沖縄発イノベーションの挑戦 行政支援と知財戦略で世界へ「第2回沖縄イノベーションカンファレンス開催」
沖縄から世界規模の革新を生み出すことができるか―。スタートアップを軸に、沖縄からのイノベーション創出を探る「第2回沖縄イノベーションカンファレンス」が、那覇市の那覇オーパ内「O2 OKINAWA OFFICE」で開催されました。 内閣官房や科学技術振興機構(JST)、内閣府沖縄総合事務局などから登壇者を迎え、行政による充実した支援制度や知的財産戦略について議論が交わされました。 中でも注目を集めたのは、50億円規模の支援が可能なSBIR制度(中小企業技術革新制度)や、大学との連携による研究開発の可能性など、沖縄のスタートアップが活用できる具体的な支援策の数々です。 カンファレンスでは「from Okinawa to The World」をテーマに、沖縄発のイノベーション創出に向けた新たな可能性が示されました。
デジタル技術で地方創生を加速、行政とスタートアップの連携を強化へ
内閣官房デジタル行財政改革会議事務局参事官補佐の鈴木裕也氏は「新地方創生本部との連携と公共調達における知財の扱い」と題して、人口減少社会における行政サービスの課題と、その解決に向けたデジタル技術活用の取り組みについて説明しました。 「今、日本各地で公共サービスの提供が困難になっている状況が起きています」。鈴木氏はそう切り出しました。一例として挙げたのが介護分野。この20年間で約57万人の人材不足が起きていると言います。 こうした人手不足の課題に対し、一つの対策と考えているのがDXです。効率化の一環で、政府は全国1800の自治体のシステム統一化による効率化を進めています。 「これまでは供給者目線の政策構築になっていたが、利用者の方々にしっかりと目を向け、デジタル技術を最大限活用していく必要があります。統一化、効率化を図る中で、現場負担を減らしながらサービスの質を向上させていく」と鈴木氏は説明します。
スタートアップの公共調達市場への参入促進も目指しています。国の公共調達市場約25兆円のうち、創業10年未満の企業からの調達は1%にとどまっています。 「この1%を2%、3%と増やしていけば、5000億円、7500億円と市場が広がっていく。スタートアップにとって安定的な収益基盤になる可能性があります」と鈴木氏は期待を示しました。 一方で、公共調達における知的財産保護の課題も浮き彫りになっています。 「経営層では認識されていても、現場ではうまくいっていないもある。スタートアップ側も行政に対して知財の重要性をうまく伝えられていない場合があります」と鈴木氏は指摘し、年度内にガイドラインを策定する方針を示しました。
研究開発の可能性を広げるJSTの資金支援制度
続いて、文部科学省所管の国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)サイエンスポータル編集部の滝山展代氏が登壇し、研究開発における資金支援制度について説明しました。 JSTが実施する次世代研究者挑戦的研究プログラムは支援金額の規模の大きさが一つの特徴です。 「年間6000万円から7000万円程度の支援を、比較的長期間にわたって受けられる制度もあります。一般的な科研費のような数百万円規模の短期支援では実現が難しい研究にも取り組める可能性があります」と滝山氏は制度の特徴を説明しました。 ただし、「審査のハードルは高い」(滝山氏)と言います。そこで、滝山氏はスタートアップに次のようなアドバイスを送りました。 「大学の研究室と連携することをお勧めします。特に国立大学は研究費獲得のノウハウを持っています。研究室のホームページを見て、教授に声をかけていただければ、共同研究の可能性が広がるかもしれません」
革新的な研究開発を支援するSBIR制度、最大50億円規模の支援も
スタートアップの資金調達につながりそうな魅力的な制度の説明はまだまだ続きます。内閣府SBIR省庁連携プログラムマネージャー兼NEDO NEPアドバイザーの柳原暁氏が登壇し、SBIR制度(中小企業技術革新制度)について説明しました。 SBIR制度の特徴は、基礎研究から事業化まで、全ての段階で支援を受けられる点です。支援は3段階に分かれており、第1段階では1年以内で300万から3000万円、第2段階では最大2年間で1000万円から数億円、そして第3段階では数十億円規模の支援を受けることができます。 「この制度の目的は、市場がまだ形成されていないものの、社会的に重要な技術の事業化を支援することです」と柳原氏は説明します。支援対象となる技術分野は、5Gの実現や小型衛星の打ち上げ、再使用型宇宙輸送システムなど多岐にわたります。 「この制度に採択されたスタートアップがその後、約498億円の調達につながったケースもあります。沖縄から世界を変えていく、社会を変えていくようなディープテック関連スタートアップを目指す方々に、ぜひ知っていただきたい制度です」。 柳原氏はそう呼び掛けて、説明を締めくくりました。
