子どもが生理前でつらい「PMS 月経前症候群」 親子で知っておきたい対処法とは〔子どものフェムケアを産婦人科医が解説〕
「子どものフェムケア」について産婦人科医・海老根真由美先生に取材。日本人女性の7~8割が不調を訴える、PMS(月経前症候群)の思春期の子の対応法など。(全2回の2回目)
不登校になったら進路はどうなる? 学校には行かない子どもに起きた変化生理が近づくと、なんだかイライラしたり、悲しくなったり、体が重く感じたりする……。そんなことを感じた人は多いと思います。それは、もしかしたらPMS(月経前症候群)かもしれません。PMSは、思春期の女の子にも多く見られる心と体のゆらぎ。ですが、それは決して特別なことではありません。
「白金高輪海老根ウィメンズクリニック」院長の産婦人科医・海老根真由美先生に、PMSのこと、そして今の女の子たちにぜひ知っておいてほしい大切なことを教えていただきました。
「PMS」日本人女性の7~8割が何かしらの不調
──まずはPMSについて教えてください。
海老根真由美先生(以下、海老根先生):PMS(ピーエムエス)とは、「月経前症候群(げっけいまえしょうこうぐん)」のことです。生理の前になると、心や体にいろいろな不調があらわれることがあります。こうした症状は、生理が始まると自然におさまるのが特徴です。
日本では、7~8割の女性が生理前に何かしらの不調を感じていて、その中でも、特に強い症状で困っている人は5%ほどいるといわれています。しかもPMSは、思春期の女の子にもよく見られることがわかっています(注1)。
注1:日本婦人科学会
https://www.jsog.or.jp/citizen/5716/
──どのような症状があるのですか。
海老根先生:心の面では、イライラしたり、落ち込んだり、なんだか不安な気持ちになったり、夜なかなか寝つけなかったり。学校の勉強に集中できなくなる子もいます。
体の症状としては、頭が痛い、お腹が張る、胸がチクチクする、だるい、めまいがするなど、人によって本当にいろいろです。「お腹がすいた!」と、無性にごはんが食べたくなったりするかと思えば、反対に「食べたくない」となったりする子もいます。
写真:mapo/イメージマート
ピルや漢方を使う前にまずは生活の見直しを
──治療方法はあるのでしょうか。
海老根先生:薬を使う場合は、ピルや漢方薬を使うことがあります。ピルには、排卵を止めてホルモンの変化をやわらげるはたらきがあるので、それで症状が軽くなる人もいます。
ですが、私がまず伝えたいのは、「薬の前に、ちょっとだけ自分の生活をふりかえってみてほしい」ということです。というのも、つらさの原因がホルモンだけとは限らないからです。
たとえば最近、「なんだかイライラする」「頭が重い」「眠れない」と感じることがあったとしたら、昨日の夜、何時に寝たかを思い出してみてください。スマホをずっと見ていた、ということはなかったでしょうか?
あるいは、「体がだるい」「集中できない」と思う日があったら、今日、何を食べたか思い出してみてください。朝・昼・夜と、3食きちんと食べたでしょうか?
成長の途中にある10代の体は、大人よりずっとたくさんの栄養を必要としています。ですから、ダイエットなどでごはんの量を減らしていたりすると、それだけで体調が悪くなってしまうことは決して珍しくありません。
「しっかり寝る」「きちんと食べる」それだけで不調が改善することも
──生活を見直すことが大事なのですね。
海老根先生:そうなのです。私のクリニックにも、「PMSかもしれない」と感じて受診する人がたくさんいます。頭痛やお腹の痛み、気分が落ち着かない、不安で眠れない……。それぞれ、いろんなつらさを抱えています。
ですが、よく話を聞いてみると、実は夜ふかしをしていたり、ごはんをあまり食べていなかったりする人も少なくありません。そういう生活を続けていると、体が本来の元気をなくしてしまい、余計につらく感じてしまうのですね。
「しっかり寝て」「きちんと食べる」それだけで不調が改善することも
反対に、しっかり寝て、きちんと食べるだけで、「気づいたら、前より元気になっていた」という人もたくさんいます。
写真:アフロ
PMSは「がんばりすぎ」のサインかも
──受診する以外にも、自分でできることがあるのですね。
海老根先生:もちろんありますよ。そして、もうひとつ大切なのは「がんばりすぎないこと」です。
今の女の子たちは、本当にがんばっています。勉強に部活に習い事と毎日忙しく、見た目のことだって気になる年ごろです。がんばることは素晴らしい一方で、体にとっては大変なことです。
本来、女性の体は、「生理が来て、大人になって、妊娠・出産をして、年を重ねていく」というサイクルを自然にくり返すようにできています。
でも今の社会では、女の人も仕事で結果を出して、たくさん働いて、立場を築いて、そのうえで妊娠・出産・子育ても……と、全部をやろうとしています。それって、ちょっと無理をしすぎているように思います。
PMSなどの不調は、その「がんばりすぎ」のサインかもしれないのです。
生理前の体調のゆらぎは「女性だからこそ」と前向きに!
──「もっと気楽に、自分の体を大事にしていいよ」というメッセージなのですね。
海老根先生:まさにそのとおりです。私が周産期医療の現場で働いていたころ、命がけで赤ちゃんを産むお母さんたちをたくさん見てきました。その経験から思うのは、「赤ちゃんを産めるって、すごいことだ」ということです。
たとえば、研究の分野で世界一といわれるノーベル賞をとるのもすごい。けれど、赤ちゃんを産んで育てるのも、同じくらいすごい。ですから、生理がくることも、生理前に体調がゆらぐことも、「女性だからこそ」の大切なサインだと思ってほしいのです。
PMSで受診した、ある受験生のお母さんがこんなふうに話していました。「こんなに頭が痛かったら、勉強なんてできません。どうして女の子には生理があるのでしょうか……。男の子に比べて不利すぎますよね」
その気持ち、とてもよくわかります。つらいときには、「どうして自分だけこんな思いをしなきゃいけないの?」と思ってしまうのは自然なことです。ですが、生理があること、子どもを産むことができることは、女性にだけ与えられたすごい力でもあります。
どうか生理を悲観しすぎずに、「自分の体には、そんな力があるのだ」と、少しだけ前向きに受けとめてほしいと思います。そして、生活を整えてもまだ不調が気になるときは、遠慮せずに婦人科に相談に来てくださいね。
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ホルモンのゆらぎによるPMSは、体の自然なリズムのひとつ。でも、もしかしたらそのつらさの背景には、睡眠不足や栄養不足、がんばりすぎている毎日があるかもしれません。
だからこそ、まずは「自分を大切にする生活」を心がけることが大切であることを海老根先生から教えていただきました。
家庭内では、「しっかり寝る、ごはんを食べる、そしてちゃんと休む」。生活を整えても子どもがつらそうにしているときは、悩まずすぐに婦人科を頼りましょう。
取材・文/横井かずえ
海老根先生の思春期のフェムケアは全2回