厳冬の風物詩!波打ち際のモコモコした白い泡<波の花>から新種の細菌を発見 泡に因んだ学名が命名
日本海で発生する「波の花」という現象。波打ち際にモコモコと白い泡が大発生する様子は、冬の日本海の風物詩とされています。
この現象は波や風により発生した泡が有機物によって安定化され積もったものであり、中には多糖類を多く含んでいます。そしてこの泡には多糖類をエネルギー源とする生物も暮らしているのです。
今回、東京大学大気海洋研究所の研究グループは波の花に着目し、泡の中から未記載種の細菌を発見しました。この種は7月7日に「International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology」で公開された論文で新種記載されました。
冬の日本海で見られる「波の花」
波の花は能登半島など、冬の日本海でよく発生する自然現象です。
この現象は風や波で作られた泡が有機物により安定化され、海岸に積もることにより現れます。海岸に蓄積した泡は白くてモコモコしたような感じとなり、風で泡が舞い上がる様子は厳冬の風物詩です。
また、波の花の泡は海面で破裂することにより、海中の有機物などをエアロゾルとして大気中へ放出していることがわかっています。
地球の気候にも関与
海の表面に豊富に存在する高分子有機物は細菌の活動などにより生じた物質です。
これらは海洋生態系において重要な役割を担っているとされる他、雲の形成といった地球の気候にも関与しています。そのため、これらの動態を理解することは、大きな意義があるようです。
ウェルコミクロビア門の細菌
中でも、海の中でも全体の約2パーセントを占めるという、ウェルコミクロビア門の細菌たちは、近年の研究で他の細菌が分解することが難しい、硫酸化多糖類を分解する能力を持つことか示されています。
このことから、ウェルコミクロビア門の細菌たちが注目されているものの、培養で困難であり、研究は進んでいません。実際に、ウェルコミクロビア門は77種しか記載されていなかったようです。
そのため、ウェルコミクロビア門の細菌における生態や役割などの多くは謎に包まれていました。
波の花から新種発見
そうした中で、東京大学大気海洋研究所の研究グループは波の花に多糖類が多く含まれていることに着目しました。多糖類をエネルギー源とする細菌が生育していると考えたのです。
研究では2020年12月24日に能登半島北西部の海岸で、波の花とその周辺の海水を採取。その後、実施された分離培養では、得られたサンプルから合計640株もの細菌を得ることに成功しています。
また、この株からはウェルコミクロビア門に分類される新規株が同定され、Oceaniferula属の細菌であることが判明。この種とOceaniferula属の既知種を比較した結果、未記載種であることが分かり、Oceaniferula spumae と命名されています。
なお、種小名の“spumae”はラテン語で「泡」を意味するようです。
海洋有機物の分解に関与
今回の研究では波の花から新種の細菌を記載することに成功しました。また、ゲノム解析により Oceaniferula spumae が海洋有機物の分解に大きく関与している可能性も示唆されています。
そのため、本種は海洋の炭素循環を理解する上でも重要な手がかりとされているようです。今後の研究で本種のより詳しい生態や働きが明らかになるのが楽しみですね。
(サカナト編集部)