知財戦略と行政連携で世界に挑む、スタートアップの可能性
カンファレンス終盤、キュレーションズ株式会社取締役CSOの渡邊貴史氏をモデレーターに、前述の登壇者3氏と内閣府沖縄総合事務局の経済産業部地域経済課知的財産室の丸慶彦氏の計4人がパネリストとなって、知的財産権とディープテックの研究開発戦略についてパネルディスカッションを行いました。 内閣府SBIR省庁連携プログラムマネージャー兼NEDO NEPアドバイザーの柳原氏は「事業戦略と研究開発戦略と知財戦略の三つを切り分けて考えているスタートアップは少ない」と指摘し、「知財戦略はリード投資家を選ぶのと同じくらい重要だと捉えてほしい」と強調しました。 また「課題解決につながる研究成果や知財が実現すれば、ビジネスモデルは後からでも勝てる」と、技術力の重要性も説きました。
丸氏は特許戦略について「スタートアップは資金的な制約から、大企業のように多くの特許は取れない。だからこそ競争優位性を発揮できる強い特許を一つ取ることが重要ではないか」と低減しました。 また、海外出願は日本で出願した日から1年以内という期限があることも指摘し、「特許は20年で切れるため、周辺技術や改良技術を継続的に押さえていく必要がある」と長期的な視点の重要性を強調しました。 情報開示の注意点として、「世の中に出してしまうと特許が取れなくなる」と丸氏は警告。一方で「スタートアップはPRしながらスケールしていく必要がある」とし、「口頭ででも秘密保持に関する約束を結んでおけば『公知の事実』とはならない」と実践的なアドバイスを提供しました。
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のサイエンスポータル編集部の滝山氏は、大学との連携の可能性を強調しました。「もっと大学を活用してほしい。今ある資源で戦うしかない中、大学の研究力は重要な武器になる」と提言しています。 最後に、内閣官房デジタル行財政改革会議事務局参事官補佐の鈴木氏は「これからは行政側の人材も減少し、むしろ行政がスタートアップを必要とする時代になる」と展望を示し、「行政をうまく活用してほしい」と呼びかけました。 丸氏も「沖縄総合事務局内に知財担当は私一人だが、弁理士やINPITという専門チームと連携して支援できる」と具体的な支援体制を説明。 柳原氏は「知財保護の分野に『これに従っておけばOK』というものはない。一度、外部に出たら取り戻せない不可逆的なものだ。大切に考えてほしい」と締めくくりました。
充実する沖縄のスタートアップ支援制度
内閣府沖縄総合事務局経済産業部長の長嶺さおり氏はカンファレンス終盤のゲストスピーチに立ち、経済産業省などが実施している多彩なスタートアップ支援制度について説明しました。 「経済産業省のホームページでは、経営課題や事業分野ごとの支援策を確認できます。ぜひ積極的にご活用ください」と呼びかけました。 長嶺部長は「私たち行政は、スタートアップの皆さんの挑戦を全力で応援し、ともに成長していくパートナーでありたい」と語り、今後の支援策の充実を強調しました。
スタートアップの新たな連携を目指して
カンファレンスを主催した一般社団法人交通都市型まちづくり研究所の漆畑慶将代表理事が閉会のあいさつに立ちました。 漆畑氏は今回のカンファレンスのテーマ「from Okinawa to The World」について、「沖縄を舞台にしたグローバル化における発掘・連携・交流を目指しました」と説明しました。 漆畑氏は「このイベントを機に新たなつながりが生まれることを期待しています。次回の第3回に向けて、皆様からのご意見もいただきながら、さらに面白い取り組みを発掘し、お届けしていきたい」と今後の展望を語りました。 50億円規模の資金支援や知財戦略のノウハウ、行政との連携機会など、スタートアップを後押しする環境は着々と整ってきています。その環境を最大限に活用する起業家たちの情熱とアイデアが加われば、沖縄発の革新的なビジネスが世界に羽ばたく日も、そう遠くないのかもしれません。 沖縄県内のスタートアップがそのビジネスモデルや今後の展望について語ったカンファレンス前半の様子は、こちらの前編記事で詳報しています。
今回の一部内容をTVにて放送!
一般社団法人交通都市型まちづくり研究所、北海道文化放送・沖縄テレビ放送と共同で 「BOSS TALK in 沖縄」の取り組みを実施へ https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000053.000086707.html