、作品の力が大きいのかなと思います。
──AIなどでイラストが生成できる時代になりましたが、ミンメイのような個性的なキャラクターを生み出す、もしくは絵描きさんの個性を出すには、どんなことをしたらいいと思いますか?
美樹本:イベントでも少しお話したんですけど、ドラマなどで実際の女優さんが、これまでと違う役どころで出演し、面白く化けたときの良さというのはあると思っていて、そんなギャップ感をキャラクターでも作れたらいいなと思うんです。どうしても、こういうタイプの子って、こういうパターンだよねっていうのができてしまっているので。そこをちょっと崩したところから、違うものを作れないかということは意識していますし、工夫をしているところです。
──イベントでは、他のイラストレーターの絵の話も出ていましたが、影響を受けたりはするのでしょうか?
美樹本:最近は上手い方が多いので、絵を見る機会は多いのですが、誰か特定の方を追いかけたりはしていないです。ただ、キャラクターとしてというより、絵の勉強はしなければなと思っています。たとえばデザイン的な処理とか、髪の毛の描き方とか、本当に上手い方が多いので……。あとはアニメ調の仕上げが増えているというか。昔でいうところのセルアニメ調ではないですが、デザインとしてすごくセンスが良い仕上げのイラストが増えていると思うんです。それは自分にはできないことなので、やってみたいなと思っています。
──彩色をCGにしたことによって、時間はかかるという話もされていました。今、デジタルカメラが進化していったことで、逆にフィルムカメラが流行ったりしています。またアナログに戻してみようと考えたりはしますか?
美樹本:CGに切り替えたのは、手描きでそんなに器用に描けないからなんですよ(苦笑)。また、CGにすることで、自分で集めた写真の素材などを使って、かなり幅を広げることができたんです。ただ、写真をそのままで使うというのは、私的には避けたいと思っていまして……。デザインとして使う場合はいいんですけど、絵の一部としてそれはやってしまったらキツいなと感じたので、素材を使うにしても、自分なりに色々な方法で自分の絵とのバランスは常に取ろうとはしています。そういうプロセスを考えることも楽しいので、アナログに戻そうとはあまり考えていないんですね。
人物に関して言うと、スタッフに着彩用のマスクを作ってもらうために、線画をアニメ調にして、細い線で描いているんですけど、たまに手描きっぽさがほしいなと思うときは、濃いめの鉛筆のざらついた線で描いたりして、それに色を付けたりしています。そういう作業は、たまにやるとやっぱり面白いですね。
──キャラクターではなく、普通の女性イラストも個人的に好きなのですが、表情はどんなことを意識して描いているのでしょうか?
美樹本:アニメーターさんとか、漫画家さんが描く絵の影響はもちろんあって、特に安彦良和さんの影響は相当受けているんですけど、そこから少しでも脱したいなと思うと、やっぱり女優さんとかタレントさんを見ますね。映画やドラマなどでいいなと思ったりした表情や雰囲気は参考にします。絵も、絵描きの精神状態が出ると思うのですが、それってなかなか見分けられないんです。でも、女優さんって、恋をしているときとか、結婚したあととか、ちょっと変わるじゃないですか。その変化が出るのは人間の強みだなと思うので、そういったものも絵で表現できればいいなと思うんですけど、難しいですね。
──こんな絵を描いてみたいな!と思うような、理想の絵というのはあるのでしょうか?
美樹本:ちょっとやってみたいなと思うのは、どストレートな美人画的なものはやってみたいですね。境目の特定はあまり意味がないんですが、アニメやイラスト系ではなく、画家と言われる方の描く美人画を見ていると面白くて。最近ではアニメの影響を受けていたりする方もいらっしゃるみたいで、単にリアルだけでなく、イラスト的な魅力を持ちつつ、存在感がすごく強い絵を目にしたりするので、こういう絵が描けたらいいなと思うんですけど、なかなか難しいです(笑)。
美樹本晴彦画集『MACROSS』展 〜合唱〜
会場:大阪(なんばマルイ2F / 3F 特設会場)
会期:2025年8月13日(水)〜9月9日(火)
開催時間:11:00〜20:00
※8月19日(火)は施設休館日のため、終日休業となります。
公式サイト https://gallery.gaaat.com/pages/mikimotoharuhiko